クズ、決闘を申し込まれる
その日の授業は初回というので終わりが早い、午前を過ぎる頃には皆が帰宅の足を進めていた。しかし、二人だけは寮へと向かわずに二年生の教室に行く者も居た。
「ザック、一体どういう女子だったんだ?」
「そりゃあ胸が大きくて可愛いお姉さんだと思うんだ」
「だと思うだと? まさか顔を見てないのか」
「先生の方に向いてたからさ、どーしても見れなかった。だが、後ろ姿は脳裏に刻んである!」
「見返り美人という芸術の作品があってだな……」
「あれはあれだ。夜で傘を差してたからそう見えたのであって、体育館には夜も傘もないぞ」
「だけどザックは大体の女子のことを可愛いとか言うからな。信用ができないんだ」
「タイプが違うからな。あと懐の広さ」
「ストライクゾーンの間違いでしょ、ゆりかごから墓場までって言うし」
「そこまで広くねえよ!」
そう、俺とザージュだ。一年生の教室を見て回ってもそのような女子は存在しなかった。だから俺は先輩たちのクラスがある方へ向かうのだ。そう、淡い期待を持ちながら。
二年生のクラスの近くには先輩の方々が通路に溢れている様子が見える。ここからその女子を探すのは骨が折れるがやってみる価値はあった。
「居ないじゃねえか!」
「……なあザック、ホントに見たのか? 僕はそろそろ帰るぞ」
「ちょっと待てよ! 流石の俺でも独りは嫌だ!」
「じゃあさ、どうやって見つけだすのさ」
た、確かにそうだ。もしかしたらもう寮に帰っているかも知れない。女子用の寮は男子禁制だし、どうするべきか……。そう悩みに耽りながら歩くと誰かと肩がぶつかった。どうやら二年生の先輩の肩にぶつかってしまった訳だ。しかし、道が混んでいるので仕方がなかった。
「おい一年! 何で平民風情が高貴な俺にぶつかってきてんだ!」
そんなことは俺の耳には止まらず、俺は無視して先へと進む。その人は去って行く俺に怒りを覚え、肩を掴んでくる。俺は渋々、偽りの笑顔をして振り向く。
「申し訳ありません、先輩。まだ未熟な新参者なのでどうかお許しください」
「はぁ? 平民に新参も古参もあるかよ。まあ、俺の靴を舐めてくれたら許してはやるが」
この雰囲気から何かを察知したのか人々は足を止め、この状態を見ていた。やれやれ、気高き貴族様とぶつかるとは不幸だ。てか折角謝ってやってんのにそういう態度は非常にイラつきを覚えたわ。しかし、この状況を使ってお目当ての先輩を呼びよせる良い方法を思い付いた。
「……わかりました」
「ふんッ、それで良いんだよ」
俺は跪いて舐めようとする仕草を見せる。しかし、俺はそこまで従順では無いので右腕を使って男性の代表的急所にアッパーを食らわせる。例え貴族でも俺のためになるなら存分に使わせて貰いますがね。
「アオッ!!??」
気高き貴族様は情けない声を挙げ、股間を抑えながら悶絶する。俺も男の股間だとは触りたくは無かったが、先輩を呼ぶための手順なので仕方が無かった。ザージュを始めとする取り囲んでいた先輩たちが一斉に笑い出す。面白すぎて呼吸困難になる人もいた。俺も笑いを押し殺すのに必死だった
「て、テメエ!」
「ど、どうしましたか?気高き貴族様」
「よくも、貴族である俺をこんな羞恥的な行為をさせたな! 決闘だ、決闘をしろ!」
俺が望んでいたものが来た。そう、それは決闘だ。決闘自身は学校が許す限りは行うことができるため、決闘をエサとして目当ての先輩を呼び寄せる。それが俺の作戦だ。周りからは神妙な雰囲気が流れ出す。
「いいでしょう、俺は貴族が嫌いで堪らないんでね。特にあなたの様な人が」
「こ、この野郎! 負けて許しを請えても俺は許さないからな! むしろお前に恥を掻かせてやる」
そして乗ってやる。こんな程度の相手など造作も無い、逆にこっちがお前に恥を掻かせるのだがな。俺は邪悪な笑みを浮かべた。
「場所は三号館の室内鍛錬所だ!時間は三十分後!」
「了解しました。逃げないでくださいね」
「絶対にボコボコにしてやるからな」
貴族の先輩は三号館の鍛錬所を貸し切りにするために俺の前から去る。さて、俺はどのようにして先輩をナンパするか考えるとしよう。と目の前の危機よりその後を考えていた。その時に、ザージュが心配そうに声を掛けてきた。
「ザック、勝てるの?」
「なあザージュ。菓子の話題か動物の話題のどちらにすれば良い?」
「……心配した僕がバカだったよ」
頭に手を付けて、ため息をつかれた。野郎よりも女のことが大切なんでね、てかあんな奴には負ける気がしないし。と俺は慢心しきっていた。
☆★☆★
三十分間待つのが暇だったので新しく可愛い女子探しに夢中になっており、気が付けばもう四十分も経っていた。舐められると嫌なので俺らは気ままに歩きながら向かうことにした。
鍛錬所の外には沢山の見物人が待っていた。俺はその中を突っ切って鍛錬所の中に入ると金ぴかに輝く剣を持った気高い先輩が待ち構えていた。
「遅いぞ平民!」
「ほら言うじゃないですか、強者は遅れてやって来るってね」
「そんなのどうでも良い! 構えろ!」
「魔法は可能ですか?」
「可能だ! お前にとって良いハンデだからなぁ」
嘘だな、先輩の方が一足先に魔法を習ってるから有利だから使用を認めた癖に。一様、鍛錬所の見学席には協力な魔力障壁があるため一切の攻撃を通さない。俺は普通の一年とは違って、魔法に関してはこっちの方がさらに上だがね。俺は黒蜘蛛の手腕を着けて、鍛錬所に鋼線を張り巡らせる。
「俺のこの魔道具でお前を倒してやるからな!」
先輩がそう言うと辺りが騒めき始める。どうやら魔道具を初めて見た人が多かったらしい、だが自分の手の内を見せるとはまだまだ未熟者だ。と俺はあざ笑う。
「先輩、一つお願いがあります」
「何だ平民!」
「俺は暫く避けまくりますので先輩から攻撃してください」
「ふ、ふざけやがって!」
先輩は剣を振り上げて俺に襲い掛かる。しかし、若干は鍛えられているものもまだ二流。しかも魔道具の性能をわかっていないらしく、滅茶苦茶に振り回してばかりに対し俺は剣筋を呼んで避けまくる。この制服は防刃の魔法が掛けられているので当たっても斬られはしないが痛みは感じる。
しかし、五分も続けていると先輩から疲労を感じた。無茶苦茶に振り回したらそうなると俺は思いながら攻勢に出ようと決意した。
「先輩、今から攻撃を仕掛けますがよろしいですか?」
「い、何時までもふざけやがって!」
先輩は詠唱を唱えようとする。バカな先輩だ、近接戦闘中に詠唱したら返り打ちになってしまうと理解できないのか。まあ、俺にも慈悲があるので受けてあげようと思う。
「汝が私を愛すように。汝が風を愛するように、そして木々を斬りさけ! 強力なる風の刃!」
唱えた途端に黄金の剣が光出す。そして風の刃が幾つか発射された。こんな相手に魔法など使用するのは勿体ない、鋼線で受けてやろう。
「黒蜘蛛の強固な揺り籠」
この前の試験とは別の防衛陣を立ち上げる。この防衛陣は魔法には強いが物理には弱いという弱点があるが、防衛陣を変えれば済む話だ。鋼線は俺の目の前で大きな盾を構成して風の刃を防いだ。しかし何故か、中々の威力で戸惑ったが受けきって見せた。
あの詠唱でここまでの威力を出せるとも思えない。もしかして、あの魔道具が魔法攻撃の威力を倍増しているのか。けど、そんなのは問題は無い。
「ちっ! お前も魔道具を……」
「そうですよ。まああなたのとは違いますがね」
「この平民風情がああああ!!」
風の刃を幾つも飛ばして来たので、俺は斬撃を避けて接近する。先輩との距離は着々と近づいていく。
驚きを隠せないまま剣を構えるが俺は鋼線を使って取り上げ、彼を殴り飛ばした。彼の口から歯がポロリと落ちた。
「ぐはッ!?」
「はい、一発目」
彼は殴り飛ばされたため、地面に体を打ち付けて仰向けになる。そして俺はその先輩に跨り、顔面をタコ殴りにする。
「フハハハハハ!! 先輩どうです、バカにしていた平民にマウントを取られる気分は?」
「ゆ、ゆるひて……」
顔を殴り続けていたので目には痣、鼻血を出して唇が切れている。さて、タコ殴りにするのも飽きてきたのであの常套手段を実行しますか。そのことを皆にばれない様に小声で伝えた。
「だったら、あなたの貯金の全財産をくれたら許してあげます。それどころか負けてあげます」
「わ、わかった! さ、財布にある分しかないけど良いか?」
「勿論です」
ニコォと凶悪な笑みを浮かべ、俺はポケットから財布を取り出した。ほう、試験の時に会った嫡子とは違って良い皮を使った普通の財布だ。中には銀貨一杯入ってそう。
「じゃあ後ろに退けますので先輩が適当に攻撃してください」
「そ、そうだな」
俺は何かを感じたような演技をして彼から離れる。彼は魔法攻撃で俺に魔法攻撃を仕掛けるようだ。彼は詠唱を唱える。バカめ、俺はそれを狙っていたんだ。
「な、汝が私を愛すように。汝が風を愛すように、そして木々を斬りさけ強力なる風の……」
「……黒蜘蛛の剥ぎ取り術」
「ぐぎゃああああ!?」
先輩は服をビリビリに破られて気絶した。恐らく、自分が斬られたと勘違いしたのであろう。彼は地面ととても熱いキスを交わした。先輩は丸裸の状態なので見ていた多くの女子から悲鳴が上がる。それと俺の魔道具には防刃の魔法などは一切効かないため、たやすく斬れる。
そうやすやすと簡単に勝ちを譲ること何て出来ないです、はい。皮膚を傷つけない様に切る何て造作も無いがな。けど簡単に信じるのが悪い、俺は悪くない。さてと何処かな、あの可愛い先輩は。
そう思いながら俺は財布をポケットに仕舞い、お目当ての先輩を見つけようとする。だがしかし、何処にも居なかったため俺は仕方ないと思いつつザージュと共に鍛錬所を出ていく。
「君、スゴイね!ちょっとコーヒーでも飲みにでも行かない?」
しかし、出口付近で誰からか声を掛けられる。俺は振り向いて驚くことしか出来なかった。
何故なら、声を掛けてきたのが俺の探していた先輩だとは思わなかったからだ。
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