12.私たちも、よく知らない
お待たせしてしまい大変申し訳ないですm(_ _)m
また隔日更新していこうと思いますので、よろしくお願いします。
「え? お隣の人のこと?」
私はエミリを引き連れ、階下である一〇三号室の奥様の元へとやってきたのだった。
奥様は、私たちの質問に、洗濯物を干していた手を止めて、こちらを向く。
「う~ん……実は私たちも、よく知らないの」
そういって、新聞受けにポスティングされたチラシが溜まっている隣の部屋の扉を見つめる。――たまっているチラシの量が、割と尋常な量ではない気がするのだが、気のせいだろうか。私たちが置いた挨拶の紙袋も、そのうちあのチラシの山に埋もれていくのだろう。あぁ、天下の華鳳院グループのカタログが……。
横道に逸れかけた私を差し置いて、エミリが奥様に質問を繰り返していた。
「え? ……私たちは……そうね、お正月には主人の実家に帰らせてもらっているのよ。……えぇ、お姑さんもとても良い人で――」
どうやら、一〇三号室の家族は、正月は夫のご実家に帰省するようだ。毎年恒例のようで、奥様の方のご実家には正月は特に挨拶はしないようなことを話していた。
……つまり、一〇二号室の住人がどうしていようが、一〇三号室の家族には知りようがないということだろう。――もっとも、これは逆の立場でもいえることだろうが。
「ココに住んでいる人同士でのお正月の挨拶……? そうねぇ……特には……無いかしら」
エミリがさらに質問攻めにすると、どこか遠くの方向に目をやりながら奥様が答える。
パタパタと風に音を立てる洗濯物を見て、そういえばこの夫人は洗濯物を干している最中なのだと思い出す
今はこれ以上の情報は引き出せなくても、私たちと話すということ自体に嫌悪感を抱かせるのはよくないだろうと感じて、私はエミリを引き連れて自室に戻ることにしたのだった。
「なぜ止めるのですか、アリス様? もう少しで、あの奥さん何か思い出すかも知れなかったのに」
部屋に戻るなり、エミリは問いかけてきたが、それも想定の範囲内だ。
「エミリさん、奥様は先ほど、何をなさっていましたか? 洗濯物を干していましたわね? あれ以上お引止めしてしまっては、洗濯物が皺になってしまうでしょう」
「……はぁ」
そつなく答える私に、エミリは納得がいかないというような表情をしていた。
「それに」
付け加えられる私の言葉に、エミリは瞬きを繰り返しながら私を凝視する。
「奥様も存じないのであれば、一〇二号室の方に関しては奥様から伺った話とそれに対する私たちの考察、という形でまとめてしまっても、問題はないでしょう。……世の中には、さまざまな人たちがいるのだから」
結局、それ以上のエミリからの反論は出てこず、一〇二号室の住民についてはこのような趣旨でまとめることになった。
一〇三号室の住民から聴取した事象に基づき、考察としてまとめる。
年末年始はこの集合住宅を離れているという隣人・一〇三号室在住の夫人によると、自分たちが普段生活している時期に一〇二号室の住民を顔を合わせたことはないらしく、それは同時に夫人自身も隣人が年末年始の時期にどうしているのかを知りえないという前提で仮説を述べる。
一〇二号室の住民は、集合住宅の住民が留守になる年末年始に、彼らとは逆にこの集合住宅に出入りしているのではないかと考えた。
彼、もしくは彼女には何か家庭的な事情があり、年末年始の時期にだけこの集合住宅に身を寄せる理由があるのではないだろうか。
もっとも、夏である現在に、彼もしくは彼女に接触するのは極めて難しいかつ、先方の迷惑にもなり兼ねないので、この仮説および考察の検証は困難と考え、ここで一〇二号室についての調査は終了とする。




