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クズ、平凡な日常を送る

「どうした、そんなにお金が欲しいか」

「はいっ、欲しいです!」

「私も!」

「ぜ、ぜひ!」

「そうかそうか。ほれっ、金貨だ!」


 俺はベッドの後ろに置いてあった宝箱から金貨を手に一杯掴み取り、俺の周りにいた美女たちにばら撒いた。美女たちは床に這いつくばり俺の金貨を拾い集める。俺はその風景を見て愉悦に浸る。中には金貨を巡って争いが起きている所もある。


ぐへへ、俺の撒いた金貨を女たちが拾い集める姿は最高だ。財産があれば女はいつまでもついてくる、所詮この世の中金なんだよ。


「あぁ、ザック様。一生ついていきますわ」

「私もです!」

「そうかそうか。なら、一生俺についていくがいい! フハハハハハ!!」


 素晴らしい、これが夢見た俺の理想郷だ。女を集め、酒を飲み、金に埋もれる。酒地肉林(しゅちにくりん)の生活こそ俺にとって、いやそれは全人類共通の最大の幸せであろう。

 俺のの甲高くも邪悪な笑い声は豪華な部屋の中に響き渡った。



☆★☆★



「フハハハハ! ……あれっ」


  瞼を開けて俺は知っている天井を見あげる。雨漏れを起こしている所がハッキリと見え、雨漏れかネミが乗っかったせいで穴の開いた天井があった。先程のような部屋とは雲泥の差であり、宝箱なんかは年季が入り埃を被ったタンスに変わっていた。


……えっ、まさか今のは夢だったんですか。マジすか、ということは今まで通りの貧乏生活のままですか。どうか返してくれ、それは全人類共通の幸せなんだよ。



「……お腹が空いたけどご飯が無い!」


あかん、ご飯が無いから猛烈にお腹が空いた。それもそのはず、俺はもうかれこれ二日は食ってないからな。もう最後食ったのカビの生えたパンだし、温かい食事なんて雑草ぶち込んだお湯だけだ。

 俺が空腹によって(もだ)えているなか、部屋の隅っこを黒い影が(うごめ)いた。それは俊敏で擬音語を付けるのならカサカサという表現が正しいだろう。


「……フッ、フフフフ! 俺は君を待っていたぞ、ゴキブリ君!」


 俺はゴキブリにも負けない速さでゴキブリを手で捕まえる。ゴキブリは手の中でモゾモゾと蠢いていた。その姿はまさしく蜘蛛(くも)のような動きである。



「さあどうやって食おうかな。丸焼きも捨てがたいな、ヘヘヘヘ」

「ちょっと待ちなさーい!!」


 俺がゴキブリをどう料理しようと考えている時に突如ドアが開かれる。しかし、蹴る勢いが強かったのかドアが老朽化していたのかあるいは両方だったのか分からないがドアの止め具が壊れ、ドアが壁に突き刺さる。外から金髪のツインテールをした少女が籠を持って入ってきた。



「おいゴラァ! 弁償と精神にダメージを負ったんで慰謝料も請求するからな!」

「そう、慰謝料の代わりにパン持ってきたけど要らないのね」

「おいしい慰謝料ありごとうございますぅ。エリカ様」


 俺は流れるように土下座へと移行する。当然、額を床につけて完全な土下座の体制だ。

……クソが、飢餓(きが)状態でなかったら余分に金を(むし)り取ってやるのに。しかし、背に腹は代えられない。エリカが持ってきたパンでも貰うとしよう。こんな汚物食えるかよ、じゃあなゴキブリ



 俺はユリから籠を強引に奪取、中に入っているパンを頬張る。砂糖やクルミを使っており美味しく柔らかくて温かい、そうこれは出来立てだと推測される。多分、この村に一軒だけのパン屋の商品だろう。

不意に涙が流れてきた。


「美味しい、美味しい……」

「何でたかがパンに泣いているのよ」


 こんな俺の姿をみてエリカは心底飽きれていた。


 そんな目で見るな。だって、最後の晩餐がカビの生えた硬いパンと雑草スープなんだ。自然と美味しく感じるに決まっている。昔から空腹は最高の調味料とも言うしな、まあ大抵の物は焼けば食えるけど。



「あなた、私が二日間近くの都市に行っている時に何していたのよ」

「そんなもん決まってるだろ。 本を読んで女をナンパするためさ、雑学がある男は女を引き付けるって言うじゃないか」

「ホント、しょうもないことにしか労力使ってないのね」

「そりゃあどうも。地下にはまだまだ本があるからな」


 そう、この家の地下には大きな書斎があり家の外装とは見合わないほど本の種類が豊富だ。ファンタジーから哲学書、しまいには魔術書もあるらしい。何故こんな貧乏生活を送っている俺が所有しているかというと昔、一緒に同棲していたダロンと呼ばれる男が理由だ。

幼い俺を引き取り、親の代わり育ててくれたが、俺が十歳の時に膨大な本と俺を置いて消えてしまった。そこから五年間に及ぶ俺の独り暮らしライフが始まったのだ。


「草むしりもしてあったけどもしかして……」

「雑草食ってました。お金欲しいです」



「……はぁ、数日分の食料をママに頼むわ。ちょっとついてきなさい」

「村はずれのこの家からわざわざ村に行くのかよ。面倒だからエリカだけ行って来い、俺は此処に居るからさ」

「そう、頑張って生きなさい。じゃあね」

「はい喜んでご同行させて頂きます。エリカ様!」


 人の弱みに漬け込みやがって、恥を知れ悪魔の手先め。けど生きられるだけまだマシと考えよう。


俺は万が一のために自分専用の武器である黒い手袋を着用。手入れは欠かさずに行っているためほつれている個所は見当たらない。むしろ新品そのものだ。

 俺とエリカは暗く湿った世界から光り輝く世界へ足を踏み入れることにした。

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