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クズ、鏡の中へ

「おい待てよクソ猫! 少し休ませやがれ!」


 俺はクソ猫もとい、ネコ太郎に連れられて夜の王都を駆けていく。ネコ太郎はスピードを落とさずに走っていくので、本当にコイツは猫なのかと疑問に思う。


 あのクソ猫め、何処まで俺を走らせる気だよ。よほどのことじゃない限り俺は帰るからな、どうせくだらないことだろうけど。



 ネコ太郎はある家の前で止まる。そこはタシターンが入っていった家だった。ドアは開きっぱなしでついさっき入ったような面影が残ってあった。この家から不穏な気配が漂うのを感じ取れた。


 何だこの家、王都にはふさわしくない建物だな。ツタも伸びっぱだし、ドアも不用心に開いててどうぞ出入り自由って感じがするな。……待てよ、出入り自由ということは。


「おいクソ猫、あの家の中にタシターンが居るのか?」

「ニャン!」

「……そうらしいな、いたずらかと思ったけどこんな家は明らかに怪しい。誘拐やら強姦するにはうってつけの場所だし、取りあえず入ってみるか」



 俺は開きっぱなしのドアから入る。中は質素な家具ばかりで俺の家とやや似ていると思う。つい最近まで使われた面影が残っていない様子から推測してこの部屋はほぼ使われないのだろう。

 だが決してただの空き家ではない、何か(・・)がこの家に住んでいる、そういう表現よりかは潜んでいるに近い。


 俺の勘がこの家には誰かが居る。俺の勘は鋭いからすぐに気づいたぜ。タシターンが何かが原因でここに居る可能性が強くなったな。だけどさ、こんな家隠れ場所が少ないのに何処に居るんだ……。


「……部屋の隅に階段があるな、下りてみるか」


 念のために黒蜘蛛の手腕を装着して階段を下りる。鋼線を出して気配を消しながら地下室へ向かう。ドアは開いており、鋼線を地下室に巡らせて索敵をする。鋼線の正しい使い方としてはこのような索敵にも応用できるのだ。


 ……よし、地下室には誰も居ないな。階段には誰かが来てもすぐに気づける様に鋼線を張らせていただこう。これでゆっくり探索できる。



 俺は地下室の中へ入っていく。中には本棚があり、いろんな種類の本が並んである。童話から魔術書まで置かれており、机には羽ペンや絵の具が置かれていた。


 ……俺が読んだこと無い種類の本もあるな。特にこの魔術書なんかは字が読めない、しかもやけに古い。これは相当の価値がする本だな、高額な値段で売れる筈だな。それとこの姿見鏡もなかなかだな。


 まじまじと姿見鏡を見つめる俺は、この鏡から人を誘う魔力があることに気がついた。すぐに距離をとって臨戦態勢に移行した。だが、鏡はその魔力を放出するだけで何もしてこない。俺は恐る恐る近づいて眺めた。


「魔道具か!」


 もしかしてこれは、こちらが何もしなければこの魔道具も何もしない魔道具なのか。魔道具とかは本や神話でしか見たことしか無かったけどこういう種類のもあるんだな。いやー、俺じゃなかったらうっかり触っちまう(・・・・・)ところだったぜ。……ふーん、触るとねぇ。


 俺は何かに気づいて腕を伸ばす。すると鏡の中から腕が出てきて、俺の手首を掴んだ。俺はわざと抵抗をしないで鏡の中へと引きずり込まれた。


「……やっぱりそうだよな」



★☆★☆



 俺は気がつくと変な大通りに居た。王都に似ているが王都には似ていない、家の明かりは点いているものも活気を感じさせない街だ。まるで俺しか存在していない世界のようだった。


 やれやれ、どうして俺は厄介事に巻き込まれちまうんだろうかねぇ。めんどくさいからタシターンと出口でも探してさっさと気味の悪い空間からおさらばだな。


 俺は元の世界に帰るために一歩足を踏み出した。しかし、その時にカチンッと甲高い音が聞こえた。一瞬俺は何かに呑まれた(・・・・)様な気がした。その何かに呑まれた途端に声が出せなくなった。すぐさま状態異常を治す魔法を念じた。


「な、何だ今のは……」

「すごいすごい、この魔道具に対抗するとは」

「何者だ」


 謎の声が大通りの脇道から聞こえた。俺はすぐさま懐に入れていたペンを声のする方へと投げつけた。パシッとそのペンが払われた気がした。


 俺の不意打ちを受けないとは大した奴がいやとはな、俺の不意打ちはダロンからお墨付きを貰ってたんだからちょいとばかしショックを受けたわ。……ふざけるのは終わりだ。さっさとタシターンと出口の場所を吐き出させていただこうか。



「早く正体を表せ、この鏡野郎」

「私だよ、少年」


 脇道から見覚えのある灰色の帽子を被った男性がやって来た。手には紙芝居に使う拍子木を持っているのであの甲高い音はこれから発したのであろうと断定できる。


「あんたは紙芝居屋のテラーか」

「そう、一昨日君と会ったしがないの紙芝居屋さ」

「子供が大好きなおっさんか、怖い怖い」

「怖がらなくてもいい、さあ私と一緒に来るんだ。君の彼女もそこに居る」

「残念ながら俺はそういうのには釣られない男でね、美女でも連れて出直して来い」

「そうか、それは非常に残念だ……」



 テラーはぶつぶつと唱え始めた。すると舗装された地面から太く鋭い土の塊が俺に向かって勢いよく伸びる。俺は何を喋っているのか聞き取るために気をとられて反応に遅れ、胴体にもろに当たってしまう。俺の体は数メートルほど後ろに吹き飛ばされてしまう。


「……危なかったぜ。体に鋼線を巻かなかったら、俺はあの塊によって貫かれて死んでいたな」


 自然界における蜘蛛の糸は科学の結晶とも言える品物だ。何故かというと蜘蛛の糸と鋼鉄を同じ太さにして強度を比べると圧倒的に蜘蛛の糸の方が丈夫だ。超力も鋼鉄の二倍、そして人間の髪の毛の十分の一の太さで自然界において速度で高速の分野に居座る(はち)でさえも捕らえることが出来るという。

 それを俺は体に巻き付けることによりこの塊を防いだのだが衝撃は殺せなかった。


「あんた、魔法使い(・・・・)か」

「そうだ、まあ軍には入ってはいないがね」

「下級魔法とはいえなかなかの攻撃力、やはり魔術書による独学か」

「あぁ、だけどそれだけじゃないが」


 テラーはまた詠唱を始めた。今度は喰らわないように防衛陣を張り始める。普通の防衛陣の二倍の太さに編んで設置して、彼の周りに鋼線を張り巡らせた。鋼線使いの得意な戦場は市街地戦や森林などの障害物が多い場所だ。まさしく王都という環境においては全武器中、トップの戦闘力があるだろう。


岩の砲弾(ロック・シェル)発射!」


 頭一つ分のサイズである岩が八個ほど地中から飛び出して、彼の後ろに漂う。そして彼の号令に従い、岩が俺へと向かって飛んできた。


 こんな程度、防衛陣を出す程ではない。市街地戦においては鋼線は最強なんだよ。


 すぐに鋼線を張り、岩に耐えることのできる最低限のサイズの楯を練り上げて防ぐ。別に大通りの横幅のサイズの楯を出しても防げるのだがそうしたら相手が見えなくなる。その隙を衝いて隠れられたり攻撃されたりすると本末転倒だ。


「全部最低限のサイズで防ぐとは、なかなかの腕前。感服しました」

「敵に褒められるって複雑な気分だ。だってこれからあんた死ぬからさ」

「……物語はまだ起承転結の承の部分です。まだ終わりまでありますよ」

「そういう書き手独特の言い回し、俺は嫌いじゃない。女を口説くのに向いているからな」

「ふふふっ、そうですかそうですか!」


 ……ヤバい、わけもわからん空間に誘われたこっちが圧倒的不利だ。奴も考えがあってこの空間に誘ったとなると、まるで民謡集にも掲載されていたお菓子の家みたいな環境だな。一時的の幸せには浸れないとは思うがな。



 テラーは拍子木を再び構えた。また攻撃を仕掛けるつもりだろう、俺の推測ではあれも魔道具だ。魔道具の多重持ちは魔力の消耗が激しいので並大抵の魔導師でさえ使えない。ましては魔道具は世界でもピンからキリまで数えても百程度しかない。そのため、魔道具使いは数少ないのだ。



 そして、その魔道具同士の戦闘も数少ない事例が今まさしくここで起きようとしているのだ。


ぜひブクマお願いします。

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