11.誰のルートを走っているの
結局、このハイツの住民たちの調査は続行することになったわけだが……。
やはり、昼間の会話は不可解な点が多かった、と私は湯に浸かりながら思った。
今日はラベンダーの香りのオイルを入れてある。何だか課題のほかにもいろいろな事を考えていて、少し疲れた気がしたからだ。
意図しない言葉が、滑るように飛び出るこの唇には、今後も注意しなければならないだろう。――もしかしたら「xxxしたいほどiしてる」の世界の影響なのだろうか……? だとしたら、エミリは、私は、今誰のルートを走っているのだろうか。
ゲームのルートについてもそうだ。
ヒイロルートならば、彼の来訪があまりにも遅すぎるのではないだろうか……。――前世の妹の話では、彼の登場は夏季休暇が始まって間もなくだったはず。
一学期中に他のルートが立ってない以上(少なくとも私の見た情報だけの判断だが)、彼以外にエミリが狙う余地のあるルートはそれしかない。
――それとも、私の知らないルートを、彼女は走っているのだろうか?
ひとまず、今後もこのハイツの住民の調査を続行することになった手前、私も腹を括らなければならないだろう。
湯船の湯をちゃぽん、と揺らしながら、私は今後について考えを巡らせる。
ひとまず、二〇一と二〇二号室――特に二〇一号室の老婆だが――は難航しそうなので、やはり階下の住民についての調査を優先したい。
エミリは一〇二号室についてあれこれと考えていたようだが、私としては、一〇三号室の方が進めやすいのではと思っている。姿を現さない者よりも、少なくとも奥様と面識があり話の通じる方だと判明しているところから、情報が引き出せないだろうか。
それにしても、榛葉の力が借りられないのは、痛いところだ。私はこの課題に乗った時点で、すべての調査を榛葉に押し付け、自分は優雅に夏休みを満喫しようかと思っていたのに。
まぁ、たとえ借りられたところで、どうせ微妙なヒントだけ与えて、意味深な笑みを浮かべるだけなのだろうが。
私の仮説では、一〇三号室のご家族は、至って平均的なごく普通の家庭だろうと思っている。奥様にどことなく既視感を感じるのも、きっとそのせいだ。
仕事に励む夫と、小さいけれど元気に遊ぶ息子。
きっと、あの奥様は、前世の私からすれば手の届かないくらいの「勝ち組」な奥様だろう。
一〇二号室は、挨拶時にドアノブに掛けておいた紙袋がそのままになっているところを見ると、おそらくあの部屋には普段は住んでいないか、極度の引きこもりの二択だろう。……人の気配もさせない引きこもりって、もはや引きこもり通り越して忍者に近い気がするけれど。
ともかく、引き続き調査することになってしまったモノは仕方がないので、私はぶくぶくと湯船に泡を吹きながら(行儀悪い)、ハイツの住民について思いを巡らせてみるのだった。