クズ、トランプをする
竜車の中では生徒がワイワイと騒いでいるのが容易に想像できる。それもそうだ、遠足という大きなリクエーションに心踊らせているからだ。これから何をして遊ぶかや、どういうことをするのかという話題で竜車内は持ちきりだ。
そんな中、一つの竜者だけは異様な雰囲気を出している竜車があった。そう、俺らのところだ。
「さあ来いよ、ザック」
「あぁ、言われなくてもな」
「そんな茶番言わなくて良いから早くしなさい、目的地に着いちゃうわよ」
「……早く」
「うるせえ!」
俺は不安を抱えながらもザージュの手札に手を伸ばす。俺は五枚のカードの真ん中を引くことにした。俺はゆっくりそのカードを見るとジョーカーでは無かった。ペアが揃ったのでカードを捨て、俺は安堵の声を漏らした。
「ザージュ、来なさい!」
「僕は負けない」
ザージュは適当エリカからカードを引く、ザージュは顔色一つも変えないためジョーカーを引いたのかわからない。エリカも表情を崩さない。
もし、俺が引くときに彼がジョーカーを持っているとしたら厄介だな。俺はあいつにトランプで勝ったことないし、心理戦ならあいつの得意分野だしな。
「エリカの番か、ジョーカー当てろ」
「当たるはずないじゃない!」
エリカはカードをなぞるかのようにトランプに触る。魔力の使用は賭け事の場では禁則事項だ。例えそれが子供同士の遊戯でさえも。過去に俺も魔力でイカサマしようとしたらザージュに見破られた、何でだろう。
エリカはカードを引くが特に変化は無かった。
「来いよ、タシターン。俺は強いぞ」
「……これ」
タシターンは何のためらいも感じずに引く。俺は慎重派かと思ったけど大胆だな、俺はというと慎重派だが。エリカに言ったら全否定され、笑わらわれてしまった。何故だ。
一周し終わって再び俺の番に移る。慎重にカードを引き、確認した。ペアでは無いがハズレでも無い、有るよりかはましだ。もしかして彼の手札にはジョーカーが無いのか、という思考が脳裏に浮かんだ。
勝てる、この賭け勝てるぞ。
俺は勝利を確信した。
★☆★☆
十五分の戦いの中、残ったのはタシターンと俺だけだった。さっき考えていたことが消えて、敗北色が濃くなった。俺の元に一枚、彼女の元に二枚。失敗すれば高確率で負けるのが決まっていた。
「い、いくぞ!」
俺は彼女の手札へ手を伸ばす、緊張のあまり手汗で手が濡れていたのを感じた。緊張で頬に冷や汗が垂れる。大げさだとは思うがこれにはわけがあった。
どっちだ、どっちの方に悪魔が入っているんだ……。
俺は疑心暗鬼に陥ってしまい、息が荒くなる。疑心暗鬼というのは心理戦においては勝負を左右してしまう要素だ。まともな思考を持てずに、そのまま相手に騙されてしまうからである。俺は震える手でカードを捉える。
「頼む、俺の運よ!」
カードを勢いよく引き、天井に見せつけるかのように腕を上げる。そして、ゆっくりと裏を確認する。
カードの悪魔がその無様な姿を見て笑っていた。
「ジョ、ジョーカーだと!?」
「ザック、遂に引いたわね!」
「よし、タシターン。カードの確率は半分だ、当てれるぞ!」
「わかった」
俺は手を隠すようにシャッフルする。意味はあまりないが相手に動揺を与えるのには効果的だ。俺はカードを二枚見せる。
「やってみろ、タシターン!」
「これ」
「うぎゃああああああああ!!」
タシターンは即座に選んだ。そして場にはジョーカーだけが残っていた。悪魔は俺の敗北を見て腹を抱えて爆笑している。何故だ、どうしてこうなった。
「やったわねタシターン! 炊事はザックが担当よ!」
「よくやった!」
「……嬉しい」
負けられない理由というのは炊事担当だ。料理を作ってくるというかなりめんどくさい担当である。俺はそれが嫌なので頑張っていたのだがこのような展開になるとは思わなかった。
「お慈悲を誰かお慈悲をください!」
「嫌よ、ザックが決めたんでしょ」
「じゃ、弱者を見捨てるのですか!?」
「そういやザック、君は強者を憎む弱者の姿は醜いものだとか言ってたよね」
「ゲテモノ料理しか食ってないけど良いのか、あぁん!?」
「先生と一緒に作るように手配しようか?」
「ちくしょう!!」
立ち上がって天に向かって嘆いた。途端、竜車がガタンと揺れて俺はバランスを崩し狭い車内で倒れてしまった。普通なら心配の声も掛けてくれるが今回はそういかないかった。何故なら……
「……うわー、まるで人肌の様な温かさだなー」
「ひゃ!?」
そう、横に座っていたタシターンの膝に顔を乗せて膝枕をするような態勢になったからだ。タシターンはとても恥ずかしそうに顔を紅くして、頭からは蒸気が出ていた。
もう、俺ここで寝ようかな。うん、そうしよう。
自暴自棄になった俺はそのまま睡眠へと移行するために瞼を閉じる。しかし、現実はその通りにはいかなかった。
「な、なにやってるのよ! ザック!」
「ぐげっ!?」
首を持ち上げられて、俺の首を勢いよく回す。ゴギッと骨が鳴る音がしたので俺は無理やり睡眠へと移行されてしまった。せめて死ぬなら女の子の膝の上が良かったな、無念……
気絶して俺はピクピクと痙攣している。それに対しエリカ以外は非常に慌てふためいていた。それもそのはず、首から嫌な音が聞こえたからだ。
「ザ、ザック!?目、目を開けろ!」
「お、置きて!」
「二人とも安心しなさい、あいつはゴキブリ並の生命力を持ってるわ。だから安心しなさい」
「な、何で落ちつけるのエリカ!?」
「だって過去にもしているからよ、死にかけた事例は無いわ」
エリカの発言に対し、タシターンが落ち着いて言う。
「……エリカ、それが今」
「大丈夫よ、こうすれば起きるわ」
エリカが俺の耳元でささやく、二人にはその内容が聞こえなかったが俺は瞬時に目を覚ました。
「はっ!? 俺の桃源郷があるって!?」
「ほら言ったとおりでしょ」
「おいエリカ、俺の桃源郷は何処にあるんだ!?」
「ザック、よく生きてたな」
「うん、安心した」
「ん? そうだな」
それにしても俺のハーレムとお金の国は何処だ。これから建設予定なのだろうか、いやきっとそうだろう絶対。巨乳娘と一緒に遊びつくしてやるのだ、フフフフフッ………
「欲に染まった奴の相手なんて楽勝よ」
「あれだな、飼い犬と主人だな」
「……本当にそう」
皆が呆れている様な目でこちらを見てくるが気にしないでおこう、きっと俺の桃源郷に嫉妬を抱いているのだろう。ザージュは男だからダメだが、タシターンは俺の桃源郷の一員となって貰いたい。エリカは特別に掃除係として雇用してやるから安心しろ。
俺は下劣な思惑が渦巻いていた。ザージュが言うにはこれまで以上に目が輝いていたという。
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