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クズ、校長と会う


「ぬわああああん、疲れたあああ!」

「疲れたって、あんた何にもしてないでしょ」

「嫌あれよ、クッソどうでも良い魔法の話だぜ? ここの教師よりも俺の方が魔法出来るから」

「確かにそうだけど……」


 俺の魔法に関する知識や技術はこの学校全体は勿論のこと、この王国でも上位の方に居座ることが出来る。そのため俺は、勉強をしなくても点数が自然と取れてしまうのだ。


 俺が思うに努力は確かに成功という道へ繋がる大切なものだ。だけどそれが、必ずしも成功するとは思わない。努力をするだけで物事が解決するのならば、もうこの世の中から戦争は消えるだろう。俺が魔法を上手く扱えるのは趣味の読書とこの体質のおかげだ。


「ザックっていつも思うけど訓練以外はずっと寝てるよな」

「そうだよ。だって楽しくないし暇だし」

「よく寝る子は育つと言うけどザック育ってないよね」

「う、うるせえ!!」

「ザックは前から何番目だったかしら?」

「前から四番目だったよねー」

「ザージュだって俺と変わんないじゃねえか!」

「けど僕の方が背は高い」

「……大丈夫、私からは高い」

「いいか、時に同情は悲しみを生むんだよタシターン……」


 このクラスの背の順において、俺は男子の中だと四番目、ザージュは五番目、女子の中ではタシターンは一番目、エリカは六番目だ。女子から見たら俺はやや高く見えるが男子の中ではやや低く見えてしまう。とても悲しいことだ。


「そうだザック! 服屋に行きましょ!」

「嫌だ。何で俺が、お前の服を探さないといけないんだ。お前も年頃の女なんだから一人で選べるだろ、それにタシターンからもアドバイス貰ってけ」

「……ザックのバカ 独りで選ぶもん!」

「おいおい、そんなに走ると横腹に机が……」

「ぎゃ!?」

「当たると言ったのに」

「はあ、ザック。こういうのは君を誘ってたんだよ」

「知ってるよ、だけど俺がエリカと共に行動すると非常に疲れるから嫌だ。それとやりたいことが残ってる」

「……絶対気づいていなかった」

「バカ野郎、お前女から愛されるのザック様だぞ? 前々から気づいてたから」

「嘘だね」

「……バレバレの嘘」

「嘘じゃねえよ、亀甲縛りにするぞ」


 俺のやりたいことはテラーの家にあった魔術書を読破することだ。見たことのない種類の本だったし、特に面白そうだったからな。……それにしても、ただでさえも希少な存在の魔道具を二つも所持していたのはおかしい。テラーは何処から入手したのだろうか、もしかしたら裏の組織が王都を混乱に陥れるために与えたのだろうか……。



『一年B組のザック・ドーフ君、校長がお呼びです』

「ひゃい!?」

「ザック、君は何をしたんだ……」

「待て待て待つんだ! 俺は特に何も……」


 何故俺にアナウンスが鳴ったのかそれを裏付ける理由を探した。


 えーと。入学試験の際に闇魔法をぶっ放したこと、カフェで半分バイトをしていること、勝手に校舎を出たこと、違法賭博をしたこと、盗撮して詐欺をしたこと、のどれかか全部だな。全てに心当たりがあるんですけど……。


「……ザックのことは忘れない」

「ふざけんじゃねえ! 退学しても侵入してやるからな!」

「それはただの泥棒だね」

「ち、違うから。パトロールだよ、うん」

「どさくさに紛れて盗みそう」

「ちょっと変な偏見を付けないで貰いたいね。ということで俺行ってくるわ」

「おう、またな」

「バイバイ」

「……何か違う意味の様に聞こえる」


 俺は校長室へと向かう、顔を青ざめながら。



★☆★☆



「し、失礼ひます!」


 俺は校長室のドアに立ち、ノックを鳴らして入る。俺は緊張で声が裏返ってしまい、とても恥ずかしい。

 中に入ると立派な髭を蓄えた老人が居る。


「おおっ、よく来てくれたねドーフ君。さあ、座りなさい」


 よく来てくれたね、じゃねえよ。お前が呼んだんだろうがよ、この年齢だから校長ボケてんじゃないのか。


 俺は校長が指示したとおりに、椅子に座った。高級感溢れる皮張りの椅子で俺にとっては不慣れなものだった。


「そうじゃのう、君の活躍は知っておる。魔王の幹部を一人倒したそうじゃないか、しかも君独りだけで」

「はい、そのおかげでクラスから孤立しかけましたけどね」


 魔人を倒した後に、俺の班以外からは恐怖という感情が俺に定着していた。男子たちには俺の盗撮写真で関係は改善されたが、問題は女子だ。俺が話掛けようとすると戸惑いの色がみえるからだ。どうやって解決するのかが俺にはわからないでいた。


「まあ、強い者は必ず孤立するというのは必然的ですがね。フハハハハ!」

「そうかなのか? 真に強い者は皆に愛されると思うのだが?」

「幾ら何でも全てが完璧な強者なんて存在しないのです。そういう理論を説法するのは大抵、恵みを貰わないと生きられない弱者と理想論を語る宗教者なんですよ」

「ほほう、君の理論は確かに正しい。弱者の場合はその強者に助けて貰おうという意図が読めて、宗教者の場合は、己の崇めている神を最強の強者として語っているからのう」


 俺は椅子の目の前の机に置かれていたお茶を飲み干した。



「さて、雑談は止めて本題に入りましょう。何故、私を呼んだんですか?」

「……君には一年早く卒業して貰おう」

「つまり軍は私を欲しているのですか?」

「そうじゃ、ただし君の尊重も反映させるつもりだ。それについて聞きたいから呼んだのじゃ」

「勿論、軍に入隊したいです」

「祖国を思う気持ちか?」

「私に愛国心などはありません。だって私たちの学年は全員徴兵されてるんですから」

「……そうだったの、すまない」

「いいえ、逆にこういう機会が回って来たと考えると幸運だと思います。魔王による戦争はそろそろ開戦するでしょう。その際に私が手柄をたてて階級を上げれば、軍のエリートになれる可能性がありますからね」


 この士官学校は、最初の戦場から上等兵という立ち位置が貰える。そこから戦場で活躍したりすると階級が上がり、俺はそれを使って階級を上げていこうと思うのだ。最低でも小隊を持てれば少しながらも遊びながら暮らせるしな。


「そうか、けど初陣の方で士官学校を卒業して間もない生徒の致死率が高いのじゃぞ?」

「まさか、魔人を倒した私が初陣で死ぬとでも?」

「うむ、ごく僅かな可能性であっても危険に変わりわない」


 なるほど、校長は俺を引き留めようとしているのか。確かに教え子をたくさんの命を失う戦場へ送りたくない気持ちはよくわかる。ここは、俺自身の決意を言わないとダメだな。



「……校長先生、私は賭けが好きで、己の立場を上げるためには己の命を賭けれる自信があります。確かに一年生を戦場に送るのをどうにかして阻止したい気持ちはわかります。しかし、それが覚悟をして決めた私自身になるのかをよくよく考えてください」


 教育者は生徒が望む道へと背中を押さなくてはいけない。決して教育者が生徒の手を引っ張って、生徒が望まない道へと進めてはいけないのだ。



「わかった。では、来年で卒業で良いのだな?」

「はい」

「では、そう書いておこう。さあ帰って友達と一緒に僅かな学生生活を楽しみなさい」

「はい、では失礼しました」


 俺は椅子から立ちあがり、ドアから出ていった。チラリと校長の方へ振り向くと、書類を書いていた。多分俺に関する書類だろう。もう後戻りは出来ない、と確信した。



ぜひブクマお願いします。

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