16.塩でも撒いてみようかしら
いつもよりちょっと短いですm(_ _)m
オ カ エ リ 、 ワ タ シ ノ 、 タ マ シ イ
「なによ……あれぇ……」
私はそばにいたエミリにそのまま縋り付くようにしながらも、その場にへたり込んでしまった。顔だって泣き出しそうになるのをこらえる気力も湧かない。天下の華鳳院グループの跡取り娘が、こんな醜態を曝け出してしまうとは情けないが、今の私にはそんな余裕ぶっこいたプライドとかはもう残っていなかった。
「アリス様? どうなさいました?」
一方のエミリは冷静だ。……もしかしてまた、あの子どものように視えていないのだろうか?
「きゃあ! アリス様、壁に……!」
どうやら気づくのがワンテンポずれていただけらしい。ここまでの同居生活で数々の天然ボケをかましたエミリらしいと言えばエミリらしいのだが。
ということは、このシミのような文字は、エミリにも視えている、ということになる。
「私の、魂……? って、何よ……」
エミリにも視えているならば、と返って冷静になった私は、文字列が表している文章に疑問を覚える。
こんなオカルトな現象、認めない。……と言いたいところだけれども、私たちが無自覚だっただけで、すでに散々このハイツではこのような事象にお世話になってしまっている気がする。
文章のことはよくわからなかったので、私はシミがその辺のモノで消えないかどうか試してみることにした。
先日玄関のドアに現れた手跡は、榛葉の話によればだがこのハイツが懇意にしている――つまり、ここのオーナー? 大家さんっていうのかしら? の伝手で洗浄したというが、その清掃業者というのがただの清掃業者なのかもはっきりしていない。つまり、結局自分たち(主に榛葉)が頑張れば落ちる汚れだったのか、そういった類のモノではないのかも判別できないまま、手跡は消されてしまったのである。
シミのついている壁に、指で直接はちょっと気が引けたので消しゴムを当ててこすってみる。――何かの汚れに消しゴムが効果あるというのは、どこで聞いた話だったかしら。
消しゴムでこすられても、壁の文字が消えることはなかった。じゃあ、次は塩でも撒いてみようかしら?
そう思って、台所に向かおうとしたところで、榛葉が帰ってきた。
榛葉は壁に現れた文字を見てしばらく何か考えていたようだが、やがて「このハイツの大家様にご連絡いたしましょう」と言い残して、また外に出て行ってしまった。
それにしても、榛葉はいつこのハイツの大家と連絡先を交換したのだろうか?




