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15.とても悲しいお話

ちょっと短いかもです。m(_ _)m

 嘘でしょう……?

 エミリには、あの子が見えていなかったというの?

 じゃあ、朝見たあの玄関の手形は……あぁ、どことなくあの子の手の大きさってあんな感じかもしれないわ……。

 

 眩暈(めまい)を覚えた私は、リビングの床にストンと崩れ落ちた。

 

 床を撫でながら、階下の住人のことを思い起こす。

 人柄のよさそうな奥様は、いつも私たちの突然の来訪や立ち話にも、嫌そうな素振りは一度も見せたことはなかった。旦那様には直接お会いしたことはなかったけれど、あの奥様にとてもお似合いというか、相応しそうな印象を、奥様から見せてもらった写真からは受け取った。

 そんな二人が、まさか実の子どもを亡くしていて、その近くには今でも親御さんのそばで遊んでいる……。

 

 一見幸せそうな家族に起きていた知られざる過去に、私は動揺を隠せなかった。

 

 

 

「あら、アリス様。おはようございます」

 

 翌日、いつまでもすっきりとしない頭に外の風でも当てようと玄関から出た私に声をかけたのは、一〇三号室の奥様だった。

 

「おはよう……ございます」

 

 視界の隅にいつものように奥様からつかず離れずといった位置で石遊びをする息子さん(?)が見えてしまい、勝手に気まずさを覚え、挨拶のトーンもつい暗くなってしまう。

 

 そして、そんな私の様子を奥様が見逃すはずもなく、私は二〇一号室の老婆から聞いたことを、奥様には「視えて」いないと思われる男の子を視界の隅に入れながらかいつまんで話すことになった。

 

「……そう。聞いてしまったのですね。まったく、か――あのお婆さんったら、口が軽いんだから」

 

 私の話を聞き終えた奥様は、そういってどこか遠くを見つめながら語る。

 

「あの子を亡くしたのは、本当に突然のことだったわ。まだここに越してきて間もないころのこと。事故だったわ。わき見運転だったそうよ」

 

 奥様は、泣きそうで、でもそれをしまいと必死に押し殺すような表情で語った。

 

「私ってホント、疫病神か何かなのかしら。姉も、早くに亡くしてしまって……いえ、これはアリス様には関係のないことですね。どうか聞き流してください」

 

 身近な人を、何度も失うというのはいったいどれだけの悲しみが押し寄せてくるのだろう。きっと、私なんかじゃ、転生前の分も合わせたってこの奥様の足元にも及ばないだろう。

 

 結局、奥様とはそのまま別れ、対して気分も晴れないまま私は部屋の中に戻った。

 

「あ、エミリさん」

 

 ふと、すでにテーブルに課題を広げているエミリが視界に入って声をかける。

 

「アリス様、どうかされましたか?」

 

 よほどひどい顔色だったのだろう、エミリは走らせていたペンを置き、私の方に駆け寄ってくれる。

 

「いいえ、なんでもないの。ただ、とても悲しいお話を聞いて……」

 

 エミリに寄り添われながら、言葉で顔色の悪さを繕おうとする。

 そんな私の心を嘲笑うかのように、私の視界には――正確には隣室との間に立っている壁に、(いびつ)な筆跡の文字が見えた。

 

 

 

 

 

  オ カ エ リ 、  ワ タ シ ノ 、  タ マ シ イ  

 

 

 


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