クズ、ピエロと戦闘をする
「そぉれ!」
ピエロはポケットから何本かの縄を取り出し、木々に掛けていく。縄は枝や幹に掛かると自動的に結び始めた。俺も交戦状態に入り、鋼線を出し始めて罠や防衛陣を張る。敵はどのような攻撃をするのかがわからないため、用心して攻撃を行わないといけない。
「じゃあ僕が先でね!」
手にいっぱいのダーツの矢を俺に投げつける。防衛陣は一発勝負なのでそう簡単には使えない。だから俺は魔法障壁を念じて張った。ダーツの矢は魔法障壁に当たり、勢いを無くしたため地面にパラパラ落ちる。
……あのピエロ野郎、何処からダーツの矢を取り出しやがった。凶器自体をを魔法で生成したとか聞いたこと無いぞ。
「ハハハハッ!やっるゥ~」
「そりゃあどうも」
「だけど僕も負けてられないかな」
「何?」
ピエロが口笛を吹くと魔物が三匹飛び出す。すぐさま鋼線で切断するが、その隙を衝いてナイフを持って笑いながら襲いに来た。
攻撃手段がわかったとしても得体の知らない奴にダメージを食らうのはマズいな。仕方ないが防衛陣を発動しよう、命はあってなんぼだからな。
「黒蜘蛛の万年処」
「うわァ!? 危ない技だね!」
ピエロは寸での所で止まり、後ろに跳ね飛んだ。どうやら防衛陣の存在には気付いていなかったらしい。
少し急ぎすぎたなもう一回防衛陣を練らないと……
「防衛陣なんて張らせないよ!」
「クソっ!」
「ハイハイハイハイ!!」
「ナイフの扱いがただ者じゃねえ!?」
「どうしたんだい?躱してばっかじゃつまんないよ」
「うっせえな!!」
凄まじい速度でナイフを振り回すピエロの攻撃を避けながら鋼線を出し、相手の首へと絡めようとするが、相手はナイフでその鋼線を斬る。斬られたのを知っていながらも左指を動かしていたままだった。
気付かれてたか、ならば魔法で吹っ飛ばすしかない。
俺は魔法を念じてピエロの前で火属性の魔法を放つ。赤い球体の魔法はピエロの胴体ににぶつかり、吹き飛ばされた。後ろにあった木の幹にぶつかる。
「アチャャャャ!! ……もう服が焦げちゃたよ」
「まあそう簡単にはいかないよな」
「無詠唱で魔法を使うとはお見事だね、だけど僕も出来てたりして」
「うおっ!?」
ピエロは風魔法を繰り出して来た。風の斬撃なのだが威力は凄まじく、木々を切り倒してしまった。俺はギリギリで躱し続けるももなかなか接近は出来ずにいた。
包丁で無理やり近接戦を仕掛けるのも手だが包丁で何処まで攻められるかはわからんが、取りあえず実行してみるとするか。
覚悟を決めて一気に攻め込む俺は奴の仕掛けた罠には気付かなかった。その罠というのは木に掛けた縄であり、俺が接近すると感じたピエロはジャンプしてその縄に着地した。流石はピエロと言えるだろう。
しめた。障害物の無い所に移動してくれてありがとうな。
逃げ場の無い所に来たと思い、すぐさま鋼線を奴を中心として張る。そしてピエロに対する包囲網が完成した。
「おぉ!? 囲まれちゃったよ!」
「サーカスは終わりだ!」
「おわああああああああ!?」
「死ねッ!」
指を動かして包囲網を一気に締める。鋼線はピエロの体を縛り付けて贅肉がたっぷり付いたピエロの体は鋼線によりサイコロ状に切断される。
所詮は接近戦しか能が無い雑魚だったか。まあ俺にかかればあんな奴は余裕だったんだが。
「さーて、エリカと合流するか」
「じゃあサーカスは第二幕に突入だ!」
「なっ!?」
俺の後ろに死んだはずのピエロが立っていた。口元にかかれたメイクが満面の笑みを浮かべている姿が気色悪い。驚きながらも戦闘を続行させようと包丁を構える。
「まさか僕の人形さんが殺されるとは」
「ほう、偽物だったか。お前にそっくりだなその贅肉の付いた腹に憎たらしい笑みまでな」
「アハハハハ!僕のお気に入りだったからね、アレは。けどもう無いから安心しなよ」
「あっそう。じゃあ早めにケリを付けてやるよ、お客さんはこのショーがつまんないらしいし」
「……サーカスは終わらないよ、お客さんが死ぬまでね」
再び口笛を鳴らすと魔物がナイフを口に咥えながら出てきた。極力鋼線による攻撃は避けたいので躱しては包丁で斬る、躱しては殴るを繰り返す。不意にピエロが突出してきたので今度は鋼線を使って仕掛けた罠を発動させた。
罠は無事作動して奴の右腕を切り落とした。本当は胴体や首を狙っていたのだが掛かった瞬間に即座に気が付いたのだろう、運が良いやつだとつくづく思うよ。
「なかなか強力な罠を張るじゃん、戦いはこうでなくっちゃ!!」
「何でピエロは右腕を斬られても元気なまんまなんだよ、もしかして我慢してんのか?」
「ううん、別に腕ぐらいだったら。……ほらね?」
「ハハハ、嘘だろ……」
切断された右腕から新たな右腕が生えてきた。しかもたった数秒で生えてきてちゃんと機能もした。
おいおい冗談だろ、まるでタコだな。最近のピエロはこういう芸も出来るのか、まあそんなことは無いな。厄介な相手だ。
「ちょいとばかし聞いて良いか?」
「ん?僕に関することなら良いよ!」
「それならお前、魔物か?」
「うーん、魔物だけど魔物じゃないね」
「つまりお前は何者だ?」
「僕は魔人さ」
「魔人だと?」
俺が小さな子供だった頃にダロンが話してくれたが、魔王に使える忠実なる下僕だと言ってたな。俗に言う下僕か、どおりで強いわけだ。それよりもいつ戦争が始まったんだよ、聞いて無いぞ。魔王とか実在する時点で驚きだがね
「そう、僕は魔王様の幹部さ!だから強いよ、僕はね!」
「……となるとお前は斥候部隊だな、てかお前ベラベラ喋って良いのか?」
「アワワワ!! そうだったね! けどこれから死ぬ奴だからいっか!」
「バーカ、そういう奴に限って勝つんだよ」
「それはどうかな?」
「い、いきなり攻撃かよ!」
即席の盾を構成して防ぎきるもその盾が破られた。即座に包丁でナイフの攻撃を捌く。先ほどの攻撃とはやや違い、速さや正確性が増しており気を緩めるとやられてしまう程だ。
やはり偽者よりは強いな、包丁が刃こぼれし始めたんだけど。
「ほああああああッ!!」
「掴んだぞ!」
隙を衝いてピエロの手首を左手で掴んで包丁で手首の動脈をズタズタに斬り、腹めがけて蹴る。ピエロは後ろに仰け反るもすぐに攻撃を再開させる。
魔法を念じる暇が無いとかこれが魔人の実力か……。だがな、俺はこれを待っていたんだよ。
俺はワザと後ろの方に倒れる。ピエロは間髪入れずに汚らしい笑顔を向けてナイフを振り下ろそうとする。
「……罠に掛かったな」
「ほりゃああああああ!!」
振りかざした右腕はいきなり動かなくなった。しかもそれは右腕だけではなく、体全体が動かなくなったのだ。何故そうなったかは俺が偽者とナイフから避けていた時に仕掛けた罠がそこにはあった。
バカめ、俺が何の策略も無しに攻撃を躱していたと思ったか。ホントはコイツを狙ってたんだよ、鋼線使いに接近戦で挑むとか悪手なんだよね。
「あ、あれれ? う、動かないよ?」
「蜘蛛という生物はな、武器が小さな牙と糸しかないんだ。それでどうやって長い歴史を生き抜いたと思う?それは網を張って虫を捕まえたからだ。そしてピエロ魔人とかいう虫が俺の網に飛び込んできた、後はわかるよな」
「ひ、ひィ!?」
「これにてお終いだ」
俺は包丁を心臓に突き刺そうとした。心臓というのはどんな生物の絶対的急所だからだ。手首を斬って大量出血を狙ってもダメだったのでこうすること以外は弱点は無いと思ったからだ。
せめて楽に死なせてやる。鋼線でダラダラ適当に斬られるよりかはマシだろう。
「皆出てきてェー!!」
「ちぃ!またかよ!」
今度は大勢の魔物が出現して襲い掛かる。狙いは俺の魔道具めがけて襲ってきたので対処がしづらい。何故なら下手に動かすと罠がほどけてしまうからだ。けど命は大切なので罠を刺激させないように対処するが一匹の魔物が俺の手に噛みついた。
「痛ッッてえええ!!」
手からは流血して血が手袋に湿りこんだ。持っていた包丁を持ち替えてその魔物の脳天に刺す。しかし、噛みつかれたせいで罠が解除された。
毒を持っている蛇とかじゃなくて助かったが痛いもんは痛てえよ。クソ、早く止血をしなければ……。
「こっちだよ、ほいッ!」
「け、煙幕玉だと!?」
「ハハハハッ!その通り!」
煙幕玉からプシューと煙を吹きだした。煙の外から奴の返事が聞こえる。もしかしたら毒かも知れないので急いで口を塞いで煙の範囲外から奇襲を恐れながら脱出する。手の痺れも感じない、どうやら影響を受ける前に脱出できたようだ。
安心した、ただの目潰しかよ。さあ、再び陣を練らないと負傷した左手では防ぎようが無いからな。
俺は急いで防衛陣と罠を再構築させる。今度は罠の数を増やしてより強力なのを作る予定だ。
その行為は突如起きた出来事により止まることになる。ピエロが立っている近くの茂みからガサゴソと一匹の魔物が何かを口に咥えながらピエロの足元に何かを落とす。その物こそが俺を止めるきっかけとなった物であった。
それは長年の幼馴染にして約束を誓ったエリカの首であった。
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