クズ、猫を追う
タシターン・ソンブルは本が好きな女の子だ。図書館の司書である父親と魔導師の母親の間に産まれてきた子供である。父親の影響からか、幼い時から彼女は本を読んでおり文字が読めるようになった年から僅か五年で図書館にある本を全部読みつくしたという話がある。幼い頃、身体の弱い彼女にはなかなか外で遊べる機会はなく、友達という存在を持ってはいなかった。
彼女は魔導師の母親の才能を持ち合わせ、桁外れの記憶力を所持していた。そのため、ドレス・クリーク魔法学校入学試験においては対人戦以外では全ての科目において好成績を修めており、三番目に良い成績を叩き出している。
そんな彼女は今、一昨日テラーという紙芝居屋に貰った本を読んでいる。内容は世界各国の人々に親しまれている民謡を載せた民謡集だ。この本からは世界各国の人々の価値観の違いについて読み取れた。当然、明るい歌もあれば暗い歌まである。
「……何だろう?」
タシターンはページとページの間に何かが挟まっているのを確認した。彼女はその灯りでページを透かして見る。紙の様なものが挟まっているのを視認する。彼女は机から鋏を取り出して、なるべくページを傷付けない様に切っていく。
切り終えると間から一枚の紙が落ちてきた。大きくもなく、小さくもない絶妙な大きさだ。
「午後八時にてダストン公園にて会おう?」
ダストン公園は一昨日、テラーとネコ太郎に初めて会った場所だ。彼女は時計を確認すると現在は七時半を指していた。本来ならばこの怪文書を警戒するのだが、好奇心は猫をも殺すという言葉もあるように好奇心には抗えない。彼女はあらかじめ持参してきた茶色のコートと顔を隠すためのマリンキャップ被る。
「ミャー」
「……ネコ太郎も来たいの?」
「ミャーン」
「わかった、来て」
彼女は優しくネコ太郎を抱き上げた。彼女はバレない様に確認して自室から出て、塀へと向かう。
着いたらその塀を静かにを越えてダストン公園へ足を進めた。
★☆★☆
午後八時になる手前にタシターンはダストン公園に到着した。すぐ近くにあったベンチに腰を掛ける。公園には彼女とネコ太郎しか居なかった。だが不意に遊具の一つである木馬がギシリ音をたてる。彼女はその木馬に近づいてみると、木馬に乗る場所には一通の封筒が置いてある。タシターンは慎重にそれを開けていく。
中には簡易的な地図が掛かれている紙を見つけた。これを置いたのが誰だか彼女にはわからなかったが行ってみることには変わらなかった。
「……誰かが私を誘っている」
「ミャー」
「……行こう、正体知りたい」
タシターンは地図を辿って進んでいく。王都は現在の時刻だと飲食店以外の建物は殆ど店を閉めている。彼女が歩いて行く通りも例外ではなく、飲食店であろう建物は人々で活気づいていた。
五分ほど歩いて行くと廃墟同然の建物を見つける。外装だけでわかるが二階が無い、それどころかツタが壁に生えており窓を塞いでいた。
入ろうとした途端にネコ太郎が暴れだした。
「ウミャー!」
「きゃっ!? ね、ネコ太郎……」
ネコ太郎は何処かへ駆けて行った。いやむしろ、逃げて行ったという表現が正しいのかも知れない。タシターンはこの家に入ってはいけないと頭の中で警鐘鳴り響いている。それでも警鐘を無視して彼女はドアに手を掛けて力を込め、押した。
どうやら鍵は掛かっていない様でドアは音を鳴らして開く。一階を軽く散策しても机と椅子以外には何も置かれていない。しかも、その家具にもほこりや塵が被さっている。
「汚い」
言葉一つで解決できるほど、特徴は無かった。しかし彼女は、地下へと続く階段を見つけた。足音をたてずにゆっくりと階段を降りていく。地下室らしき所のドアから光が漏れているのが確認できる。彼女はそっと中を覗きこんだ。
だが中は一階とは全く違い、家具が豊富である。タシターンは人が居ないことを確認してドアを開け、部屋の中へと入る。部屋には本棚が置かれてあり、本がギッシリ敷き詰められている。机には数枚の原稿用紙が置いてある。
「……大きな鏡」
壁には姿見鏡が置かれている。自然と引き寄せられる何かを感じ、彼女は姿見鏡に近づいた。鏡には勿論、自分の姿が映る。そこに鏡の表面が揺れた気がしたので手を伸ばした。
「ひッ!?」
しかし、触れようと手を伸ばした時に鏡の中から手が現れて彼女の腕を掴んだ。タシターンの体は徐々に鏡の中に引き込まれていき、彼女の必死の抵抗もむなしくついに体は鏡の中に引き込まれてしまった。
その光景を彼女が拾った猫、ネコ太郎が一部始終を見ていた。ネコ太郎は階段を駆け上り家を出て、ドレス・クリーク魔法学校の方へ駆けていく。
☆★☆★
今俺はお金を整理している。何故貧乏生活をしていた俺が大量のお金の整理をしているかというとこの前の盗撮してそれを現像、そして数人の男子生徒に売った。売り上げは絶好調の模様で、三十枚あった写真が売り切れて、タオルの方も売り切ったからだ。
ぐへへへ、ちょろいもんだぜ。写真を現像するには写真一枚は銀貨一枚、まあ現像代は高いが売り上げから差し引いても比較的安いものだ。タオルの方も騙されているとは知らずに購入するなんてとんだバカが居たものだな。
「次は何を売ろうか、風呂の水か? それとも……」
俺が考えにふけている時に、ドアからガリガリと引っ掻く音が聞こえた。ドアを傷付けて修理費とかめんどくさいのでドアを開けることにした。
「おいゴラァ! 寮室に傷が付いたらお前のせいだボケェ!」
俺は勢いよくドアを開けるとそこにはあの憎き猫、ネコ太郎が居座っていた。ネコ太郎はじっとこちらを見つめている。
「けっ、なーんであの忌々しい猫がいるんだよ。飼い主であるタシターンの元へ帰れ」
「ニャー」
「にゃー、じゃねえよ。しっしっ!」
追い出す仕草をする。するとネコ太郎は体を反転させて進みだした。それでもネコ太郎は、後ろを振り向いて俺の方を見つめる。何かを言いたげな仕草だった。
いきなり押しかけてきて何だこの猫。てか寮は生物飼っちゃいけないのが校則なのに何で離し飼いにしてんだよ。ったくタシターンは何をしてるんだか。……あれ、彼女はこんな自らの首を絞めることはしないよな。だったら何故、ネコ太郎がうろついているのだ。……もしかしてだけど、彼女の身に何か起きたのか。
「おいクソ猫、タシターンは何処だ」
「ニャーン」
ネコ太郎は寮の出口に向かって歩き始めた。「付いて来い」と言っている気がしたので俺は付いて行くことにした。最低限の荷物を持ってネコ太郎を追いかける。
ネコ太郎が俺を何処に連れて行くのかも知らずに王都の街へと向かうのであった。
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