表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/36

クズ、犯人との戦い


 大通りに多数の岩が飛んで、それを鋼線で弾いたり砕いたりしている光景は何て奇妙な状況なのだろうか。俺は鋼線を使って防衛ばかりして相手の魔力切れを待つ、鋼線使いにとってわざわざ攻撃を仕掛ける戦いは向いていない。基本的には相手の体力を奪った時を狙ったり、俺の目の前まで近づいて来た時にしか攻撃はしない。ゆえに鋼線の技は、罠やカウンター技が多い。


「どうしたのですか、まだまだ攻撃は続きますよ」

「……あんたの方こそ大丈夫なのかい?」

「何?」


 テラーの背後に張っていた鋼線を引き寄せる。うまくいけばテラーを両断できるし、外れたとしても一周だけ隙が生まれるのだ。それを俺は考えており、俺の鋼線はテラーの背後の一メートルまで迫っていく。


 確かに早く詠唱して魔法を撃つのに関してはスゴイと思う。だって独学であそこまで成し遂げたんだからな、それでも俺には到底勝てないがな。



三拍子(スリーリズム)


 彼は拍子木を三回ほど鳴らす。辺りに拍子木独特の甲高い音が響き渡ると、不意に迫っていた俺の鋼線の感覚が消えた。いや、正確には切られた(・・・・)という表現が正しいだろう。


 鋼線が斬られたか、だとしたら奴は何で切ったのかがわからないな。まあ、俺の方が強いのは確かだろうが。


「……七拍子(セブン・リズム)

「ぐおっ!?」


 彼が拍子木を再び、違うリズムで叩く。すると不意に何かによって斬られたかの様な感覚に陥り、俺は後ろへ飛び退いた。そして俺の服がやや切られているのに気づいた。


 ……見えなかった。確かに斬撃か何かが飛んできたのはわかったが、風魔法ではなかった。ただし、俺が斬られていることに気がつかなかったら俺は胴を両断されて死んでいただろう。まさか、防刃の魔法付き制服まで斬れるとか危ない魔道具だな。


「おや、普通なら両断できるんですがそれを躱すとは……」

「あいにく、俺の魔道具も見えない攻撃に近いのでね。そういうのには鋭いんだ」

「そうですか、ならばこれはどうでしょうか」


 テラーは適当に拍子木を鳴らし始めた。先ほどのリズムを取りながらの攻撃ではない、適当と言ったほうが正しいだろう。見えない斬撃は、俺の体に幾つかの傷を付けていく、鋼線でも防げないということなので俺は王都に似た街の中をひたすらに逃げ回る。



「ちくしょう、何だあの魔道具! もう斬撃すらも見えないとかふざけてるだろ……」


 俺は何とかして薄暗い倉庫裏の狭い道に逃げ込んだ。周辺には警戒網を張り巡らせておいたため、いつでも逃げれる様になっている。


 あーもう服もボロボロになっちゃたよ。せっかく着慣れて動きやすくなったばかりだったんだけど、新しいの申請するしかないじゃねえか。あの申請書だけでもめんどくさいし何故そうなったかの理由も書かないといけないからなぁ……


「それよりもどうやって斬撃を躱せるのかがわからん……」


 不意に俺の手が麻布の袋に入った物に触れた。それは何かと俺は確認するもそれは鏡文字で書かれた石灰だった。多分だが何らかの手違いで大量受注したのだろう、そうでもなければこんな道まで置くはずがない。


 ……なるほど、鏡の世界だから文字も反転しているよな。反転した文字が結構読みづらいから理解するのに僅かに時間が掛かったな。……石灰か。


「試しにやってみようか、俺の不得意な分野の重労働だけどさ」


 鋼線を用いて俺は石灰袋を持ちながら倉庫の屋根へと移動する。屋根の上から多数の石灰袋を鋼線に絡ませて運ぶ。しかし、まだ足りないと思った俺は下に飛び下りる。そこの倉庫の中に入って石灰袋を取り出して脇道に置く。置いては戻るという単純作業を俺はこなしていった。


 ……勝つためだからといってもこれはツラい過ぎですわ、しかも独りぼっちだと尚更(なおさら)な。出たらあの忌々しい鏡割って本とか全部貰ってこよう、そうしよう。



★☆★☆



「見つけたぜ、紙芝居野郎」


 俺は石灰を作戦予定の配置に設置し終わったのでいよいよ攻撃を仕掛けようと思う。今現在、俺は家の屋根の上から奇襲を仕掛けようとしている。この攻撃には鋼線や魔法をはわざと使用しないで、手に持っているスコップで仕掛けるつもりだ。

 魔法や鋼線を使わない理由はきちんとあり、手慣れたナイフでの攻撃も相手の攻撃方法がわからない以上、リーチの短い攻撃を仕掛けるわけにはいかない。


「行くか」


 俺は屋根の上から飛び下りる。そして、テラーの真上からスコップを振るう。しかし、俺の気配でバレてしまい避けられてしまう。すぐさま彼は攻撃を仕掛けようと拍子木を鳴らそうとする。


七拍子セブン・リズム!」

「鳴らせねえよ!」

「なッ!?」


 しかし俺はスコップを振り、拍子木に当たる。拍子木は彼の手を抜けて、左の方へと吹っ飛んだ。これも想定の内だ。急いでスコップをテラーに投げつけて、拍子木を拾った。


「おーい、ここまで来いよ誘拐犯! いや、ロリコン野郎が!」

「ま、待ちなさい!」

「待ってたまるかってんだ!」


 しめしめ、テラーの奴は俺の後を追って来てるぜ。しかもあの必死な形相から察するにこれ無しだと、俺に勝てないとわかってやがるな。魔道具ばっかに頼るからこうなるんだよ、バーカ。……やっべ、あいつ魔法連発しやがった。これは想定してなかったわ、反省反省っと。


 俺はジグザグに走って岩の砲弾を避け続けた。岩は建物に次々と当たり、当たった衝撃で飛んできた小石が当たってやや痛いし、作戦も無になるからやめてくれとつくづく思う。


「やーいやーいその形相気持ち悪いぞ! まるで顔面凶器ィイイイッ!?」


 しかし、岩が俺の足元に飛んできたため俺は盛大に転んでしまう。その際に拍子木は後ろの方に吹き飛ばされてしまった。取りに行こうとしたら岩の砲弾に当たってしまう、俺は苦渋の選択をして渋々逃げるしかない。


「ア、アハハハ! 魔道具は手に入れた、私に勝てると思ったのが間違いなんだよォ!!」

「うぎゃあああああ!!」


 岩の代わりに今度は見えない斬撃が飛んでくる。避けたいけど見れないから避けられないので、俺は運に身を任せることにした。



 迫りくる恐怖の中、俺の作戦範囲に入る。俺はあらかじめ罠へと誘う目印として家の前に置いていた石灰の袋を確認し、そこの角を左折する。それに釣られてテラーも左へ曲がる。


 さて、罠に引っかかってほしいな。最近、博打やごく普通の生活以外にも不幸ばかり起きているから幸運さんよ、今回ばかりは来て貰いたいんですけどねぇ……



 俺は彼を罠に嵌めるために、芝居を打った。通りの少し先に行った所で大げさに転ぶ。


「くっ、脚がぁ……!!」

「ははははは! どうやら先ほどの逃走で脚を負傷したんですね、ならば楽にしてやらなければ」

「くっ、来るなァ!!」

「そうですねぇ、君のおかげで面白い内容の紙芝居が書けそうだ」

「う、うわああああああ!!」



「なーんちゃって」


 俺がこの通りに入った時にはもう、建物に鋼線を絡ませておいた。俺は立ち上がり、鋼線を強く引いた。 すると建物は次々と切断されていき、崩れる。粉塵が俺の辺り周辺を覆った。


「た、建物を使って煙幕代わりに……!」

「そうだよ。だけどな、それだけじゃねえんだぜ」 

「ゴホゴホッ! せ、石灰か!?」

「その通り」


 建物の内部には袋を破いてバラ撒いていた石灰が崩落によって舞い、それも煙幕の濃さを上げるためにしたのだ。しかし、その石灰にも別の役割がある。


「こ、こんなの魔道具で!」


 テラーはでたらめに打ち付けて鳴らす。煙幕の中から見えない斬撃を撃ち放ったのだ。見えない斬撃は煙幕のせいでやや見づらい斬撃となって襲ってきた。


 ……やはり奴の攻撃手段は()か。音なら目視出来ないし高速で動くから躱しづらい、だから勘で避けるしかない。だけど見える斬撃となったら話は別、こんなのはただの風魔法の斬撃に過ぎないんだからな。


 俺は音が出ている方に右手の鋼線を伸ばす。そして鋼線で彼の拍子木を捉えると、すぐさま切断する。普通、煙幕の中では鋼線にも粉塵が付着してしまうが、俺の鋼線は違う。付着しない様に鋼線は滑りやすくなっているからだ。


「わ、私の魔道具がああああ!!」

「これで、終わりだ!」


 下級炎魔法の火の玉を一つだけ出す。それをその煙幕に突っ込ませた。



「のわああああああ!!」


 煙幕は大きな爆発を起こした。俗に言う粉塵爆発(・・・・)である。俺は拍子木を壊す前に左手で俺自身を守る防衛陣を作っていたので、それを起動させて爆発を防ぐことに成功した。



 爆発後、俺は辺りを見回すと爆発の影響でガラス窓が割れていた。再び静寂がこの王都に似た街を支配したのであった。


ぜひブクマお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ