エントランスホールからの脱出
参加者全員、読み上げられた問題文を聞いて一瞬拒否反応を示したが、それぞれが覚えている知識を披露しはじめた。
「人間の染色体の数は、全部で46本です」
「円周率は、3.14159265359・・・・だから・・・第九位と第十位は・・・35ですね」
「おおおお」という声が一斉にあがる。
「ってことは、46-35=11 左に11回回せばいいのね」
左最前列の参加者が声をあげる。
「第二次世界大戦が、終わったのは1945年です。はじまったのは・・・」
「ドイツ軍のポーランド侵攻がきっかけだから・・・1939年じゃないかと思います」
「ってことは、45-39=6 右に6回だ!!!」
左最前列の参加者が、出口のハンドルを左に11回、右に6回回す。
するとプシューという音とともに、バスの扉が開いた。
「やった~~~~~~!!!!!」全員が飛び上がって喜んだ。
「おめでとうございます!!!!! みなさん、無事バスから脱出できました!
さてさて、では謎解きの館へとご招待いたします。
荷物をもって、バスを降りてください。
まずは、エントランスホールへとご案内いたします」
バスを降りると、そこには白亜の洋館と広い庭が広がっていた。
薔薇のアーチを潜り抜けて、玄関へと一列になってぞろぞろと歩いていく。
庭には、噴水。大理石の女性の裸像がいくつも点在していた。
大変美しい光景であったが、これから始まる謎解きのことを思うとどれもが怪しい小道具のような気がしてならないと櫻井は思った。
案内人のピエロが、大きな観音開きの扉を開ける。
エントランスホールは、吹き抜けとなっており、天上から豪華なシャンデリアがぶらさがっている。
2階へと続く階段が両側にあり、左右と真ん中に部屋があるようで扉が壁についている。
18人がすべてエントランスホールに入り切ると、ピエロが玄関扉の前に立つ。
「さ~~~て。みなさん。もうおわかりかと思いますが、謎が解けるまでこの館から出ることはできません。
この館は完全に封鎖されました。
まずは、このエントランスホールから、真ん中中央の食堂へ移動しましょう。
もちろん、扉には鍵がかかっておりますので、このエントランスホールをくまなく探して扉を開けてください。
食堂へ行けない限り、お昼ごはんにもありつけませんよ~~!
おなかすいてきたでしょ!
さあさあ、またがんばって謎を解いてくださいね~~」
18人で移動して、食堂の扉を確認する。
今回は、数字ではなく、本物の扉の鍵が必要なようだった。
「ひとまず手分けして、ヒントになるものを探しましょう。片っ端からみて行きましょう。
開けられるものはあけて、取れるものは取って真ん中のこの台座の上に置きませんか。
ちなみに私は④番の明智 雅之といいます。今年40のおっさんです。
こういうミステリー系は好きでして、年甲斐もなく参加しております。
みなさんに指図できる立場ではないですが、協力しないと前に進めないようなので、一緒にがんばりましょう」
みんなが拍手して、賛同の意を示す。
手分けして、エントランスホールの中に隠されたヒントを探していく。
真ん中にテーブルのような台座があり、左右に二階に続く階段がある。
左右に大きな柱が一本ずつ。
床は、大理石のタイルが敷き詰められている。
食堂の扉の横に、天秤と数枚のコインがおいてある。
左の扉には、大きなアンティークの古時計が飾ってあり、右の扉には左右に鹿のはく製が飾ってある。
二階に櫻井が上がろうとしたとき、ピエロに止められた。
「あ、ごめんなさいね~~、言うのを忘れてたんですが、
二階にヒントはありません。まだ二階への移動はしないでください。
そして、左右の部屋も入れませんので~~。
一階のこのエントランスホール内のみのヒントで食堂の扉は開きますのでご了承くださいませ~~」
全員が、歩き回って確認するが、なかなかヒントらしいものが見つからない。
そのとき、参加者の一人が「あっ!」と声を上げた。
床のタイルの一部が明らかにおかしかった。
踏んだ感触で、中が空洞になっているのがわかる。
急いで、タイルをめくるとそこにはヒントとなる文章が書いてあった。
『丑の正刻 → 巳の正刻 → 戌の正刻』
「時間の昔の数え方ですな」と50代と思われる中年男性が二人でうなずき合う。
「私は⑦番の総領 茂50歳そして、隣が⑧番の野口 徹54歳です。
年甲斐もなくといったとこですが、脳への刺激が欲しくて参加しております。おっさん二人です。
さて、この謎ですが、昔の時間の数え方で時刻を示していると思われます。
昔は24時間を2時間ずつで十二支で表してたんです。
それをさらに4分割するんですが、正刻というのはちょうど真ん中のことなので、簡単にいうとこれは、午前2時と午前10時と午後8時を意味しています」
さすがは年の功というかの如く、若い参加者が目を輝かせて、二人を見ている。
総領も野口もまんざらでもなさそうだ。
「あそこにあるアンティークの古時計の時刻を今いった順番に合わせて見ましょうか」と明智が率先して時間を合わせ始める。
言われた通りに時間を合わせた瞬間、ゴーンゴーンと時計の鐘が3回なり、鐘の部分の扉が開いた。
時計の底を見ると、鍵が落ちている。
急いで明智が拾う。
しかし、鍵を見て首をかしげている。
「この鍵は、あの扉のものではないかもしれない。小さすぎる」
たしかに、鍵は3cmほどの小さなもので、とても食堂の大扉をあける鍵とは思えなかった。
念のために、食堂の扉のカギ穴に差し込んでみるが、明智は大きく首を振りながら「だめですね」とため息をついた。
「この鍵を使わなくてはいけないところがどこかにあるはずです。みなさん探しましょう!」
新たな手掛かりを得て、みんな必死で鍵穴を探し始めた。