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殺人遺伝子  作者: 菱川あいず
第4章
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宿命(1)

 せっかく近付けたと思っていた澄花との距離が、また遠くなった。


 二人をへだてるテーブルはダンボール二箱分ほどの広さしかなく、少し乗り出せば、コンビニのサラダを頬張ほおばる少女の頭をでることだってできる。

 しかし、楡がいくら澄花の髪に、澄花の顔に、澄花の唇に触れたところで、澄花そのものに触れることはできない。

 あの夜、澄花が楡に対して語った、澄花と柊との遺伝子交換の話は嘘だった。澄花が楡に全てをさらけ出してくれたと思ったのは、楡の錯覚さっかくに過ぎなかった。

 本物の澄花は、やはり楡が関わることのできない世界に居続いつづけているのである。

 

 -嫌だ。絶対に嫌だ。澄花に近付きたい。澄花と同じ世界にいたい。


 かすみせきの殺対本部から帰宅して以来一言も発することがなかった楡は、ようやく澄花の心へと手を伸ばす決意をした。



「澄花、今日僕は柊を殺対に連れて行った」

「え?」

 澄花が持っていた割りばしが、サラダの緑の中へと落ちる。



「……嘘でしょ?」

「嘘じゃないよ。『コルザ』で待ち伏せして誘拐したんだ」

「バカじゃないの!!楡、私の話聞いてたの!?柊は私にとって大切な存在なんだよ!?」


 澄花は立ち上がると、楡の髪を鷲掴わしづかみし、引っ張り上げた。

 澄花が楡に対して暴力を振るうのは初めてのことだったが、この怒りの表現も単なる演技に過ぎないのだろう。



「澄花、もうやめようよ。僕はもう知っているんだ」

「知ってるって何を?」

 立ち上がった楡を、澄花が少し見上げるようにしてにらみつける。



「柊の遺伝子検査は陰性だった。柊は殺人遺伝子保有者じゃない。つまり、澄花、やっぱり君が殺人遺伝子保有者なんだ。君が佐渡と性交渉をし、佐渡を殺したんだ」

「……?え?楡、何言ってるの?柊の検査が陰性だったって本当?」

 澄花は頓狂とんきょうな声とともに、楡の髪を引っ張っていた手を離した。

 さすが1年間も楡をだまし続けただけはある。素晴らしい演技力だとめるべきだろう。



「澄花、演技はもういいよ。今度こそ僕に真実を話してくれ。僕はどんな澄花だって受け入れる。たとえ澄花が殺人遺伝子保有者だろうが殺人鬼だろうが悪魔の化身けしんだろうが、僕は澄花を愛す」

「演技じゃないよ?楡の方こそ本当のことを言ってよ。柊が殺人遺伝子保有者じゃないっていうのは本当なの?」

「だから澄花……」


 ピンポーン、という旧式のインターホンの音が二人の言い争いを仲裁ちゅうさいした。



 「澄花、部屋の中にいてね」

 

 澄花の肩をポンと叩くと、楡は部屋を出る。

 部屋と廊下を隔てるドアを力一杯閉めた楡を、廊下に滞留たいりゅうした冷気れいきが出迎える。それは楡の興奮を少しだけ冷ましてくれた。

 


 サムターンを回して玄関ドアの鍵を開けるとき、楡は不用心ぶようじんにもチェーンを掛けなかった。


 不用心を後悔こうかいするのは、実際に何かが起こってしまった後だけである。何かが起こってしまって初めて、その行動が不用心だったかどうかが分かる。

 

 全身の力を失い、なすすべなく玄関に倒れ込みながら、楡は自らの不用心をいた。

 少しだけ開いたドアから突き出されている黒い物体は、おそらくスタンガンだろう。

 それを握っている人物は、茶色いロングコートを羽織った長髪の女性だった。

 


 「澄花、窓から逃げて」という言葉を叫んだつもりだったが、実際には呼気こきすらも出すことができなかった。

 口だけでなく身体の全てのパーツが言うことをきかない。まるで幽体離脱ゆうたいりだつをしてしまったかのようである。

 


 玄関に仰向あおむけで倒れながら、楡は部屋のドアを開けて廊下に飛び出してきた少女の姿と、彼女が発した言葉を認識した。



「有菜ママ!!」


 澄花の声色こわいろからは、再会の喜びも歓迎の意も感じ取れない。

 母親代わりの女性の名を呼んでいるというのに、その声は単なる悲鳴に近い。


 薄れゆく意識の中で、楡はようやく気が付く。


 柊が殺人遺伝子保有者でなく、なおかつ、澄花がうそを吐いていないのだとすれば、考えられる真実は一つしかない。


 殺人遺伝子の真の保有者は、小美濃有菜。


 そこまで考えたところで、楡の思考は意識とともに途絶とだえた。

 この後書きを使って感想を下さった方の作品の紹介をしてきたのですが、残念なことに「殺人遺伝子」はあと数話で完結するため、感想を下さった作者様全員の作品を丁寧に説明することができないことが判明してしまいました。。

 感想やレビュー等のお返しは必ずするので、ご容赦下さい。。


 最後に一人だけ、僕が大好きな作者様を紹介させて下さい。空見未澄様です。

 勘の良い方はお気付きかもしれませんが、澄花の「澄」は空見未澄様の名前からとりました(嘘です)。

 空見様との出会いのきっかけは、空見様がtwitterで僕の妹萌え作品を絶賛して下さったことでした。その後、僕が空見様の「スクールアイドルになれなかった彼女と呪われた男」という作品を拝読し、コメディーの裏に隠された緻密な人物描写と綿密なトリックに感動し、空見教徒になるわけです。

 そして、twitterのDMで無駄絡みするに至ります←ぇ

 そんな空見様は、僕が「次回作まだですかぁ」と催促したゆえか、それとは全く無関係に創作意欲が湧いたゆえか、「卒業旅行は二泊三日で異世界に行きませんか?」という新作ファンタジーをなろうにて投稿しております。コメディータッチの中に恋愛模様があり、犯人探しの推理要素もあり、僕が好きなメンヘラ系女子のユキノコちゃんもいて、軽くとも深い、とても俊逸な作品になっております。

 皆様も空見様の作品の虜になってみませんか(宗教勧誘)?


 柊に遺伝子検査で陰性が出るという展開に、想像以上の反響があって嬉しいです。

 いわゆる「二重底」のトリックを使ってみました。詳しいトリックの解説は、きっと作中で登場人物達がしてくれると信じていますので、作者は呑んだくれていようと思います←ぇ

 

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