クズ、コーヒーを淹れる
次から二日に一回投稿になりますのでご了承ください。
「そうだ。そしてそのまま待つんだ」
「ほう、その際に何かすることは?」
「そうだな、使うコップをひたすら拭きながら待ってればいい」
「コップはこれでいいですかね」
「うむ」
俺は一週間に一度のペースでジェネルー先輩の祖父が経営しているカフェでコーヒーを学んでいる。俺は隠れ家の様なこの店が好きだ。何故ならコーヒーの匂いが店中に染みついて落ち着けるからだ。
「おっはー! 後輩君元気かい!」
「どうもこんにちはジェネルー先輩、今日も元気ですね」
「今日もじゃないさ、毎日さ!」
「どうしたジェネルー、今日は予定は無いのか?」
「うん、たまにはダラダラ過ごすのも悪くないしねマスター」
「そうか」
「マスター、そろそろ淹れますね」
「あぁ、ついでにジェネルーにも分けてやってくれ。足りるだろう」
フラスコに淹れたコーヒーを先ほどまで拭いていたコップに注ぐ。そしてそのカップに砂糖とミルクを投入して、スプーンでかき混ぜる。
確か先輩は苦いのが苦手だと言ってたから砂糖とミルクを入れればいいんだっけ、俺はどっちでもいけるのだが。
「おぉ!? 後輩君が淹れたんだ、どれどれお味は……」
カウンター席に座り、俺の出したコーヒーを飲み始めた。
「美味しい! マスターよりも美味しいよ!」
「……」
「あ、あのー先輩。マスター立ちながら失神してるんですけど」
「事実だからなぁ、マスターの作ったのは美味しいんだけど癖がね。勿論、マスターのも美味しいから安心して!」
「……そうか」
「マスターが目を覚ましたな」
孫にあんなこと言われたらショック受けるのも仕方がない、けど失神するまでショック受けるのかよ普通かよ。てか、マスターの嫉妬の目線が注がれていてどうのような顔をすれば良いのかわからん。
マスターはじっとこちらを睨んでいる。ダンディな風貌をしている人なのでより視線の圧力が強い。気付いていないフリで残ったコーヒーをもう一つのコップに注いだ。
「マスター、後輩君を睨んじゃダメだよ」
「睨んでいない」
「まあまあ、落ち着いて。そうだ先輩、紙芝居屋さん知ってますか?」
俺は話を逸らすために例の紙芝居屋の話をすることにした。どのくらいの認知度があるのか気になるところだしな。
「知ってるよ、あの大きい公園でたまーに開催している人でしょ」
「そうです、いつ頃から紙芝居屋をやり始めたのが気になって」
「うーん、いつ頃だったけ……」
「……覚えているだけで四年前だ」
「四年前、どおりで子供たちにお菓子を配っても不信がられないのか」
もし、いきなり現れた男が子供にお菓子をあげたらどうなるのだろうか。正解は逃げられる。それは当然、素性も知らない大人からお菓子を貰ってはいけないと親のいいつけを守っているからだ。子供がお菓子を貰うということはその親のからの信頼を得ているからこそお菓子を受け取ることができるのだ。なので、そこまで至るまでに四年という時期はふさわしいだろう。
「マスター、何かお菓子ちょうだい!」
「……ドーフ君、棚にあるクッキーを出してやってくれ」
「……あのマスター、何ですかこれ」
俺はマスターの指示に従い、後ろの棚を開ける。そこにあったのは【お色気満載、熟女短編集】という題名の官能小説があった。それをマスターに見せつけた。
おいおい、マスター。こういう小説を何故にこんな所に入れちゃうんだよ。……まさかだけど、暇な時に読んでいるたのか。
「さあそれを渡しなさい、ドーフ君」
「マスター、良い官能小説あるんで今度貸しましょうか?」
「い、いらん!」
「へぇ~、俺の家には女学生から熟女まで扱ってる書斎があるんですけどねぇ……」
「……一冊貸してくれ」
「わかりました。その代わりにコーヒーを作る際に必要な道具一式ください、古いのでもかまいません」
「倉庫に置いてあるから持って行くといい」
ふと本格的なコーヒー飲みたくなる時があるから自分で作りたいし、食堂のコーヒーはあんまり美味しくないからな。それとコーヒーの匂いが服に染みついている男はカッコいいからモテるらしいし。
「か、官能小説!?」
「どうしたんですか先輩」
「そ、そそそんなのを見ちゃいけないんだよ!」
彼女は顔を紅くしながら動揺して、耳まで紅くなっている。
ははーん、さてはそういう面では初心だな先輩。いつも先輩のペースに乗せられていたから今度はこちらが乗せる番だな。
「そうだ、先輩にも貸しましょうか? 官能小説」
「い、要らないよ!」
「けど先輩、大人たちの夜の絡みが気になりませんか?」
「なんないもん!」
「クラスメートで恋人関係なペア居ますよね、その人たちがどのようにしているのかも気にならないですか?」
「う、うちの学校はそういうのはしちゃいけないから!」
「ふーん」
慌てているのが凄く可愛い。普段は年上目線でからかっているのに今は全然違う、そのギャップがとても良い。けど、そろそろマスターが怒りそうだから止めるか。
「こ、後輩君のバカー!!」
「ありがとうございましたー」
ジェネルー先輩は一目散に店から出て行った。やり過ぎたとは思ってはいるが後悔はしていない、むしろすがすがしい何かを感じた。
「ドーフ君」
「はい何でしょう?」
「気を付けたまえ、帰り道」
「帰り道がどうしたんですか?」
「最近、女性や子供が次々に行方不明になっているのだ」
「行方不明……誘拐ですかね」
「多分そうだろう、だが一昨日あったばかりでな」
一昨日、俺がタシターンに連れられて公園に行った日だ。紙芝居を見終えてから帰ったが特に話題にはならなかったが、そういうのが起きているみたいだな。誘拐事件については新聞にも書いてはいないから知らなかったわ。
「そろそ門限の時刻にもなるだろうし、私が君を送ってあげよう」
「大丈夫ですよマスター、一人でも帰れますって」
「いいや、ジェネルーならまだしも君はまだ幼いからな」
「何故先輩は安全なのですか?」
「彼女は魔道具持ちだからな」
「どのような魔道具です? 存在は知ってるんですが種類は知らなくて」
先輩の魔道具を聞き出すちょうど良い機会だ。敵や味方の魔道具は把握したいのが魔道具使いの性だからな。
魔道具には近接攻撃系か遠距離攻撃系、そして身体強化系に分かれるとなっているからだ。その魔道具の種類によって俺自身の戦闘スタイルが変わるからだ。
「そうだな、強いていうなれば……」
「呪われた杖だな」
「杖となると遠距離系ですか」
「さよう。しかし近接の戦闘も行える」
「万能型ですね」
「だけど、弱点がある」
「弱点?」
確かにどの魔道具にも弱点がある。俺の魔道具の弱点は扱いにくさだけだが弱点だが、長い訓練を受ければ扱えるのでまだ癖は少ない方だろう。
「それは己の心を蝕んでいく呪いだ」
「毒みたいですね」
「だから使えば使うほど心が蝕んで最終的には死ぬ」
「にしても、上級魔道具では死ぬ例はあるけど下級魔道具にしては異例ですね」
「上級魔道具に似た下級魔道具だからな」
「ほう、だからあまり使えないと」
「そういうことだな」
先輩はその魔道具を使ってるのか、いつか自滅しそうだな。あの性格だとどうでも良いことに魔道具を使いそうだしな。今度先輩に頼んで見せて貰うおうかな、あわよくば強奪……は止めておこう。
「さあ、帰ろうか。ドーフ君、用意をしなさい」
「はい、また来た時に小説持ってきますからね」
「わかっておる」
俺とマスターは店を出る。コーヒーの匂いが店内から漏れて、通りに広がった。マスターは看板を裏にして鍵を閉めた。
しかし俺は彼女の魔道具が何故、下級魔道具なのかがわからなかった。近接も対処できる遠距離系なので普通は上級魔道具級の性能を保持しているのにどうして下級魔道具と評価されている、ということに……。
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