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クズ、剣を学ぶ

「これから剣の訓練を始める」


 遠足から帰ってきて一週間後、三号館の室内鍛錬所でコレリック先生の声が響く。先輩が言うからにはコレリック先生は軍で働いていた時は一つの精鋭部隊を率いるほどの実力者であるらしい。そして剣技に関しては才能を持ち合わせて僅か一八歳で中尉になったという軍の階級授与記録では最年少記録を更新した。

 まあ俺はその人に勝ったけど、何故か先生が俺のことをケガさせようと本気出してたけどさ。


「それでは君たちに剣を持たせる。刃を研いでいないがむやみに振り回さない様にしてほしい」

「「「「「はーい!」」」」」


 先生の指示に従い、生徒たちは剣を受け取りに行く。剣の方は女子にも持ちやすいように女性用を持たせている。しかし、実践では男女の区別は無いので二年生になると強制的に男性用に替えるのだ。

 俺からしたら剣なんて要らないから魔法だけでいいと思う。近接戦を普段からしない魔導師とそれが専門の兵士、どちらが強いなんて目に見えているだろう。やるとしてもナイフとかの戦闘だな。



「同性同士とペアを組んで素振りをしておけ、遊ぶんじゃないぞ」

「さてと、ザージュやるか」


 俺のお誘いにザージュからの反応が無い。

 ……しまった、ザージュの奴は風を引いて休みじゃねえか。しかも一九人になったら必ず一人余る計算になる。適当な奴と組んでそれを避けなければヤバい。


「あっ、俺ザージュしか男友達いねえや」


 今までの交友関係を広げなかった行為がここにきて発動したか。うわー、皆もう組んでんじゃん。……こうなったら逆転の発想でこの危機を切り抜けるしかないな。



「わー、先生しょうがないから俺が組んでやりますよ!」

「何を言ってるんだザック・ドーフ。むしろお前が余ったのだろう」

「そ、そんなこと無いじゃないですかー、アハハハハ……」

「……まあ俺と組んでもいいが」

「俺も優しいのでね、忘れないでほしいのが仕方なくだから過信しないでください」

「殺すぞザック・ドーフ」


 何とか先生とはいえペアは組めた。そのせいか生徒の目が刺さるのがツラい、唯一そんなことしないのはタシターン、彼女だけだよ。エリカは可哀想なものを見てるかのように俺を見ているし。



「じゃあ基本的動作の素振りからだ。片方の生徒が剣を振り、片方の生徒が剣を横にした状態のまま揚げてそれを打て」


 鍛錬所は金属同士がぶつかり合う特有の音が響き渡った。力任せに振っている者もいるが剣に慣れていた者もいる。その代表者はジュスティスだ。彼の綺麗かつ力強い打ち方には悔しいが関心してしまうほどだ。


「上手いぞジュスティス・コンデム。何かやっていたのか?」

「ありがとうございます先生。昔から憲兵の父に剣技を教えられていたもので」

「ほう、お父上もさぞかし剣の扱いに長けているのだろう」

「はい、憲兵同士の訓練ではほぼ無敗だったと自慢しておりました」

「そうか」


 みっちり俺みたいにしごかれたからあんなに上手なのか、ちゃんと努力をしてきたことに関しては満点だな。……あれ、コイツ人格も実力もカリスマ力もあるとか完璧超人か何かかよ。ワンチャンだけど奴が魔人だという点もあるな。



 訓練を開始してから数十分、生徒たちは汗を流して服を濡らしている。早く風呂に入りたいと皆が思っていることだろう。そんな時にコレリック先生が最後にすることを言う。


「これより打ち合い方式の試合をしてもらう。顔とか傷付けないように行ってくれ」


 おいおい、素人打ち合いかよ。確実にケガ人できるのを知っててやるつもりだな、まあ俺に関しては先生と打つからケガは必須になるかもしれないけど……。

 指示に従い、皆は打ち合いを始める。剣から出だせれる金属音は何処かの戦場を思い浮かべるほどだ。先生と戦うことになるからまるで戦場の様な殺し合いになるけど。



「そ、そのコレリック先生?」

「何だ?」

「お願いですから弱めでお願いできますかね?」

「大丈夫だ安心しろ。貴様は剣においても強いのだろ、正直言って楽しみだ」


 えっ、何言ってんのか俺意味わかんない。俺の戦闘スタイルは鋼線とナイフしか扱えないんだけど……。剣とかチャンバラごっこしかやったこと無いし、それ以前にこの人戦闘凶じゃん。容赦ないし確実に負けるんですけど……。


「おい、ザックと先生が戦うんだって」

「魔物を撃退していたドーフ君でしょ? きっと強いはずよ!」

「これは期待だな!!」

「そうだな、俺も彼の剣技を見てみたいと思ってたんだ」

「ザック頑張れ」

「そうよザック勝ちなさーい!」


 ちょっとエリカとタシターンも応援しなくていいから、ジュスティス君も俺をライバル視しないでほしいんだけど。俺の負ける姿を見られたくないんだけど。



「では俺からだ!」

「ちくしょう!何故こういう風になるの!」


 俺は振られた剣を躱す。空気を斬る音が聞こえたので本気で戦おうとしているのだろう。しかし、俺は剣においては不慣れな戦いを強いられているので避けることしか出来い。己の剣で受け止めたとしても何かしらの対抗手段があるかも知れないと考えたからだ。


「ひィ!? 服掠ったんですけど!」

「それがどうしたァ!!」

「ヤバいヤバい当たっちまうんだけど!」

「はああああッ!!」


 このままじゃジリ貧だな。考えろ俺、明晰な頭脳でこの状況をひっくり返すんだ……。……何も思い浮かばねえ。実戦(・・)なら魔道具で倒せるんだけどなぁ……。

 しかし、この発想により俺の頭脳に電流が走った。



「そうか! 実戦だと思えば良いのか!!」

「何を言ってるんだザック・ドーフ! 俺と真剣に戦え!」

「そうですね、コレリック先生。なら俺なりの戦闘でやらせて貰いますねッ!」


 持っている剣を俺は先生に向けてぶん投げる。顔へと投降した剣が吸い込まれるかのように飛んで行く。


「屈したか! 見損なったぞ、ザック・ドーフ!!」


 怒号を放ちながら先生は剣で弾き返す。普通は自暴自棄になったためこのような行動にでたと殆どの人が思うが、しかしそれは大きな誤算だった。


「うおおおおおッ!!」

「なっ!? 剣を持たずに突進だと!?」


 俺の狙いは一瞬でも相手の視界を遮り、ましてはそれに対処することを出来なくさせるというものだ。剣を弾くために振った腕はこの攻撃を防ぐことが出来なかった。


「(ま、間に合わない!!)」

「避けてた分のお返しじゃボケェ!!」

「ぐはッ!?」


 先生の顔面に頭突きをかます。魔法で防御されている服に当ててもさほどダメージにはならないと思っての行動だった。先生は後ろへよろめいてしまう。

 へへへ、相手の懐に入れたならナイフ等の短剣か肉弾戦の方が有利なんだよ。だが剣の実力は確かだったのは認めざるが俺の方が一枚上手だったな。足払いさせて転ばしてからの相手の降参宣言を待つだけだな。


「そいッ!」

「しまった!」

「寝かせたぜ先生!」


 足払いは見事に成功して先生は背中を地面についた。


「どうします? 降参しますか?」

「……ない」

「へっ? 今なんて?」

「するわけないだろう!」

「はあッ!?」


 な、何だこの人。この状況なのだから降参するのが普通だろ。あー、ホントに負けず嫌いのタイプは嫌いだわ。だったらこっちも徹底的に叩くしかない。

 寝ころんだままの先生に殴ろうと地面に打ち付けるような形で殴ろうとする。


「甘い!」

「捕んだ!?」

「お前も顔面に一発食らえよ!」

「うがッ!? この野郎ゥ!!」

「ぐっ!? ほらお返しだ!」



 先ほどの戦いとはほど遠い戦闘に生徒一同は口を開けていた。エリカは「似た者同士ね」と言いたそうにため息を漏らす。タシターンは目を輝かせながら観戦している。

 ようやく、ジュスティスが止めに来た。


「コレリック先生とザック。もう戦いを止めないか? 二人とも満身創痍だぞ」

「そ、そうだな。このザック様が強いんだ……」

「な、何をほざいてるザック・ドーフ。先生が勝ったんだよ……」

「やんのかごらァ!!」

「上等だごらァ!!」

「せ、先生? 俺らはその後どうすれば良いのですか?」

「勝手に帰ってろ! 死ねやザック・ドーフ!!」

「お前がが死ぬんだよコレリックぅ!!」



 皆が帰った数時間後、鍛錬所ではまだ怒声や殴られる音が聞こえたという。


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