クズ、別世界から脱出する
「あ~、スッキリした。にしても、あのテラーの奴が最初は気取ってた癖して死ぬ前のクソ情けない断末魔とかマジで笑うわ」
実際は、あの音で攻撃するタイプの楽器系魔道具にだけ苦戦していただけであって、それ以外は何も苦戦しとらんしな。最初の攻撃を防いだのもあの魔道具に察知されたと俺は考えている。余談だが、声が出せなくなる現象もあの魔道具によるものだろう。声さえ出せなくすると魔法の詠唱も出来ないからだ。
「さてと、タシターンちゃんは何処に居るかね。やっぱりあの家かな」
こんなに王都にそっくりな街なんだ。テラーの家自体が存在していると思う。そして、何故彼女を誘拐したのかがわかった気がする。
俺はテラーの家に向かうことにした。
★☆★☆
「タシターンちゃーん、救いに来たぜ!」
ドアを蹴飛ばして大きな声で呼び掛ける。当然、何の返事も帰ってはこなかった。家の内装は現実世界においても変わった箇所は見られない。しかし、現実世界ではしなかった血の匂いが強く臭う。臭いの出所は地下室のようだ。
「……まさかな」
俺は最悪な事態を想定しながら、俺は下の階に下りていくことにした。
「無事かタシターン!」
俺は地下室に到着してすぐに確認を取る。椅子に縛られたままのタシターンが居た。疲れたているのかとてもぐったりしている。俺は真っ先に椅子に結ばれた縄を解いた。椅子の隣にはあの姿見鏡が置かれている。
「大丈夫かタシターン!」
「……ザック」
「もう心配しなくてもいいからな、ところでケガした所は無いか?」
「何処にも無いから安心して」
「……そうか」
……タシターンは何かを隠している。ケガの様子は見られない、恐らく心の傷だろう。そりゃあそうだな、こんな年半ばの少女が恐ろしい思いをしたんだからな。心に傷を負った時にはこうしろとダロンも言っていたからやってあげるか。
「タシターン」
「ザ、ザック?」
俺は彼女に抱擁をした。彼女の心拍が俺の体に伝わるほど近い距離だ。
「怖かっただろ、よく耐えてくれたな」
「け、けど。ザックの方がボロボロ……」
「俺の心配なんかするなよバカが。いいか、俺は使い捨てのナイフみたいな奴だから、むしろこういうことには慣れっこなのさ」
「ザックは使い捨てなんかじゃない! だってザックは優しいし」
「まあまあ、そんなことは今考えることじゃないだろ? 誰にも言わないでやるから俺の胸の中でお前の感情を暴露しておけ」
「……うわあああん!!」
彼女は何かが切れた様に俺の胸の中で泣いた。俺の制服が彼女の涙で濡れるのを感じた。制服の背中部分に彼女の強く握ってきてやや痛かったが、今回だけは許すことにした。
……これで良いのだろうか、ダロンよ。
その最中、切なさと懐かしさという二つの感情が俺の中で浮上した。
★☆★☆
「……もう大丈夫か?」
「うん、落ち着いた」
タシターンはようやく落ち着いたらしい。溜めていた涙を一気に放出したからだろう、そのおかげで制服が濡れてしまったが。
「……じゃあ、帰ろう」
「そうだな、こんな気味が悪い空間なんか嫌だしな」
「……それとザック、貴方は決して使い捨てじゃない」
「いいやタシターン、所詮俺は使い捨て。数は少なくなったけどそれは変わらないのだ」
「違う! ザックは……」
「俺はむしろそれに感謝しているつもりだけどね。だって使い捨てられるという結果がわかっているのだから、技術を付けて少しでも生き延びようとする努力が出来たんだからさ」
「でも、不満とかは無いの?」
「不満か、強いていうなれば……」
「普通が欲しかった」
「それって……」
彼女が俺に質問を問いかけた時に、地下室に駆け込んで来た奴がいた。そう、殺した筈のテラーだ。
「な、何で此処が!?」
「どうやらお喋りは終わりだ。ようテラー、あんな爆発を喰らっても生きているとは大したものだ」
「う、うるさい! 私には夢があるんだ!」
「なあ、一つ質問があるんだけど」
「そこを退いたら話してやる!」
俺はテラーの指示に従い、彼女を俺の後ろに隠す様にして移動する。テラーは大きな深呼吸をして落ち着きを取り戻したようだ。彼は姿見鏡の目の前まで移動した。
「……あんたはどうして人を攫うんだ? 愉快犯ということか?」
「愉快犯なわけかろう、私は紙芝居を描く時が一番つらい、何故なら内容が思いつかないのだ。だけどね、子供を手紙で呼び出して、それをこちらに運び出す。そして最後に殺すんだ。そうすると紙芝居の内容が浮かんでくるんだ」
「結局は愉快犯ってことか」
「そんなわけなかろう、私は子供たちを喜ばせるために子供を殺すのだ」
「へぇー、子供を殺すと内容が思い浮かぶのか」
「そうだ、悲鳴が骨組みを作る。死が骨組みに肉を付けるんだ」
「なおさら放置出来なくなったな」
「ふん、もう遅いわ!」
テラーは体を姿見鏡にめり込ませて現実世界へと帰っていく。俺は鋼線を伸ばして、現実世界に居る彼の殺害に努めることにした。
「はあはあ、鏡から出ればこっちのものだ! この鏡に布を被せればな!」
テラーは付属している布を被せようとした。恐らく、この魔道具は布が被されているときには吸い込まれるという現象は起きないが、被せていない時には吸い込まれてしまうという現象が起きるのだろう。
「これで私の勝ち。……あがッ!?」
俺の鋼線がテラーを捕まえた。テラーは頭と両腕、両足を縛られ、空中に浮く。この地下室に来た時に仕掛けておいた罠と連動して起きたのだ。彼の体は別々の方向に引っ張られる。
「い、イダイイダイイダイイダイ!!」
「フハハハハハ! どうしたんだ紙芝居屋のテラー、死の世界で行う紙芝居の内容を考えられるな」
「う、腕と脚が切れかけている証拠の音を鳴らしている!!」
「そうだな、そろそろお前は千切れるだろう」
「し、死にたくない! 助けてくれ!」
「無理だね、慰謝料を払ってもこれは無理だ」
「あっ、アアアアアアっ!?」
「じゃあな紙芝居屋のテラー、黒蜘蛛の血抜き術」
「ベバッ!?」
テラーの体は鋼線に引っ張られてバラバラに千切れた。血の雨をを降らせ、残った胴体が重力に逆らえずに落ちた。彼の頭部はベットの下に転がった
この光景を見て、俺は彼がタシターンに渡してあった本に掲載さてれいた民謡を思い出した。
一人の男が死んだのさ
すごくだらしの無い男
頭はごろんとベッドの下に
手足はバラバラ部屋中に
ちらかしっぱなしだしっぱなし
子供に片付けの大切さを学ばせる歌だっけ、確かブリテニア王国の民謡から出典されたんだよな。まあそんなのはどうでもいいか、タシターンに合図を送ろう。
現実世界に戻る前に縄を彼女に渡して鏡の世界から出た。それは、出た先で攻撃されないかを確認するためだ。縄を引っ張って安全という合図を送った。俺はその前に彼女の視界を無くせる様なサイズの布を取り出して、鏡の前で待つ。
「……大丈夫、あうっ」
「はーい、良い子は見ちゃだめよー」
「何をするの? それに何か臭う」
「見たら卒倒しちゃう光景だから見たらいけないんだ。お分かり?」
「……殺したの?」
「あぁ殺した。確実に」
「……そう」
顔の半分が見えなくても彼女が哀し気な顔をしているのが目に見える。テラーの血液がたっぷり付着して濡れた制服を脱ぎ捨てる。ややシャツにも付着しているが気にしない。
「悪いけど、俺はこういうことしか能にないんだ」
俺は彼女にそっと言う。心の中が切なさで縛られている様な気分になって、俺は強い不快感を覚えた。
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歌はマザー・グースから出典。