3.華鳳院家に逆らうことは出来ないようで
透澤 愛美利……我が学園高等部の入学試験を普通科首席で合格、特待生として普通科に所属する女子生徒。少し癖のかかった茶髪のミディアムボブで前髪は校則に違反しない程度に長めだ。出自は一般家庭のごく普通の少女だったが、高等部入学後実家が全焼、身寄りがなくなってしまった、と聞いている。特に親しい親戚などもいないらしく、彼女はまさに天涯孤独の身なのだとか。
そんなエミリの情報がどこから出てきたか……それはもちろん、目の前に座っている担任の冬宮である。
先程のHRで彼が告げた通り、夏休み中は寮の改修工事が入る。生徒の立ち入りは禁じられており、つまりそれはエミリが夏休みを過ごす場所がなくなると言う事だと。
担任である冬宮が夏休み中に彼の家に置くという手も無くはないが(実際、ゲームの冬宮ルートでは彼の家に夏の間置いてもらうという状況だったハズだ、確か)、学園としては、教師と雖も思春期の女生徒を家に住まわせるのは、結論から言うと学園としての体裁の面から禁止していると言う。
その結果、冬宮が思いついたのは、彼女に夏の間一人暮らしをさせる……ことだったのだが。
実を言うと、コレも学園としては推奨していない。上流階級の子女たちが集まる学園の生徒が、夏休み中に諸外国等へのホームステイはともかく、民間に混じり一人暮らしをするなど危険すぎる、というらしい(まぁ、冬宮以外のルートでは彼女は学園側には内緒で一人暮らしをすることになるのだが)。
とにかく、学園側が反対する事項が多すぎる。という事で、さらに冬宮がダメ押しで思いついたのが……。
この私、華鳳院 アリスとの勉強合宿だった。
学園と雖も、華鳳院家に逆らうことは出来ないようで(何代も通っている家系であるのと多額の寄付、その他諸々の諸事情らしい)、その華鳳院家の一人娘である私と一緒であれば、学園側も黙認せざるを得ないだろうという冬宮の計画だ。
ちなみに、既に華鳳院の家にはその計画は伝えられているらしく、父もおおむね同意しているようで、あとは私の返事次第、というところまで来ているらしい。……冬宮……恐ろしい男ね。
ちなみに勉強合宿の言い分も、すでに冬宮とエミリの間で考えられているらしく、一応エミリのクラスのランク上げを目標にしているらしい。仮にランクが特進クラス(私は一応特進クラスでもトップクラスの成績を維持している。榛葉によって)に上がらなかったとしても、さすがに一学期の時点で、既に首席の座を守るのが難しいモノだと判断しているエミリにとっては首席防衛戦の力になるだろう、ということになっている……普通科の首席特待生じゃまだ足りんのか透澤 エミリ……恐ろしい女ね。
つまるところ、エミリの夏休みの身の拠り所が、私の一言で決まってしまう状態になっているのだ。
そんなの、いくら、私が最も距離を置いていた、猟奇系乙女ゲーの主人公だとしても、断れるワケないじゃない。
というか、此処で断ると、後々、華鳳院家の名に泥を塗ることになりかねない。いや、なるだろう。
結局のところ、私もこの華鳳院という家に縛られているのだ。
――もしかしたら、ゲームの方の「私」も、そんなこんなで、エミリとの同居を拒めなかったのかもしれない。
結局、夏休みはエミリと同居することが確定して、今日は解散となった。
寮に戻った私が、「透澤様にお教えするのでしたら、少なくとも一学期の内容は総復習しておかなければなりませんね」とにこやかに言い放った榛葉によって、スパルタメガネ教育を受けさせられたのは言うまでもないだろう。