クズ、カフェに行く
「まさかだけど彼女?」
「そうだ。なっ、ザージュどうだ可愛いだろ」
「た、確かにな」
俺とザージュは小声で自分の思ったことを伝え合う。どうやら彼も彼女のことを言っていたと気付いたらしい、やはり俺の案は完璧だった。にしても俺と身長が変わんないとは身長が女性なのに高いな。
「どうしたの?」
「いえ何でもないです。ささっ、行きましょ!」
「そうだね、ザージュ君だっけ。君も来ない?」
「良いんです、ガハッ!?」
俺は彼女に見えない様にザージュの横腹を殴る。ザージュは地面にのたうち回る。悪いねザージュ君、君は良い友達だから俺の邪魔をしないで貰いたい。お詫びとして先輩との楽しいお土産話を聞かせてやっからさ。きっと、俺の内心ではゲス顔で笑っているだろう。
「ざ、ザージュ君!?」
「あー、きっと彼の持病である横腹イタイ病ですね。けどすぐに回復しますので放っておいてください」
「ザックぅ……」
「ささっ、行きましょう!」
「そうだね」
俺と先輩はそのままカフェへと向かうのであった。その後、ザージュがピクピクしている所を保健室の先生が見つけて保護したらしい。
ザージュは「ザックの奴を殴りたい」と終始呟いていた。
☆★☆★
王都には色々な店が並んでいる。王都はよく最先端を行く街と思われているが案外そうでもない。路地に入ると年季の入った店が並んでいる。そこの老舗のカフェに俺らは入って行った。
正直、俺は路地には入ったことが無かったので驚いている。
店の中に入るとコーヒーの匂いが自然と鼻の中へ入っていく。マスターをやっているのは初老の爺さんだ。貫禄があって若く見える。俺も将来ああいう爺さんになりたい、そうすれば枯れ専の女性たちに惹かれるだろうからな。
空いていた席に腰を掛ける。
「どうかしら、ここはあたしのお気に入りの場所なんだ」
「そうですね。如何にも隠れ家って感じがして俺は好きですね」
ややマスターが自慢げになっているのが見える。やはり褒められるというのは全人類の弱点だな、貫禄があるマスターでも嬉しがってたし。
「そういや名前教えて無かったね。あたしはジェネルー・アルディート」
「俺はザック・ドーフです」
「へぇ、うちの担任を負かした生徒は君か」
「担任?」
俺は試験時を思いだす。えーと確か、受験生の俺にガチになってた人のことだよな。名前何だっけ、てか名乗ってたっけ。俺は記憶を探るもぼんやりと眼鏡のことしか思い出せないでいた。
「そっか、あの先生の名前知らないかんだ。コレリック・フォルス先生って言うんだ」
「コレリック先生は俺に対してどんなことを?」
「何か今度は負けないと言ってた。それで早朝のグラウンドで剣を素振りしてる。裸で!」
「そうですか、裸で……。はっ?」
「そう、上半身だけどね」
あー、ビックリした。もし裸で鍛えてたらただの露出者じゃん、けど近いうちに憲兵に連れて行かれそう。新聞記者のインタビューが来たらでたらめな情報流してやろう。そうだな、小さい子供を誘拐して売買するというデマでいこう。
俺の中でコレリック先生に対する何かが決まった。
「そうだ、何頼む?」
「そうですね。やはりコーヒーブラックで」
「スゴイわね、ブラック何て」
「いえいえ、慣れますよ」
コーヒーブラックよりも苦い物を食ってきたからな、今まで。俺が初めて飲んだ時は甘いと感じたくらいだし。
「マスター、ブラックと砂糖とミルクを入れたのを頼みますね」
「承知しました」
マスターはコップ吹いていた手を止めて、コーヒーを沸かすために、豆を絞る。コーヒー豆の強い匂いが店中に漂う。俺は手間暇じっくり掛けて作ったコーヒーがとても待ち遠しくなった。
「それとさ、まさか学年で上位に入る実力者を倒すなんて驚いたわね」
「そうですか? あんな奴は造作も無いですよ。魔道具があったからといえど対応できれば勝てます」
「やっぱりね。けど、あの魔道具の特徴は魔法攻撃の威力を倍にする魔道具だったら。上位魔法撃たれたら厄介だったね」
「けど所詮は下級魔道具だから許容量をオーバーしたら壊れると思うのですよ」
「そうだね!にしても剣にしては切れ味悪そうだったね。刃まで金箔で装飾されていたし」
「ああいうのは魔法の威力を上げるために刃を捨てたものですからね。魔道具何て一長一短です」
俺とジェネルーは鍛錬所での出来事を話している内にマスターからコーヒーが届いた。コーヒー単品を頼んだはずなのにケーキまで出てきた。
「ありがと、マスター。だけどあたしケーキ頼んでないよ」
「いえいえ、大事なお客様たちなので」
「これはありがとうございます」
フフフ、やはり褒めたかいがあったな。てかケーキの高級感がヤバい、流石王都だと言っておこう。俺はフォークを持ち、ケーキを食べ始める。ケーキは柔らかくて、何よりも甘い。紅く実ったイチゴが宝石のルビーに見えた。何処で買ったのか気になるところだ。
そしてコーヒーはコクのある味わいで豆の種類や入れ方を学びたいと感じた。俺、ここでバイトしたいけど学校が禁止してるし……。ったく校則なんてクソ食らえだ、俺は此処でバイトとして働くんだい。
「そういやさ」
「何です?アルディート先輩」
「ジェネルー先輩で良いよ。そんなことよりも君の持っているそれも、魔道具でしょ」
どうしようか、ここで嘘をついて俺の魔道具について教えるか。だが教えるというのは俺の切り札の情報を教えるということにもなる。教えないでおくと先輩は怒るかもしれない、どうするべきか……
「後輩君、別に教えなくても良いんだよ。そりゃあ切り札のことは話したくは無いよね、あたしもそうだよ」
「……すみません」
「気にしなーい気にしなーい! |あたしだってそうだもん《・・・・・・・・・・・》」
彼女は情報を出したくない俺に問いかけず、逆に気にしなくても良いと励ましてくれた。しかし、俺は先輩のある言葉が引っかかった。
「ん?あたしだって?」
「あっ、口が滑っちゃた!」
普通口が滑ったら誤魔化そうとするでしょ。だが彼女の切り札的何かは流石に話してくれないだろう。
だが、彼女は俺の耳元に近づいて小声で爆弾発言を言う。
「後輩君には特別だけど実はあたしも魔道具持ちなんだ」
「はあっ!?」
彼女は自分が魔道具持ちであることを自らバラした。しかも彼女は悪びれも無く笑っている。俺は正直言ってこの先輩についていけないと思った。
「驚いたでしょ!」
「先輩! あ、あなたバカじゃないですか!?」
「へへへ、バカだと思った? 残念、学年主席でしたー!」
「はああああああ!?」
規格外だ。ガチの方で規格外だよこの人。規格外って言葉はもうこの人のために作られてんじゃないのか。こんなに驚いたのは家の書斎を見つけたきり、俺が十歳だったので約五年ぶりだ。
落ち着きを取り戻すために、コーヒーを飲もうとするが手が震えてまともに持てない。それどころか体全体が揺れている気がする。
「あっははは! 面白いね後輩君は!」
「そ、それはどうも」
「……おっと、もうこんな時間かあたしこの後予定あるんだ! ごめん!」
「気にしなくて良いので代金が俺が」
「ダメだよ! 先輩としてのメンツが立たないよ。だからあたしに任せなさい!」
先輩の謎の熱弁に俺は押されていた。まったく、俺がリードする方なのにリードされてんじゃん。とても悔しいです。
「後輩君はゆっくりしててね、じゃあね!」
先輩は急ぎ足でマスターにお金を払って出て行った。店には俺とマスターだけが残っていた。俺は残ったコーヒーを飲み干してマスターに言った。
「マスター、バイトは空いてますか?」
「いいや、空いておらんよ。だけどコーヒーの入れ方なら教えてやろう」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「むしろこちらからお礼を言いたいぐらいだよ。孫をよろしく頼むよ」
「えっ、孫?」
「そうだ」
……全然気付かなかった。この爺さんとの共通点が生きていることや人間であることしかない。先輩の親の遺伝子強すぎだろ。
俺はこの事実に呆気を取られるのであった。
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