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クズ、戦闘を始める

 俺が住んでいる場所は村の近くにある森を超えたところにある。森を遠回りすることは出来なくもないが30分で着ける距離が60分に変わるので森を突き抜けた方が早い。客といってもエリカや村長程度しか来ないのだが、森には魔物も居るので村長は滅多に来ることはない。


だが、エリカは違った。彼女は毎日のように顔を出してくる、今は若い連中いうと俺とエリカしかいない。殆どの奴らは都市に働きに行ってしまったからだ。俺が村に足を運ぶとおっさんやおばさんが俺を実の子のように接してくれる。そのおかげで食材やお金を貰って、今まで飢えを凌いできたわけだが。


 森は殆どが日陰に覆われており、常に湿度が高くて暗い。雑草や根っこにやや隠されている山道を歩かないといけないため、夜なんかは暗視魔法がなければほぼ見えないほどだ。俺が子供の時は迷ったものだ、エリカが泣き叫んでそれを慰めるのが大変だった。



「あなたは狩りにもいかないし農耕もしない。しまいには内職もしないじゃない。それさえ済めば飢えることなんてまずないのに」

「俺は無駄な労力を使いたくないだけだ。しかも人々の厚意をわざわざ受け取るためにしていないんだ、逆に感謝してほしいね」

「ホントクズね、あんた!」

「んん? 聞こえないなぁ……」


 エリカとは生き方も思想も全然違うんだよ。勝手に村の人々が差し出してくる好意を受け取るのが子供である俺ができる範囲で行う感謝の行動なのだよ。てか内職しても完成した商品を自力で運搬(うんぱん)しないといけないから無理、けど給料が高かったら別だが。



「……もう、何でこんなクズと一緒の村なのよ」

「はっはっはっ、神を呪うがいいぞ」

「その発言気をつけなさいね。熱烈な信者もいるのだから」

「神なんか存在しないんだよ、バァーカ」

「言った直後に言うな!」


 神とかいう人間が作り出した偶像なんてほぼ八つ当たりのために作られたもんだ。例えば天災が農作物を荒らせば神の怒りやら悲しんでいるだと言う。豊作だと神のご加護だと神を(まつ)り挙げる、こんなの人間が作り上げた責任転嫁(せきにんてんか)用の人形ではないのか。だから俺は神という偶像の存在を認めない、それでも神はいると思っている奴のほうが多いだろうが。



俺が神はいるのかいないのかという口論をしている最中、近くの茂みから一体のゴブリンが棍棒(こんぼう)を振り上げて俺に跳びかかってきた。


「ウガっ!」

「うぉっ、危ねッ!?」

俺は間一髪避け、ゴブリンは(むな)しく空を切った。

「何で魔獣が来るのよ! 今は魔物が襲って来ない安全期よ!」

「人間が勝手に作り出したもんだろうが、そんなの魔物である奴らが守るとは思えないね」



すぐ近くの茂みに隠れていたと思われるゴブリンは俺らを完全に包囲した。尖った耳に醜い顔、ゴブリンは(よだれ)を口から垂らしながら笑みを浮かべてくる。ゴブリンは団体で襲いかかってくる性質があり、獲物を(かこ)んで襲うという戦法を用いる。


「ちっ、こうなったら……」

「いちいち相手にするのめんどくさいわね、何か良い案があるの?」


エリカは短剣を抜きながら不安そうに俺に問いかける。

もちろん、こういう不測の状態に備えて対処できる方法があるのだ。その戦法は……



「ちょっとゴブリンさん、コイツ差し上げるので僕だけは見逃してくれませんかね?」

「ウギッ?」

「はあ!?」


  それは仲間を売る、至極(しごく)簡単な作戦。俺は身振り手振りで伝いたいことをゴブリンに伝える。するとゴブリンにも伝わったらしく山道を開けてくれた。ゴブリンも多少の知識があるから見逃してくれると思ったんだよね、俺って天才ですわ。



「じゃあな、異種姦ものの薄い本を期待しておくからな!」

「鬼、悪魔、サイテー野郎!!」

「フハハハハ! せいぜい(ののし)るがいいわ!」


 俺は山道をせっせと走り抜けて行った。



 独りになってしまったエリカは戦うために隙をついて詠唱を唱える。


「汝は我を助け、汝は氷を愛するように! 氷の一角(フロースト)!」


 エリカの足元から魔法陣が浮かび、そこから空気中から水分を集め、冷気で凍らす。空中には五本の小さな氷柱が出来上がる。日光の光が当たらないため湿気が多く、短時間で普通より多くの氷柱が出来上がったのだ。

だが、ゴブリンの数は前方に三匹、後方に四匹とどう見ても氷柱の数が足りない。それは火を見るよりも明らかであるが、それでも彼女は戦わないといけない


「発射!」

「ウギッ!?」

「ガッ!?」

「ナガッ!?」


 空中に浮かぶ氷柱は発射と叫ぶと次々とゴブリンに向かい飛んでいった。氷柱は前方のゴブリン全員に刺さり、悲痛な声をあげて倒れる。しかし、あと四匹を彼女は相手にしなければならない。もう魔術を詠唱する時間は無い、ゴブリンは早急に攻撃を仕掛けにきた。すぐさま振り返り彼女は短剣を構え始める。




 しかし、思わぬ出来事が起きた。彼女に跳びかかってきたゴブリンたちはバラバラ(・・・・)に成り果てる。ゴブリンはいくつかの肉片となってエリカの足元に落ちてくる。糸のような物が切断したかのような切口であり、彼らは声をあげることすらもできずに絶命した。彼女は驚愕(きょうがく)した顔でゆっくりと後ろを振り向く



「よお、生きてるか」


そこには逃げたはずの俺がいた。


「・・・えっ。うん」

「おいおい、どうした。より一層間抜け(づら)だぞ」

「さ、先に逃げたと思ったじゃない!」

「なぁに、俺の作戦の内だ」


 俺の作戦は仲間を囮として使い、ゴブリンが気を取られている内に遮蔽物に隠れてゴブリンを鋼線で巻き付け切断する作戦だったのだ。まったく、山道から抜けて気配を消しながら来たんだから疲れるわ。

けど、エリカに傷ひとつ付いていないから安上がりか。別にこれはデレている訳じゃない、彼女に利用価値があるから守っただけだ。



 ……実はゴブリンは八匹(・・)いたのだ。その一匹は包囲したゴブリンよりもやや若く見える。多分教育の一つとして連れてきたのだろう。若いゴブリンは樹の上から跳び降りて攻撃を行う。


「ザック! 危ない!」

「げっ!? まだいたのかよ!」


 素早く繊細に鋼線を編んで小型のサイズの盾を構成する。棍棒は盾へと吸い込まれるかのように振り落とされ、若いゴブリンの攻撃から身を守ることに成功した。盾により弾かれたゴブリンは地面に足を着けようとした刹那の瞬間、ゴブリンの体は数本の鋼線により縛られる。ゴブリンは苦しそうな(うめ)き声を挙げることしかできない。


「奇襲は失敗したら終わりだ。良い教育になったな、マヌケが!」


  体は骨もろとも切断され、大量の血飛沫(しぶき)を撒き散らした。血飛沫が俺やエリカの体に付くのを防ぐため鋼線で血液を弾いた。


 切断に用いられた武器は俺が所持する手袋『黒蜘蛛の手腕』(ブラック・バウーク)は使用者の魔力を糸に変化させ、敵を切断する武器である。汎用性(はんようせい)は高く繊細(せんさい)な操作も可能だが熟練の使い手しか扱えない武器だ。しかし、その武器と俺の技術が合わさるとまさしく最強。守りに徹しやすく、簡単に攻撃にも転ずることが出来るのだ。


「おかげで助かったわ。……その、ありがとう」

「まあ、こんなのは朝飯前さ。さっき朝食食ったばっかだが」


「だけどね!!」


 いきなりエリカは腕を挙げて全力の平手打ちを俺の頬めがけて打ち付けた。とても鋭い一撃であり、頬にくっきりと赤い手形が付いた。彼女も痛そうに手の力を抜きぶらぶらと振る。


「痛った! 俺の美貌になにやらかしてくれてんの!?」

「女性を囮にした罰よ。より一層引き締まったんじゃないの?」

「だ、男女差別反対! ついでに俺に関しての暴力も反対!」

「さっ、他のゴブリンが来る前に行きましょう」

「おい待ちやがれ、俺の話を聞け!」



俺とエリカは暗い山道を駆けて村へと向かった。

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