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14.私は所謂『視える』わけではないですので

 いや、ちょっと待って。

 その言葉が本当なら、私たちがあの奥様とお話ししているときに、いつも一人で静かに遊んでいたあの男の子はいったい誰なのよ……!?

 

 ちなみにだが、私は特に霊感などもない。胸を張るところなのかもわからないが、そういう現象にだって、一度も遭遇したことはない。

 

 誰か、誰か、私の他にもあの子を見たという人はいないの……!?

 

 

 

 私の頭がグチャグチャに引っ掻き回されているところに、老婆が声をかけてきた。

 

「あらやだ、ちょっとお嬢さん!」

 

 これ以上何かあるというのだろうか?

 しかし、こういう時の負の連鎖というのは続くと相場が決まっている。

 

「ひっどいねぇ……誰だい、こんなことしてくれるのは!」

 

 老婆に示されるがままに、玄関のドアの外側を見る。

 私の視界に移ったモノは、真っ赤で小さな子供の手形が無数にドアにこびりついている様だった。

 

 

 

*****

 

 

 

「あ。アリス様、気が付かれましたか」

 

 気が付いたら、私は居間で寝かされていた。

 枕元には珍しく、榛葉がいる。

 いや、なぜ自分の執事である榛葉に対して、まず出てくる感情が「珍しい」なんだ。

 

 ――それよりも。

 

「玄関の汚れですが、二〇一号室の方がこのハイツが懇意にしている清掃業者がいるということでしたので、そちらのほうにお任せいたしました。エミリさんは課題をされるということでしたので、失礼ながらもお嬢様の寝室のほうで過ごしていただいております」

 

 つらつらと、淀みなく話す榛葉に、少しだけ安心感を覚えた。それも束の間。

 

「お嬢様は体験したことがないと存じますが、どうやらこのハイツ、『出る』ようですので。今後はしっかりと気を付けていただきたいですね」

 

 ……うん? 今何て言ったこの執事?

 

「まずはこの部屋の中自体にはそれほどの危害はないとのことでしたので、お嬢様にはこの部屋からは極力出ないようにお過ごしに――」

 

 何を言っているんだこいつは。フツー、そういう時は別の部屋に移るとか、するでしょうよ!?

 ――でも、きっと出来ないのだろう。「xxxしたいほどi(アイ)してる」の世界に囚われてしまったしまった以上、この夏私とエミリが生活するのはこのハイツのこの部屋だ。

 

 それにしてもいい加減、五月七日(つゆり) (ひいろ)の来訪が遅すぎる。これはもうエミリは緋ルートは走っていないとみていいだろう。

 いったいエミリが何を考えて行動しているのかも予測できないうえに、部屋から出るなだの、いつも見かけていた男の子がもう死んでるだの、ふざけているにも程がある。――そう思いたい。が、ここがあのゲームの世界ならそれも納得できてしまうのも辛い。

 

 いったいどうしろというのか。ゲームの通りにおとなしく死ぬのを待てとでも?

 

 そんなの無理だ。というか、愛理澄(わたし)は良くても「私」が嫌だ。断固拒否。

 

 というか、一〇三号室の男の子のことなんて、エミリに確認すればいいじゃない。確か買い出しに出かけた日、エミリは「お子さん連れだと何かと要り様ですよね?」と言っておつかいを申し出ていたじゃない! ということは、エミリには男の子の姿が確認できていた可能性がかなり高いわ。

 

 

 

 いつまでも病人のように寝込んでいるわけにもいかないし、私の寝室に缶詰状態というのもエミリが居心地が悪いだろう。あと私もそろそろお風呂入りたいし。

 

「アリス様、ご無事のようで何よりです」

 

 さっさとエミリに訊くこと訊きたかった私が簡易的にこしらえられた寝床を片付けていると、寝室からエミリが出てきた。

 ただ、こうも丁度いいタイミングで来られると、なんだか不安になるのは気のせいなのかしら……。

 

「あら、エミリさん。心配をおかけしてしまって申し訳なかったわね」

 

 私は努めて明るく声をかけた。

 

「いえ、そんなアリス様が謝るなんてこと……それに、私は所謂『視える』わけではないですので、アリス様がご覧になったものの恐ろしさなんて、きっと半分もわからないですよ」

 

 どうやらエミリは霊感体質というわけではなさそうね。だったら、きっと、大丈夫よ。

 

「あの、エミリさん。つかぬ事を伺いますけれど」

 

「なんでしょう?」

 

「あなた、確か先日買い物に行く際に、一〇三号室の奥様におつかいを申し出ていたわよね? あの理由を聞いておきたくて」

 

 お願いエミリ。あの男の子は存在するのだと言って……!

 

「え、あぁ。あのことでしたか」

 

 エミリは不思議そうな表情をしながら続けた。続けてしまった。

 

「だってアリス様? あの奥様、こうも仰られていましたよ。『今は息子のことで特に心配することはない』って、ね? それに言ったじゃありませんか。私、霊感とか、そういう類のものは持っていないって」

 

「……え? ……でも」

 

「確かに私には、幽霊とかそういうモノは視えません。でも、違和感くらいなら感じます。あの奥様は息子さんがいると仰っていましたが、洗濯物に子供用の衣類はありましたか? 特に年齢が低いお子さんだと多くなるはずのタオルの類も、子育て中のご家庭にしては少ないというか、単に大人二人分くらいの普段の生活の量と考える方が普通な感じの内容と量だったと思いますし。それに」

 

 

 

「私はこのハイツに来てから一度も、ハイツの敷地内で子どもの姿自体を見ていませんよ」

 

 

 


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