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殺人遺伝子  作者: 菱川あいず
第2章
35/55

殺人

 楡のくわだてた「フランス革命」は、無事、成功した。


 何者かによる情報のリークがあったことをネットニュースが伝えたのは、楡の犯行から僅か1時間後だった。

 翌日の朝刊では、一部のスポーツ新聞を除き、全紙がそれを一面で伝えた。

 社説において、早速フランス政府を非難する新聞社もあった。

 

 朝刊が出たその日のうちに、内閣総理大臣によるフランス政府に対する抗議、フランス大統領による謝罪会見が行われ、フランスの遺伝情報流用騒動は、両国にとどまらず、全世界を揺るがす大スキャンダルになった。


 なお、謝罪会見において、フランス大統領は、日本人の遺伝子情報を破棄せずに保管した理由について、「万が一の非常事態に備えて。遺伝情報を使用する具体的な予定もなければ、過去に遺伝情報を使用したこともない」とだけ述べた。

 要するに、けむに巻いたのである。



 その後の展開は、いちかの予言通りになった。

 日本政府はフランスへの制裁せいさいとして、空港での遺伝子検査の禁止を強く求めた。

 そして、フランス政府はこれを素直に呑んだ。

 フランス政府が抵抗できなかったのは、日本との約束を破ってしまった、という負い目があったからであるが、それだけではない。

 よりリアリスティックな観点からいえば、国際社会が、フランスに対して、遺伝子検査を禁止するように圧力を掛けたからである。あらゆる国家が、これを奇貨きかとして、「殺人遺伝子保有者」というババを一挙にフランスに押しつけようとしたのである。

 「殺人遺伝子保有者」という得体の知れないものを自国に大量流入させることはたしかに気持ちが悪いが、国際社会から総スカンを受けるよりはマシだ、ときっとフランスは考えたのだろう。



 なお、テロリストである楡が野放しになる算段は高かった。

 それは、楡が痕跡(こんせき)を残さないようにハッキングを行ったためでもある。

 しかし、それ以上に、国民からバッシングを受けることを恐れ、日本の警察が捜査に消極的だったためである。名もなきハッキング犯は、フランスの約束違反行為から日本人を守ったことにより、国民から英雄視えいゆうしされていた。



 いちかの言っていた「フランス革命」の次のステップ-殺人遺伝子撲滅法の廃止に向けた社会運動というものは、まだ本格化していない。

 殺人遺伝子撲滅法に反対するあらゆる団体が活気づいていることは事実だが、フランスに制裁が下ったことにより、国民の怒りがしずまってしまったこともまた事実である。


 内閣総理大臣は、「殺人遺伝子撲滅法は、日本の治安を守っている法律だ。これを廃止せずに、国民の遺伝情報がちゃんと保護される、安心な制度設計を目指す」と述べた。

 そして、美辞麗句びじれいくに踊らされがちな我が国民は、おおむねね、この内閣総理大臣の発言に賛同している。


 フランスのスキャンダルは、殺人遺伝子撲滅法廃止運動の追い風になったことはたしかだったが、決定打にはならなかった。

 いちかの言う通り、ここからが法曹の腕の見せ所なのかもしれない。



 ただ、バスティーユ監獄の破壊、すなわち、殺人遺伝子保有者に国外逃亡の道を開く、という、楡の目標はとどこおりなく達成された。


 柊を救うには、これで十分である。



 柊に、命が脅かされない異国での生活を与えることができた。


 柊に、普通の女の子としての、普通の生活を与えることができた。





 -そう思っていた。

 

 あの衝撃的なニュースを見るまでは。





 楡がそのニュースを見たのは、サイバーテロを仕掛けてから4日後のネットニュースでだった。

 そのニュースは、速報として、楡の携帯電話に配信されてきたものだった。


 それは、見出しからして楡に衝撃を与えた。



「市川市男性殺人事件の容疑者が殺人遺伝子保有者であることが判明」



 しかし、楡に、頭を金槌かなづちで打ったような強い衝撃を与えたのは、記事の内容だった。



「警視庁は、本日正午過ぎの記者会見において、昨日、千葉県市川市で発生した殺人事件の容疑者が殺人遺伝子保有者であることを発表した。容疑者は、安原柊(18)。容疑者の所在は不明であり、警察は容疑者の行方を追っている」




 ……やっと、書けました!!!!連載当初から、この話の最後の一文を書きたくて書きたくて仕方なかったんですよ(笑)

 このお話で、第2章(起承転結でいうところの「承」の章)が終わりです。

 大胆に言ってしまえば、第2章までは全て前フリでした。第3章からこの作品はようやく始まります。


 実は、僕、ずっと心苦しく思ってたんですよ。「推理」にジャンル設定しておき、しかも、同ジャンルのランキングで1位をいただきながら、今までの展開だとほとんど「推理」の要素がないんです。「SF」もしくは「恋愛」だろ、と、自分で作品にツッコミを入れていたのです。


 海外旅行経験もなく、パソコンにも一切詳しくない作者なので、楡のテロ行為については、正直、そこまで上手く書けたとは思っていません。用語の使い間違いや実務との矛盾が生じている可能性があると思っています(気付いた方がいらっしゃったら、ご指摘していただけると嬉しいです)。


 ただ、このお話において、楡のテロ行為の位置付けは、いわゆる「おとり」です。

 第1話目をテロ行為からスタートしたのは、のっけから読者の関心を引きたい、という思惑と同時に、テロ行為がこのストーリーにおける肝である、とミスリードさせるという思惑もありました。


 あ、ちなみに、第1話やあらすじにおいて、「国家転覆のテロ」と記載し「フランスへのテロ」と記載しなかったのは、簡単な叙述トリックです。楡が企てたテロの対象国はフランスですが、あたかも日本に対してテロ行為を働くかのようなミスリードを狙いました。


 

 それでは、皆様、改めまして、


 推理小説「殺人遺伝子」の世界へようこそ。

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