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クズ、人質を解放する

「大丈夫か!?」

「先生!!」

「早くこっちに!!」


 魔物の襲撃後、ほどなくしてから先生たちが帰ってきた。どうやら俺らが寝静まった時には先生たちは何処かに居たらしい。もしも先生たちが此処に居たなら、最悪の事態は免れたかも知れない。


「魔物たちが襲ったみたいね。さあ、早く重傷者をこっちに!」

「痛い、痛てぇよ!」

「落ち着きなさい、ヒール掛けるから」

「先生私も!」

「お、俺の腕があああああ!!」

「こっちも!」

「落ち着くんだ皆!」


 生徒たちはこぞって先生にヒールを求める。しかし、ケガ人と先生の数は断然生徒の方が多いのですぐには回復できずにいた。本来、重傷者を先に治癒させるのが鉄則だが擦り傷や浅い切り傷を負った生徒が我先にと囲んでいた。

 しかし、この状態を打破しようとする者がいた。


「……先生、私手伝います」

「僕も手伝おう」

「タシターン、ケガ人を頼むわ」

「わかった」


 そう、普段は無口で近寄り難かったタシターンだった。彼女は軽傷のケガ人にヒールを掛けていく姿は、他の生徒にとって彼女の小さな体が大きく見えた瞬間だった。そして、二人のこの勇気ある行動が生徒に反映されていく。


「お、俺も!」

「あたしも少しくらいなら!」

「俺もやります。治癒させるからこっちに来てくれ!」


 この二人の行動に感化されてか次々と生徒たちは手当を始める。その中にはジュスティスも含まれていた。おかげで先生たちが担当をするケガ人は重傷者だけになった。


「そういえばザックはどうしたの?」

「ザック君は連れて行かれたエリカさんを追って森の中に!」

「はあっ!? 先に言いなさいよ! 治癒が終わったらすぐに行くわ!」

「(ったく面倒ね、あのマセガキめ!)」


 俺に対する鬱憤(うっぷん)を募らせながらソンノ先生は回復魔法をケガ人に掛けていくのであった。





★☆★☆



 俺はその頃、あの魔物の通ったと思われる道をただひたすらに走り駆けている。エリカを引っ張っていたせいか、地面には引きずった跡が残されていた。その跡を追ってで俺は追跡をしているが、魔物は何処からともなく現れるのでそれを鋼線を用いて倒していく。やや服が汚れてしまったみたいだがそれを無視して進んで行く。


 俺の持っている武器は、黒蜘蛛の手腕と料理用の包丁だ。俺はナイフを扱うことに長けているので持ってきたのだが、包丁となると本来の力が出しづらい。しかし、持ってくるには申し分は無かった。



 森の中を走っていると太めの木に縄で縛られて気を失っているエリカが居た。俺は鋼線で縄を斬り、彼女手首の脈拍を確認する。

 脈拍は正常であり、特に大きな外傷も見られなかった。俺は彼女の肩を掴んでゆらゆらと揺らす。


「おい起きろエリカ!」

「……ん? ザックぅ?」

「そうだ。ほら早く立て、逃げるぞ」

「ごめんザック、今は力が入らなくてさ。ちょっと待ってて」

「あーもう、ガキかお前は!」


 俺はエリカを背負う、彼女は変な声を上げるもそれを無視して戻ってきた道へと走って行く。もしもこの状態で敵に襲われでもしたら反撃できる余地も無い、ただ逃げることしかできないのだ。このようなリスクがあるにも関わらず、俺はエリカを背負ったのだ。

 王都まで辿り着けたら本でも買って貰うからな、覚悟しろよ




 十分も休まずに背負いながら走るのは流石に俺でも無理だわ。辺りに鋼線を張るからちょいとばかし休憩でもしよう。エリカを背負ったのは遭難した時以来だな。

 俺は鋼線を半径十メートル間隔で木々に張っていき、倒木に腰を下ろす。エリカは鋼線を張り終えてから降ろした。てか落とした。


「痛いじゃない! 優しく降ろしなさいよ!」

「はぁ~、エリカ重かったわ。お前体重増えたんじゃないの?」

「お、王都に来てからちょっと……。って何言わすのよ!」

「まあまあ、気にするな。それよりもエリカ、質問がある」

「何よ」

「……誰に(・・)縛られたんだ?」


 獣型の魔物がロープを使って拘束出来るわけが無い。なら、人型の何者かが関与することになる。人間が関与していたとなると相当魔物を飼いならしていた筈だ。しかも魔法使いなら厄介だな。


「……あまり覚えてはないけど、何かカラフルな服(・・・・・・)を着てたわね」

「カラフルな服?」

「そうよ」


 暗い森の中に身を隠すのなら迷彩柄や暗い色が主流なのに派手な服装とはおかしい。まるで自分は強いから身を隠すことは無いとでも言っているのと同じだ。だけど、あれだけの魔物を従えているとは本当に何者なんだろう。


「脚も動くようになったわ。早く行きましょ、皆が待ってるわ」

「そうだな、行こう」


 倒木から腰を上げて、鋼線を仕舞う。俺だって朝が来るまで此処で待つなんて嫌だしな、早く帰って寝たいし。

 俺らが再び走ろうとした時に、暗闇から一匹の魔物が俺めがけて飛び出してきた。すぐに殴り飛ばしたが、こちらを見ている視線が増えている気がする。もたもたしていると食われてしまうかも知れないので急いで走り抜けることにした。




 草木も眠る夜中に森の中を突き進んでいく俺とエリカ。その後ろから魔物の群れが迫って来る。目を光らせながら器用に木々を避けながらこちらへ向かってくる。


「ぎゃあああ!! 何でザックは面倒事しか持ってこないのよ!」

「知るかボケっ! お前を助けるためだ。こうなったら囮作戦で逃げよう!」

「私は犠牲になりたくないわ!」

「俺もだよ!!」


 走り出したのは良いけどさ、まさかそこらで待ち伏せしてたとは思わなかった。そこらへの草陰からポンポン現れるんだもん、正直言って骨が折れるどころではない。たまに鋼線でちょっかい掛けてもめげずに追いかけてくるしもう嫌だ。逃げるために木を倒しても飛び越えてくるとか卑怯だろ、当たらなくても良いから止まれよマジで。


「どうしようこれから!」

「いつか追いつかれるわよ! てかまだなの!?」

「結構深い所に拉致られてたしな、ようやく半分ってとこ」

「嘘でしょ……」

「ほら口動かすよりも脚動かせ、犬の餌とか俺は嫌だ!」

「私もよ!」

「あー、せめてコーヒー飲んで死にたかった!!」

「脚動かせって言った奴が何言ってるのよ、バカッ!!」


 弱音を吐きながらも俺らは走る。目の前には太く、大きい樹があった。俺はちょっとした考えが浮かんだ。

 この大木を倒せばあの魔物も越えてこない筈。迂回するために左右から来るからそれを狙えば魔物の群れを全滅出来るじゃないか。やっぱり俺って賢い。


「エリカ!俺の前へ進め!」

「わかったわ!何か作戦があって言ってるのよね!」

「おうそうだ!」


 鋼線を大木の幹に絡ませてから思いっきり腕を引く。今までに無いほどの力を使用するが、斬れない程では無い。むしろこの危機的状況を打破できるのならする以外の道は無かった。

 鋼線により切断された大木は葉と枝を揺らしながら俺の真後ろで倒れた。巻き込まれた木によって木の壁は長くなる。魔物たちも数匹かは巻き込まれたようで動けなくなったり圧死するという事態になった。



 さて、ここからが反撃の時だ。左右から攻めて来るから一気に型を付けるに限る。ここは風魔法でやるか。


「エリカ、お前も何だって良いから魔法を唱えろ」

「わかった!」


 本来魔法という物は詠唱を唱えなければならないが、その詠唱を省くことが出来るのだ。念じるだけでも魔法発現条件は揃うのだ。だが、それは完全なイメージをしなければならないことや魔力の消費量が倍になるという欠点がある。そのため、人々は詠唱を唱えることが必要だ。しかし、ほぼ無限の魔力を持っている俺にとっては造作も無いことだ。



「汝が我を愛するように。汝が氷を愛するように!氷の一角フロースト!」

「それで撃ち漏らしを倒せ」


 彼女の方も詠唱を唱え終わったらしい。四本か、俺の撃ち漏らしを撃破して貰う分には丁度良いな。さて、そろそろ魔物が来る頃合いだな。

 俺の予想通りに左右から魔物が攻めて来た。俺は出す魔法の準備は終わっており、それを発現させた。


「食らっとけ、ワンコ共が」


 幾つかの風の斬撃が左右に飛んで行く。その斬撃は魔物の首を刎ね、胴を切断して正確に当てていた。運よく脚に当たって動けなくなった魔物が居たとしてもエリカの魔法で仕留めていく。完璧な連携攻撃であった。

 どうやら魔物の群れは全滅したらしい、逃げている時に撃っても別に良かったのだが何より正確性に欠けるのでしないでおいた。あと躱されやすいしな。


「これで安全ね」

「そうだな。魔法は使いたくは無いけど仕方ないか」

「上級魔法まで使えるとかザックの家の書斎はどうなってるのかしら……」

「そんなのはダロンに聞け、ダロンは魔法使わないのにな」

「ともかく、早く戻らないとね」

「っ!?危ねえ!」


 何処からともなく現れたナイフが彼女めがけて飛んできたので鋼線で即席の盾を構成して防ぎ切った。どうやら人型の奴が投げてきたのだろう。俺は鋼線で辺りを索敵する。


「ナ、ナイフ!?」

「誰だ!」


「ハハハハッ! 流石だね!」


 甲高い声を発した正体が木の上から倒した大木に飛び乗った。その姿は奇抜な帽子を被り、顔を白くしてその上からハート等のマークを書いて派手な格好をしていた。それは肥えたピエロそのものだった。


「あなたね!私を縛ったのは!」

「うん、お嬢さんを縛ったのはこのピエロ君さ!」

「おいピエロ。この一連の事件を起こした犯人はお前か」

「せいかーい!プレゼントとして風船をあげるよ!」


 何処からか出した赤い風船が俺に向かって投げられる。俺の視線はその赤い風船に引き寄せられるとピエロはナイフを投げた。それに気が付いた俺は顔に向かって投げられたナイフを口で受け止めた。


「いぎッ!?」

「アッハ!それを捉えるなんてスゴイね!」

「うるへえぞ、このピエロが」


 口からナイフを受け取り、彼に向かって投げ返した。彼は人差し指と中指でナイフの刃の部分を挟んだ。俺は瞬時にコイツはただ者では無いと感じ取った。

 この森はいつからサーカス団が所有する森になったんだよ。もしかして見物料払わないといけない感じか、俺は包丁しか持って無いけど。……さてと冗談はお終いだ、このピエロからエリカを逃がさないとヤバいな。


「逃げろ。相手は俺がする」

「だ、だけどザックは?」

「なーに、心配するな。俺があんな奴に負けるとでも思ってんのか?」

「……勝ちなさい」


 そうエリカは言うと宿泊地へと足を進める。ピエロは逃げる彼女の背中にダーツの矢を投げようとするが鋼線で壊す。


「悪いけど、ここから先は行かせない」

「アハハハハ!まるで童話で見かける姫を守る王子様だね、けど結局バットエンドになるけど!」

「この森でのサーカスは俺が認めて無い。さっさと天幕(てんまく)畳んで失せろ」

「うーん、それは無理だね。だって君と僕の楽しくて過激なサーカス劇が始まるからだよ!」

「……ならせいぜい俺を楽しませてくれよ、だってピエロなんだろ?」

「君は面白いね!まったくもって殺しがいがあるよ」




 こうして俺とピエロのサーカス劇場の幕が上がった。


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