クズ、遠足に行く
俺は今、非常に面倒なことに巻き込まれました。誰か助けてください、エリカに何でもして良いので。
草木も眠る夜中に森の中を突き進んでいく俺とエリカ。その後ろから魔物の群れが迫って来る。目を光らせて器用に木々を避けながらこちらへ向かってくる。
「ぎゃあああ!! 何でザックは面倒事しか持ってこないのよ!」
「知るかボケっ! こうなったら囮作戦で逃げよう!」
「私は犠牲になりたくないわ!」
「俺もだよ!!」
何故このような出来事になったかというとそれは二日前に遡る……
☆★☆★
「えー、生徒たちのオリエンテーションのために明後日遠足します。だるいわ」
「「「「「はああああ!?」」」」」
通常授業が始まってまだ一か月も経過していない頃。終礼でソンノ先生が言い放った。クラス全体が騒めき始めた。それもそうだ、何せ学校のパンフレットには遠足すると書かれてはいるが何月何日にするとは書かれていないからだ。
おいおい、嘘だろ。田舎出たばかりだというのにまた田舎に逆戻りかよ。ないわー、学校そういうのないわー。
「はい、先生もツラいですが頑張りましょう。先生も今日の朝いきなり言われたので面倒です」
先生も被害者じゃねえか。これは校長の方針でそうなったのか、それとも国からの命令で遠足になったのか……。はたまた別の組織からだったりしてな、だとしたらどんな組織だよ潰してやろうか。
「炊事もするし寝泊りもしますので、皆グループ作ってくれ」
かくして、クラスのグループ決めが始まった。グループの人数は最低四人となっている。俺とザージュとエリカで三人、あと一人足りない状態だ。あのジュスティス君を筆頭とするグループは十名もいる。カリスマ性も人間性備えているとか俺怖いわ。
「そうだ! タシターンちゃんを誘おうよ!」
「青髪のあの子のことだね」
「俺も賛成だ」
理由はメンバーを補う点と可愛い子が好きだからだ。野郎ばかりのグループとかエリカの魅力に引き寄せられたハエみたいじゃん。しかもタシターンのことは前々から目をつけていたし丁度良い機会だから落してやろう。
「見てよエリカ、ザックが悪いこと考えてるぜ」
「絶対に悪いこと考えてるわね、あの顔」
「ささっ、俺の美顔の話題なんて良いからタシターンちゃん誘いなよ」
「何が美顔よ。まあ良いわ、誘ってくる」
エリカは彼女の元へと向かい、俺らのグループに入らないかと誘っている。彼女は首をコクリと振った。どうやら勧誘に成功したらしい。二人は俺らの方へと戻ってきた。
「こんにちはタシターンさん、これからよろしく頼みますね。俺のことはザックと呼んでいいよ」
「僕のことはザージュと気軽に呼んでくれ」
俺は偽りの笑顔を浮かべながら彼女に接する。笑顔は大切って昔から言われてる。何故なら人に好印象を持たせることができるからな。笑顔をすると鏡が勝手に割れるぐらい俺の笑顔は素敵だからな。
「タシターンで良い」
「わかったよ、タシターンちゃん!」
「ち、ちゃんは付けなくても良い……!」
タシターンは顔を紅く染める。どうやらちゃん付けが恥ずかしかったらしい。俺はいきなり彼女の弱点を知ってしまったようだ。それと恥ずそうにしてる時の反応がスゴイ可愛い。
こうして俺らはグループを決めたのであった。
☆★☆★
そして当日、早朝に学校の門で待ち合わせと前日に貰ったしおりには書いていたが何で行くんだよ。馬車とかだったら俺が操縦する予定になるんだけど。何で疲れるところまで行くのに疲れないと行けないのか、おかしいじゃないか。てか俺以外の全員が馬車操れないとかどうなってるんだよ。
「ザック! 遠足とても楽しみだね!」
「何が楽しみだバカ野郎、俺は終始疲れるんだよ」
「いやぁ~、大自然のに空気はどういう味何だろう……」
ザージュは出発先について想像を広げていた。しかし口調からは察するに大自然とは関わらない様な生活を送ってきたらしいと読み取れた。しかし、眠気のせいで聞ける気力が一切無かった。
二十分後、先生たちがやって来た。点呼などで生徒数を確認し、ソンノ先生は口を開いた。
「はい、皆起きていや起きろ。単刀直入に言うがこれから竜車がやって来る予定だ。竜にはその場所のルートを覚えさせてあるので手綱を握らなくても良いそうだ。良かったなお前ら」
よしっ、初っ端から疲れるのは回避できた。けど、遠足で向かう土地がわからないままだ。極寒の大地とか猛暑の砂漠とかだったら死ぬんだけど、物理的に。
俺は場所に関する不安を抱いていた。独り夜の番もする所は絶対に行きたくない、それなら仮病使って休んでやるという意気込みだった。
「それと竜車から理由もなく降りないで、自分のクラスで遭難者が現れると私も怒られるんでホントよしてちょうだい」
「ザック、おやつ何持ってきた?」
「あぁん? 乾パンやビスケットだよ」
「そんな訓練しに来たんじゃないんだからさ、エリカはどういうの?」
「私はビスケット数枚とキャンディーが幾つかね」
「君たちは何で匂いが弱いのしか持ってないの!?」
「あー、現地で判明するわ」
俺らは育ちがほぼ自然だったので森に関することについてはベテランだ。何処に魔物がいるのか、そして何処に川があるか探すというサバイバル術も備えてある。そうじゃないと森に入った時に死ぬからな。
「タシターンは何持って来たの?」
「何も無い」
「どうして?」
「ケーキ持ってこれないから」
「そ、そういうこと何だね」
どうやら大量のお菓子を持ってきたのはこのグループでザージュだけらしい。てか、興奮しすぎだバカ野郎が先生に注意されるぞ。
「さっきからうるさいわね、ザージュ。不機嫌だから殴り飛ばすわよ」
「す、すみません!」
ほら、言わんこっちゃない。それよりもソンノ先生怖いな、ちゃんと服や化粧したら美人だと思う。ジャンルで言えば大人の女性って感じで。
ガラガラと、音をたてて龍車が迎えに来た。竜車は値段が高いので平民には一生借りれないだろう。籠の方も豪華な装飾がされており、いかにも貴族の乗る乗り物だった。
「ほら、早く乗って頂戴」
「先生が怒る前に乗れ、急げ急げ!」
「誰だ言った奴!」
俺らは素早く竜車に乗る。ザージュは手慣れた手つきで特殊なドアを開けた。俺はそこに不信感を覚える。
「結構広いわね」
「うん、快く本が読める」
「本とか、そういうレベルじゃねえよ」
「そんなことよりもお菓子食べよう!」
内装は座り心地が良さそうな椅子に高級ランタンが吊るされているため部屋は明るい。この内装に俺ら一同は驚いた。その時俺は、この装飾品をどう外して売っぱらうかを考えていた。
そして竜車はゆっくりと動き始める。体が揺らつく、それは竜車が動いたことを意味した。クラスの過半数にはこれは楽しい思い出になるものだった。
しかし、楽園へ運ぶ竜車は後に地獄に亡者を送り届けるに牛車へと変わり果てたのであった。
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