01~05
試しに色々書いているので、書き続けるかは未定です。
設定等適当なので、後々修正するかもです。
00 序
因果律という言葉がある。全ての事象は何らかの原因により生じた物である、という考え方だ。
是非教えて欲しいものだ、現状の原因とやらを……。
01
私は風呂に入っていた。そう、風呂だ。
そこに男が湧いて出た。
意味が分からない?こっちだって同じだ。
シャワーでは取り切れない疲れを風呂でまったり癒しているところだった。
足元から泡が出て、男が現れた。……ずぶ濡れの。
「「……」」
男は胸に釘付けだったが、はたと我に返り、
「も、申し訳ないっ」
と頭を下げて謝り、滑った。
がつんと良い音がした男の頭は痛かったろうが、私も男の胸が顔にぶつかって大層痛かったので同情はしない。
「風呂から出ろ」
痛がる男にそう命じた。
男は手で目を覆い、どうぞと言った。お約束の如く、隙間から胸を凝視するのをやめろ。
「いや、お前がだよ!」
何だろう、この言葉が通じて意味が通じてない感じは。
男が風呂場から出るのを見送り、頭を抱えた。
何だ、この状況は。
中には全裸の女がいて鼻を擦っている。
外にはずぶ濡れの男がいてしょぼんと項垂れている。
シャワーを浴び、男の横からタオルを取る。拭いてる間、ドアの擦りガラスに男の顔が浮かび上がったので、身体にタオルをまいた後、拳骨をくれてやった。
「脱げ」
「えっ。そ、そんな急に言われても……」
……もじもじと赤くなる男は意外と気色悪かった。
「洗濯するから脱げって言ってんだよ」
「……はい。お願いします」
男を風呂場に突っ込んで、剝ぎ取った衣類をまとめる。ブリーフ……。私はトランクス派だ。イラッとしながら洗濯を始める。
風呂場からは鼻唄が聞こえた。
残念なのは言動だけじゃなかったようだ。
02
男が風呂から上がった後、風呂上がりの一杯を飲みながら話し合うことになった。
私はビール。男は水だ。
「扱いが……」
とぼやいていたが、当然のもてなしだと思う。
「俺がここに来たのは」
男が説明し出す。座り心地が悪そうなのはジャージが少しきついからかもしれない。
「一人前になる為です」
「……はぁ?」
頭を傾げる。
「一人前になったら元の世界に戻れます」
繰り返す男の耳をぐいっと引っ張った。
「何、馬鹿な事言ってんだ」
痛い、と涙目の男にキレて叫ぶ。
「そういうのはちっちゃくて可愛い生き物か、女の子がやるから意味あるんだよっ」
「それで?」
と少し落ち着いた後、男に話を促した。
「それで、とは?」
「一人前になる、って何をもってして一人前とするか聞いている」
「……」
「身体か、金か、それとも頭か?」
「すみません、わかりませんっ」
男は土下座した。
「あ、でも。体は違うと思います。……だって俺もう一人前ですから」
その嬉しそうな顔を見て確信する。うん、頭だな、と。
聞いたことを整理してみた。
・数年に一回、見込みのある者達を異世界に送り出している
・大体一年位で戻ってくる
・魔法はあまり使えない
・武器は使える
・持ち物は他にない
「うん、帰れ」
「いやいやいやいや」
男が必死に宥めてくる。
「何も役に立たない奴を一年も養う余裕はない」
「ほら、俺結構強いし」
「ここは日本だ」
男は大層役に立たなかった。
「家事は得意か?」
「あー……、捌いたり、野営準備したりなら……」
こっちを見ろ、目を逸らすな。
残念な事に帰還アイテムは持っていなかった。
03
「まず第一に必要な事をしよう」
「了解しました」
男は敬礼で応える。教育の成果だ。
財布から千円札を一枚取り出す。
「コンビニ行ってパンツ買って来い」
「え」
「ブリーフは認めない。ボクサーならまあ良しとしよう」
「いや、色々ツッコミどころはあるけど、何でパンツ……」
千円札を片手に男が項垂れる。
「行って来い、……犬」
「そこは名前を聞く流れー」
一人で外に放り出す気かー、コンビニの場所知らねー、とごねる男、もといえっちゃんに引っ張られてコンビニに行くことになった。名前は簡単なのが一番だ。
「いらっしゃいませー」
眠そうだった店員の目がくわっと見開いた。えっちゃんジャージがとてつもなく似合ってないもんな。
「はなさん、良い匂い……」
おでんの誘惑から引き離し、下着コーナーの前に行く。
「さあ選べ」
「え、よくわかんない。はなさん選んで」
頬を思いっきり引っ張っておいた。可愛い女の子なら許せたかもしれない。
渋々選んだ(ブリーフは棚に戻させた)パンツを二枚手にしたえっちゃんの腹が鳴る。聞かなかったことにした。
「はなさんのいけずー」
大の男が涙目で強請るので、コンビニ店員の目が痛かった。
「これとこれとこれ」
「これも食べたい」
「……じゃあそれも一つ」
高い買い物になった。
04
夜中だったので、大根だけ食べながら話を聞く。
「で、えっちゃんは何をして稼ぐんだ?」
はふはふ。おでんに夢中で聞いていない。デコピンした。
「何と言われてもー」
何もできなさそうだ。頭悪そう。残念イケメンめ。
「じゃあまあ洗濯物干しといて」
脱水の終わった洗濯機が呼んだので、えっちゃんに指示をする。
その間にパソコンを立ち上げる。この世界、情報に溢れてるからな。
……こっちに来た場合の情報はどこだ!
いや、あるけどさ、あるけども。えっちゃんの残念具合に比べると高スペック過ぎるだろ、来た奴。
見てみろよ、えっちゃんを。裾から干してるせいで、袖が万歳してるぜ。
結論、この世界で稼ぐ方法は載っていなかった。
中身の入っていないおでんの器を名残り惜しそうに眺め、汁を啜り出したえっちゃんに声をかける。
「寝る」
明日も仕事だ。えっちゃんに振り回されてる訳にはいかない。
「は、はなさん、俺も一緒に」
ベッドに縋り付いてきたので、天袋から予備の布団一式を出させた。
初めてえっちゃんが役に立った。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
05
翌朝、いつもの時間よりもずっと早く起きた私はえっちゃんに言い聞かせた。
「一つ、警察には捕まらない。一つ、私の名前を出さない。はい、復唱」
「一つ、警察には捕まらない。一つ、はなさんの名前を出さない」
「うん、良し」
満足した私は餞別の千円を渡した。
今日のえっちゃんは綺羅綺羅しいイケメンである。野暮ったいジャージを脱ぎ捨てて、元の制服に袖を通したえっちゃんは見た目だけ上等だ。
ぽんっと肩に手を置き、餞の言葉をかけた。
「達者で暮らせ」
玄関に鍵をかけ、えっちゃんも締め出す。
電車の時間が迫っている。えっちゃんが何か叫んでいたので、手を振って応える。
「良い飼い主を見つけろよー」
今日は良い日になりそうだ。
続く