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殺人遺伝子  作者: 菱川あいず
第2章
28/55

試着(2)

 デパートの広い空間は、開店セールに群がる人で溢れていた。


 入っている店舗の一つ一つがテレビやネットで取り上げられている、いわゆる「今話題の店」であり、区画を進むごとに、食べ物、香水、アロマの違った良い香りが漂ってくる。

 店内の照明だけでなく、行き交う人の顔も皆して明るい。


 三浦さんの後ろをついてエスカレーターを昇った楡が辿り着いたのは、アウトレットの洋服店が軒を連ねるフロアだった。


 一般的にファッションにはうといとされている男という生き物の中でも、楡はとびっきりファッションに疎い方だ。

 そんな楡にとって、洋服屋に並ぶ洋服はどれも同じに見える。三浦さんが次々と手に取るニットの上着だって、どれも同じような色、同じような形に見える。一体、上着を自分の身体に当てながら、三浦さんはどこを見て、何を判断しているのだろうか。

 どの服がオシャレで、どの服がダサいのかだなんて、楡にとっては禅問答ぜんもんどう並みに何のことかよく分からない。



 「オシャレな服の方が売れるんだから、洋服屋はオシャレな服だけを置けばいいと思う。なんでわざわざダサい服も置くの?」


 5つ目に回った店舗で、楡がずっと思っていた疑問を口にすると、三浦さんはお腹を抱えた。



「佐伯君は面白いね」

「なんで?」

「考え方が独特」



  三浦さんは笑うと左頬ひだりほほにエクボができる。

 飲み会でベロンベロンに酔った遼平が、本人の前で「葵ちゃんのエクボに日本酒をいで飲みたいよな」というセクハラ発言をするくらい、三浦さんのエクボは男子から人気がある。

 というか、そもそも三浦さん自体、男子からすごく人気がある。

 目鼻立ちの通ったルックスだけでなく、上のセクハラ発言を笑って許してしまうほどの包容力ほうようりょくも、彼女が「千葉修習のマドンナ」と称される所以ゆえんである。

 


「佐伯は運が良いよな。ずっと三浦さんと一緒だもんな」

 同じ飲み会において、そう言って楡の肩をポンっと叩いたのは、刑事裁判修習で楡と三浦さんと同じ部に配属されていた荒居君だった。


 単なるくじ引きの結果だとは思うが、刑事裁判修習でも、民事裁判修習でも、検察修習でも、楡は三浦さんと同じ部に配属されていた。

 

 三浦さんは優しいし、目の保養にもなる。

 特に努力したわけでもないのに、修習中に常に三浦さんがそばにいてくれるという立場を、楡自身も幸運だと思ったことは何度もある。

 他の男性修習生から嫉妬しっとの対象となることも分かる。


 ただし、冷やかされるのは違う、と楡は思う。

 



「佐伯君、今度は別の階に行って男性ものの服も見に行こうよ」

「彼氏にプレゼントでもするの?」

 

 三浦さんには長い間付き合っている彼氏がいる。

 厳密にいうと彼氏以上の存在、婚約者フィアンセである。

 彼は、三浦さんの大学の2つ上の先輩だそうで、既に東京の大手事務所で弁護士として働いている。



「違うよ。私の服ばっかり見てると、佐伯君に申し訳ないかな、って思って」

「気を遣わなくて大丈夫だよ。僕は別に自分の服を見たいわけじゃないから」

「佐伯君、ファッションに興味がないんでしょ?」

「あ、バレてた?」

「バレバレだよ。私が洋服を見立ててあげる」

「そんな、見立ててもらうなんて悪いよ」

「私の趣味だから、別に気に入らなかったら買う必要はないからね」


 女性店員を呼びつけ、「元の場所に戻しておいて下さい」と言って、持っていたデニムのスカートを渡すと、三浦さんはエスカレーターの方に向かってスタスタと歩き出した。




「うーん、こっちだと少し丈が短いかなぁ」

 

 やはりどこに違いがあるのかよく分からない何点かのジャケットと楡の姿を見比べながら頭を悩ます三浦さんを見て、楡は想像する。

 きっと、三浦さんは婚約者とのデートでもこんな感じなのだろう。

 婚約者は、お節介焼きの三浦さんをたまにまどろっこしいと思いながらも、きっとありがたがっているのだろう。こんなに面倒見の良い彼女を持っているのだから、彼は安心して仕事に打ち込めんでいるに違いない。


 既に他人の物になっている女性をジロジロと見ることの背徳感に耐えられなくなった楡は、三浦さんに背を向けた。

 三浦さんを待っている間は手持ち無沙汰ぶさただったので、台に置かれているTシャツにプリントされている英文を翻訳ほんやくして時間を潰した。




 「ねえ、佐伯君、この服なんてどうかな?」


 三浦さんが選び抜いた洋服は、黒に近い紺色のジャケットだった。

 楡が普段着ているスーツとデザイン的にはそれほど変わらないように見える。

 


「生地は薄めだから秋服って感じかな?下は白のTシャツが合うかも」

「この服、気に入ったかも」

「本当に?」

 姿見すがたみの前に立った楡は、三浦さんから渡されたジャケットを羽織り、クルリと回ってみた。

 似合っているのか似合っていないのかはイマイチ分からなかったが、楡はなんとなくこの洋服が好きだった。

 


「そんなに変じゃないよね?」 

「うん。似合ってる。佐伯君にピッタリ」

「これ買うよ」

 

 楡の判断を歓待するように、三浦さんの左頬にはくっきりとエクボが浮かんでいた。


 もっと早くご報告すべきだったのですが、気絶してしまうくらいにありがたいことに、現在、この作品は3日連続でジャンル別日間ランキングの1位を走っています!!

 推理というジャンルはなろうの不人気ジャンルなので、他のジャンルに比べてシェアが小さく、競争も激しくないことは存じているのですが、それでもやはり嬉しいです。心ピョンピョンしています←


 ランキングからこの作品を訪れて下さる方も少なくないと思います。

 はじめまして。菱川あいずです。妖怪とアイドルと深海魚が好きです。


 そして、pt評価も500ptを超えました。400ptのときの感謝を挟む余地もないくらいに急激にptが入り感謝しています。スマホの画面を確認し、1pt増えるたびにガッツポーズしています。

本当はブックマーク、評価をしてくれた方全員に個別に感謝をし、金一封を差し上げたいのですが、感想と違って作者からはアカウントを辿れない、というシステム上の都合と、なろう初の裏金問題に発展しかねない、という危機管理上の都合で実施不可能です。

 この場を借りて、感謝します。僕の夢を支援して下さり、作品に力を与えて下さりありがとうございます。


 あ、「試着」というサブタイトルには、ジャケットだけでなく、他人の彼女を「試着」するという意味も込めてあります。


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