クズ、ぶちギレる
「オハハハハッ! どうだい驚いただろ!?」
ピエロは髪を掴んで持ち上げる。そしてその首を俺に向かって見せつけるかのように抱きかかえた。ピエロはこれまでになく満面の笑顔だった。
「じーつーは、僕と戦っている最中に僕のペットを追跡させちゃってたんだ! 驚いたでしょ! ギャハハハハハ!!」
俺は呆然と彼女の首を見ていることしかできなかった。頭の中は何もかも真っ白で何も考えることも出来なかった。
ピエロは彼女の頬を舐めながらピエロは俺に向かって言い始めた。
「どうしたんだいザック? 何か知らないけど私、体が軽くなったの!」
「えぇ!? だって君は首しか無いじゃないか! ……どうだい、なかなか似ていただろ?」
奴はエリカを使って俺に下手くそな三文芝居をし始めた。これがごく普通のサーカス劇だったらお客さんから笑い声が聞こえるだろう。しかし、このサーカス劇には俺と主演のピエロしか存在しなかった。
「さぁて、王子様はお姫様を助けられずに終わりとなったのです。なので、あなたも死んで彼女とラブラブになってください! そうそう首もあればなお良いけどね、ギャハハハハハ!!」
「……ピエロ」
「んんっ? どうしたんだいザックくーん」
「お前、金歯とかあるか?」
「うーん、二本あるよ」
「そうか、俺は金品には目が無くてね。その金歯を貰うとするか」
「面白い冗談だね! ……つまんねえ冗談言うなよ、この人間風情が!!」
ピエロはナイフを二本取り出して俺に突っ込んで来た。奴が目の前に迫ってきた瞬間、俺は全力のパンチを奴の顔面に食らわす。
ピエロは赤く大きい丸い鼻から鼻血を出しながら、さっき居た所まで殴り飛ばされた。
「(な、なんだ今のパンチは!? 人間の出せる力じゃねえ!!)」
「……こっちも行くぞ」
俺は自分の速さがアップする魔法を念じてピエロに包丁を持って攻撃を始めた。本来魔法は遠距離からの攻撃が主流となっており、自身の身体能力をアップさせるのは常識外とされていた。何故かというと身体能力を上げる魔法は使用後、自身の肉体に大きな負荷を掛けてしまうからである。
「(ナ、ナイフ捌きが速すぎる!? いくら何でも魔法だけじゃここまではいかない筈なのに!!)」
俺とピエロとの近接戦では誰がどう見ても俺の方が優勢だった。ピエロの方は防戦で手いっぱいで攻撃をしかれる余地も無い。それどころが俺の攻撃を防ぎきれず、徐々にピエロの体には切り傷が増えてきて服が赤へと変色を始めている。
「ホアアアアア!!」
「黙ってろ」
「アンギャアアアアア!?」
奴が魔法を念じようとしたのに俺は気付いたので、腰に隠し持っていた奴のダーツの矢を投降して喉へと突き刺さる。ピエロは痛みに耐えきれずに魔法を念じるのが出来なかった。
痛みに苦しみながらだと攻撃することも簡単だ。俺は包丁を奴の右腕の方に突き刺さる。絶叫を上げながら左手のナイフで刺突をするも簡単に躱され、その左腕にもナイフを突き立てた。ナイフを両手から落とした。
「りょ、両腕がああああ!!」
「どうした? また回復するだろ、なら癒してからナイフを持て。それまで待とう」
「ク、クソがあああああああ!!」
「……弱いな」
両腕を癒し、長く鋭い爪を剥き出しにして襲い掛かる。彼は理性を失い狂乱状態になっていた。実力差や痛み、そして魔王からしか味わったことが無かった感情。恐怖がそこにはあった。
包丁を落としてあらかじめ張っておいた鋼線はピエロの両足を切断した。それは設置型の罠で、相手の突進を利用する攻撃方法だ。今度は両腕を切り離してダルマ状態にさせる。
「アアアアアアアアッ!?」
「どうしたピエロ。魔王の幹部とやらはこの程度か?」
「何故だ! 何故人間がオレを圧倒できるんだ!!」
「……いいか、エリカを拉致った事態がお前にとってマズかったんだよ。俺らの班員じゃなかったら俺も手を出さなかったけど」
「お、俺らの仲間にならないか。お前ならきっと魔王様に好かれる筈だ!」
「俺は人間だから魔物と組みたくもない。それと人間はお前ら魔物だが魔人とは一味違うんだよ。だからもう死ね」
「お、お前も巻き添えにしてやる! ギャハハハハハ!!」
「何?」
ピエロの体から赤く光る光を出して膨らみ始めた。奴の発言と大量の魔力反応から察するに火属性の中では最も危険とされている自爆魔法だろう。これから死ぬというのにケタケタと笑いながらピエロは笑い続けている。
まだ痛め足りないが此処では死ねない、急いで黒蜘蛛の強固な揺り籠を立ち上げないと確実に死ぬな。
彼女の首を鋼線で手繰り寄せて急いで鋼線の揺り籠に入り込んだ。
「魔王様に永遠の幸せあれ!!」
そこを爆心地として大きな爆発が起きた。爆炎と爆風は俺を包んだ鋼線を包んだ。その爆発はザージュたちが居る宿泊地からでも確認できた。
今まで俺自身も自爆魔法を食らった経験は無いが中からでもわかるように衝撃が凄まじい、黒蜘蛛の手腕から出ている鋼線が指を強く引っ張ってとても痛てえ……。そこから血が滲み始めたか。
永遠とも思える爆発は不意に爆発音や衝撃が一切感じ無くなる。鼓膜がやられたかと思ったが鼓膜は無事だった。息を切らしながらも何とか揺り籠の中から這い出た。すると辺り一面中、地面が深く抉れていた。ピエロの残骸はもちろん残ってはいなかった。
「……すまないな。首しか無いけど村まで連れて行って墓に入れてやるからな。村長との約束は破っちまったけど」
エリカの首を大事そうに抱きかかえて、爆発によって帰り道もわからなくなったが宿泊地に帰ろうと足を進めようとした。しかし、俺は膝から崩れ落ちてしまった。何故だか知らないが足に力が入らない。
「……人間はやはり簡単に死んでしまうものなのか」
強く頭を地面に打ち付ける。頭が割れそうになるほど痛いがそんなのはお構いなしに打ち続けた。血が額から流れ出して地面に染みていく。
「俺は完全な人間じゃ無いからまったくわからんよ。……なあ誰か教えてくれよ」
「うりゃ!」
嘆いていた時に誰かが俺の頭を軽く叩いた。その声は何処か懐かしみがあるような声であった。俺は顔をゆっくりと上げる。
「まったくあなたは変なことばかりするんだから」
「……エリカ?」
その正体というのは首を斬られた筈のエリカだった。姿から考察しても見るからには外傷は付いておらず、元気だ。
「はぁ、ザックの居た所で爆発が起きたんだからついそっちに来ちゃったわ」
「で、でもお前。首を斬られて死んだ筈じゃ……」
「……私が死んでいるような言い口ね」
「だけど確かに首が!」
俺は恐る恐る抱えていた彼女の首を確認する。……だが、そこに存在していたのはただの木の幹であった。
「ただの木の幹じゃない、さては幻覚でも見てたんじんゃないの?」
「幻覚?」
ピエロと戦っていた時に幻覚を掛けられた時なんて……。もしかしてあの煙玉か、あの煙には幻覚作用が含まれていたのだと考えると確かに納得できる。吸った後に俺は幻を見始めた訳だからな。
エリカは地べたに正座をする。
「……まあ良いわ、ほら横になりなさい。回復させてあげるから」
「要らん、俺はゆっくり寝たいからすぐに戻る」
「善意は受ける物よ、ほらっ」
彼女は無理やり俺を膝がある方へと倒した。俺の頭が彼女の膝へと乗っかる、ただ乗せられただけなのに落ち着いてきた。産まれてからこのような経験をされた覚えは無かったのでとても新鮮だった。
「汝が我を愛するように、汝が風を愛すように。安らかな風」
ちくしょう、エリカの膝枕かよ残念だ。まあいいか、今日は本当に疲れたなぁ……。
心地が良いのと疲労が一気に襲い、それと同時に睡魔の方も襲ってきた。俺はそれに徐々に抗えなくなり、重い瞼を閉ざした。
「ほら、終わったわよ。って寝ちゃったか」
「おやすみ、ザック」
その日の夜空は月が明るく星々が一段と輝いていた。
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