今日で世界は終わります
ざっと、書き上げたので矛盾ありです。
そのビッグニュースはあっという間に校内を駆け巡った。
だからそれを知ったのは高校に着いてからだった。
だが、管理された生徒達に自由な行動は許されない。
つまり、逃げられない。
そもそも世界が終わるなら逃げ場など無いのだが。
最期ぐらい家族と過ごしたいだろうに。腰の重い教師達はたかが一般的な高校の方針を決めるのに1時間もかかるらしい。
その間に行動力のある、いや協調性の無い生徒達は勝手に帰り始めた。
その中の一人に私も含まれる。
メールで母親と父親に『やりたいことをやってから帰る』と送ってから電車に乗った。
田舎の駅にはそこまで人は居なかった。
世界が終わるというのに帰らなくて良いのだろうか。それとも自分達の管理者に帰して貰えないのだろうか。
電車を運転する人も可哀想だと思った。だけど、電車が動いていて良かったとも思った。
電車に乗る彼らの目的はきっと、大切な人の所に帰る事だと思う。
だが、私は世界の終わりとやらを海を眺めながら迎えたいと思った。
ロマンチックだと思うだろうか。私的には孤独死を望むようなものだと思う。
うるさい親達はきっと、帰ってこいと言うだろうけど。
最後ぐらい好きにさせて欲しいと思う。
私にとって親とはそれぐらいの価値でしかないということをこの際、はっきりしておこうと思う。
私を創った存在。
生まれたくて生まれたわけじゃ無いのに、生きる事を強制されて。死ぬ事が何よりもいけない事だと教えこまれて。
死ぬ事を許されない。
別段、生きたいと思った事も死にたいと思った事も無いのだが。
ただ、生きるのは疲れるなと。そう思うだけ。
楽しみながら生きるなんて、何事も楽しむのにも努力が必要だ。それが面倒くさい。
窓の外を眺めながらぼんやりと視線をさ迷わせる。
過ぎて行く景色が速すぎて、細部まで見渡す事が出来ない。
人生とはこんなものだと思った。
海から一番近い駅で降りた。
そこからはバスもタクシーにも出会わなかったので徒歩で向かうことにした。
気分が晴れるような晴れ。
青空が広がる今日、世界は終わるらしい。
海に着いた。田舎の浜辺はけっこう汚い。
ゴミが漂着してる。
そのゴミもいろいろなゴミがあって見ていて楽しい。
人間ピラミッドの天辺にいる人達はこんな気分なのだろうか。
ゴミを見飽きたら、次は貝殻を探す。かなり綺麗な貝殻は探せば沢山見つかる。でも、探す時間はあるのだろうか。
人にとって、数ある中から選択を迫られる時に時間が足りないと思うのと、同じだろうか。
貝殻を腰が痛くなるまで集めるといつの間にか太陽が傾いていた。
通りで手元が見にくくなっている訳だ。
流れ着いた大きな枯木に腰をかけて足元に集めた貝殻を落とした。
目の前の角度を水平にしていく太陽を眺めた。
暫くすると、宇宙と海の境界をさ迷いだした。
世界の終わりとはこういうものなのだろうか。
ふと我に返り、少し寒い事に気づいた。
まだ暫くは世界は終わらないらしい。
「帰りなさい。」
後ろから声をかけられた。
びっくりして振り返ると仲の良さそうな老齢の夫婦が佇んでいた。
彼らが帰れと言うなら帰った方が良いのだろう。
足元の貝殻を無造作に掴んで少しの砂と一緒に制服のポケットに入れた。
二つ取り出して老夫婦にあげた。
『ありがとう。』と微笑んで手を振った彼らに私は感謝する。
だって、世界の終わりに人から感謝されたのだ。少し嬉しかった。
電車に揺られながら家から一番近い駅で降りた。私しか乗っていなかった。
車掌さんにも貝殻を一つあげた。なんだか私の為だけに駅のホームで待っていてくれたように思ったからだ。自意識過剰だと思うが。
階段を降りて外に出た。
空が赤く染まるこの時間帯は、車が行き交って居るはずなのに一台も見当たらない。
お祭りでもないのに車道の真ん中を歩いて帰れる事に少し興奮した。
家に近づくにつれて、何時もより長かった黄昏が夜へと遂げていく。
なんだか夜に成りきる前に家に着かなきゃいけない気がして走り出した。
息を切らして風除室のドアを開け、玄関の扉を開け、家に駆け込んだ。
家族はリビングに集まってテレビを付けてニュースを見ながら床に布団を敷いていた。
何時もなら各自の部屋のベッドで寝るのに。世界が終わるから最後くらい一緒に寝ようという事なのだろうか。
私が帰ってきたことに気づいていない様だった。
なんとなく、この空間に居たくなくて二階の自分の部屋に向かった。
空を見上げると、夜空になっていた。
青空だったのが、赤く染まり、全てを支配する闇に変わった。
なんだかとても哀しかった。
ポケットから貝殻を取り出して机にばらまいた。砂も一緒にばらまかれた。
我ながら綺麗な貝殻を集めたようだ。
その中から両親と弟に合いそうなのを選んだ。嫌いな筈なのに、と思いながら。
それを再びポケットに入れてそれ以外を両手で包んで下へ降りた。
家族は寝る準備が終わったのか夕食の置いていないテーブルを囲んで座っていた。
何気ない顔して堂々ととリビングに入ってソファーに座った。隣にある机に音を立てないように両手の貝殻を零していった。
手のひらに汗でくっついた貝殻も全て零し終えてからテーブルを囲んだ家族を見た。こちらが何をしていようとも瓦解せずという事なのだろうか。
それとも気づいていないのか。分からないがこちらを見ていないのは好都合だった。
敷いてある布団の枕元に立った。選んだ貝殻を泣きながらそっと置いて立ち上がった。
暫くずっと泣いていた。
「ママ、パパ、たく、ごめんなさい。全部、ぜんぶいろいろごめんなさい。あと、ありがとう、ございました。」
立ったまま泣いて、泣いた。
ソファーの隣の机の上の貝殻を一つだけ掴んで、もう一度家族を振り返った。
まだ、涙は止まらない。
「ほんとに、ありがとうございました。」
我が家の何時もの夏の風景。
リビングのそのまま庭に出れる一番大きな窓を開けて、薄いカーテンだけ閉じて蚊取線香を焚いて。
家の中が見えるからやめてって言ってもやめなかったあの場所。
強い風が吹くのと同時に、私は家を飛び出した。
涙は結局止められなかったけど、笑顔でもう一度振り向いて。
「ありがとうございました!!」
家族が驚いてこちらを見た気がした。
してやったり、と少しだけ満足した。
そして、世界は終わった。
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