クズ、紙芝居を見る
「さあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい、楽しい紙芝居が始まるよー」
「わーい!」
「おじさん、今日はどんな紙芝居を見せてくれるの?」
「今日は少年がお姫様を助けるお話しだよ」
「面白そう!」
人口に作られた自然を抜けて、子供たちが普段遊んでいる所に到着した。灰色のハンチング帽子を被り初老を迎えていると思われるおっさんは小型の台車を止める。台車には机があり、机上には紙芝居などで使用される道具が取り付けられていた。おっさんは木の棒をカチカチと鳴らして子供を呼び寄せている。
ほう、紙芝居屋か。まったく、酔狂な奴もいるもんだな紙芝居屋はほぼボランティア活動をしている様なものだからな。にしても、子供たちがおっさんに慣れ親しんでいる様子から察するに頻繁にで行っているのがわかる。
「ザック、見てみたい」
「いちよう言うがタシターン、お前一五歳だよな?」
「そう、だけど気になるし楽しそう」
「あっそう、じゃあ俺は帰るから」
「……一緒に居て、寂しい」
「はいはい、わかりましたよ。木馬から見守ってやるから」
タシターンは子供が集まっている場所に行き、俺は公園の遊具の一部である木馬に腰を掛ける。木馬は俺に苦情を申すかの様にミシミシと音が鳴る。
紙芝居ねぇ、俺の村に一回だけ来たけど特に覚えて無いな。紙芝居よりかは俺は訓練に勤しんでいたからな、ダロンの訓練はいつも過酷だったな……。
「じゃあ、紙芝居の始まり始まり」
おっさんが紙芝居を始めようとすると騒がしく騒いでいた子供たちの声は一切聞こえなくなる。そしておっさんはページを横へスライドさせた。
「昔々、優しくて元気が溢れる少年が居た。その少年が散歩をしていると、ある張り紙を見つけた、内容はお姫様を助けたら褒美にお金とお姫様と結婚させるというものだった。すぐさま少年はお城へ駆け込んだ。お城の中には力が強そうな大人たちがたくさん居た」
……童話でこんな話は聞いたことが無い、もしかしてこの紙芝居はこのおっさんが作ったものか。それにしても、紙芝居を自力で作ろうだなんて思ったものだ。俺だったら金儲けのためにしか作らないけどな。
「そして家来が言った。あの凶悪山には魔物が住んでいて、そこの洞窟に姫様を連れ去ってしまった。なので姫様を助けて貰いたい。そして少年と大人たちは凶悪山へと向かった。しかし道中、魔物たちが襲って来て大人たちは逃げ出してしまった。残ったのは少年だけだった。」
おっさんの紙芝居に子供たちは集中して聞いている。タシターンもその例外ではなかった。
「少年は勇気を振り絞って進み、ようやく洞窟へ到着した。奥へと進んで行くと、姫様が牢屋に入れられていた。すぐに少年は牢屋を開けようと進み出ると、大きな魔物が踊り出た。大きな魔物はお金と宝物をやるから見逃せと言うのであった。少年はお姫様を助けるためにこの山に来たと言うと魔物に言い放つ、大きな魔物は震えながら逃げて行った。お姫様を助けた少年はその後、お姫様と結婚しましたとさめでたしめでたし」
おっさんは最後のページをスライドさせると、子供たちからの拍手喝采を浴びた。おっさんは満面の笑みを浮かべて頭を掻く。この様子から若干照れているのがわかった。
よくある内容の紙芝居だな、結局はハッピーエンドか、まあ少年とお姫様が結婚する終わり方は子供向けとしては妥当だろう。子供にバッドエンドの話しさせても受けは悪いからな。
「おじさん! ありがとね!」
「ありがとう!」
「どういたしまして」
「……なかなか良い物語だった」
「ありがとうねお嬢さん、最後にお菓子をあげるからおいで」
楽しい紙芝居もしてくれるしお菓子もくれる、どうりで子供が集まる訳だ。子供たちはそういうのに弱いからな。どれ、せっかくだから俺も貰える物は貰っておこうかね。
俺は子供たちの集まりに混ざり込んだ。
俺はどさくさに紛れてお菓子を受け取った俺はそのお菓子を食べる。タシターンはというとお菓子を配り終えたおっさんと熱心に話している。もうそろそろ寮の門限を迎えてしまうので俺は彼女に声を掛けることにした。
「タシターン、そろそろ門限だ帰るぞ」
「もうそんな時間……」
「そうだ」
「おや? もしかして君も私の紙芝居聞いていた子かい?」
「まあそうですね、子供たちに混じるのはちょっと恥ずかしいので少し離れた場所から鑑賞してました」
「ははは、そうかい。私にとってはあの子たちと君は同じに見えるがね」
おっさんは俺に話し掛けてきたので俺は嘘を含めながらも答える。俺は最後のお菓子を口に入れて、飲み込んだ。俺は先ほどの紙芝居で気になっていたことを口にする。
「さっきの紙芝居はあなたが独自で作ったものですか?」
「そうだよ、私は童話や紙芝居を書くのが好きだからね」
「しかし何故、紙芝居屋をやろうと?」
「私はね、子供が大好きだからさ。子供の笑顔を見ると嬉しくなるんだ。だから子供を喜ばせると私も嬉しいからこの紙芝居屋をやろうと決めたんだよ」
「別に一的な童話でも良いのでは?」
「同じ食べ物を食べ続けたらいずれ飽きてしまう、それと一緒さ」
「なるほど」
子供に飽きさせない様に自分で作るとは驚いたな。俺には考えられないな、だって俺は自分が一番だから他人のことは後回しだ。これは自分だけでなく、殆どの人もこの考えだろう。むしろおっさんの考えの方が異端とも言えるが……。
「……良い作品をありがとう。名前を聞きたい」
「私の名前はテラー・イストワール、紙芝居屋兼民謡家さ」
彼女が名前を尋ねると彼は名前を答える。おっさんは何かを思い出したかの様に、台車から一冊の小冊子を取り出した。題名は【庶民たちの色々な民謡】と書かれている小冊子を彼女に差し出す。
「試作品さ、感想を聞かせておくれ」
「わかった」
「おっさん、この本を売るのか?」
「編集から出版許可が出たからね、いずれ書店に並ぶよ。このぐらいの薄さの方が安くて皆に親しみやすいからね」
「ほうほう、じゃあその時になるまで楽しみにしていますから」
「ははは、どうか楽しみに待っていてくれよ」
俺はタシターンと帰ることにした。ネコ太郎はタシターンの肩に乗っかっており、「ここは俺の特等席」だと言っているかの様に俺に向かって主張している。
生意気な猫だな、コイツが捨てられた理由がわかった気がする。
「ザックとタシターン、何してんの!」
「……本を読んでる」
「帰ってるだけだ」
「そうなんだ、けどその猫はどうしたの?」
「公園で拾ったんだってさ」
帰っている最中に偶然会ったミールが声を掛けてきた。彼女はあの生意気な猫にじっと眺めている、彼女は何か理解しているかの様に俺らに話し始めた。
「ネコ太郎がザックのことを馬鹿にしてたよ」
「何だとこのクソ猫ォ!」
「落ち着いてザック」
おいおい、やっぱり俺のことを馬鹿にしてたのか。……あれ、そういえばコイツの名前を言ってないのに何故わかったんだろう。聞いてみるか。
「よくコイツの名前わかったな」
「うん、だってネコ太郎が教えてくれたんだもん」
「はあっ!?」
「いやさ、あたいの家は酪農家だからさ。自然とわかっちゃうんだよね」
「……動物と話せるの羨ましい」
「大丈夫、いつか話せるようになるよ!」
その理論でいくと全国の酪農家の人は動物と話せるようになっちまうぞ。それにしても彼女は動物と会話が出来ることを上手いこと利用すればちょっとした金儲けが出来るわけだ。俺にもそういう才能があれば良かったなのにな……
「あっ! 忘れてたことがあったんだけどさ」
「何?」
「買い物なら俺と一緒に付き合ってやるよ」
「もうそろそろ門限だよね」
「「・・・あっ」」
そのことに気付いた時にはドレス・クリークから門限を知らせる鐘の音が鳴り響いた。俺らが学校に着いた時には門は締まっており、俺が二人と一匹を肩車に乗せて一番低い塀から学校の敷地に侵入させた。俺も侵入しようと塀を超えようとした時に、ちょうど鉢合わせた見回りの先生にバレて俺だけ怒られた。
その日は、反省文を五枚書く羽目になってしまった。解せぬ。
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