ある青年後悔記
穏やかに流れる水音を聴きながら
静かなこの小道を歩いてた
一歩一歩踏み出すたびに奏でられえる足音は
これまで聞いてきたカツカツとした無機質な音ではなく
音を反対に奪い去っていくような有機質なものであった
一つ一つににおいがある
人間何をするにもたくさんのにおいを伴っている
今まではひどく冷たいにおいばかりに溢れていた
今はどうだろうか
温かな 温度のあるにおいに溢れている
嗚呼 今度は温かな塩のにおいだ
なぜ こんなにもあたたかいのだろう
そんな温かなんて求めてなんかいなかったのに
これまでで十分満足していたはずなのに
どうして こんなにも嬉しいのだろうか
慣れていたはずなのに
この無機質さに
このつめたさに
わかんないよ
大きな鞄のタイヤは泥にうまって仕方ない
煩わしく思う
一歩一歩足は踏み出すことができるのに
鞄だけが進んでくれない
そんなここに来たことに
これまでを捨ててきたことに
未練なんてこれっぽっちもない ないはずなのに
どうしてだろうか
わかんないよ
これまでたくさんの鎖に縛り挙げられて
苦しくて つらくて 痛くて 逃げたくて 逃げられなくて
どうしようもなかった
それから抜け出すことがやっと出来る
嬉しいはずなのに
どうしてこんなにもつめたい塩水が頬伝うのだろう
わかっていたんだ
苦しかったのは何も周りのせいだけではなかったことを
そうなるように仕向けてしまっていたのは 自分で
そうなっていることに気がつかなかったのも 自分
全てを自覚したら途端に怖くなって逃げ出してしまって
この夢の中にきてしまったのだと
幻のなかに更なる夢を求めた
そんな事したところで 何も変ることはないというのに
そうせずにいられなかった自分は
嗚呼 疎ましい
何も聴きたくなんかないよ
こっちにこないで
いなくならないで
どうして手足がつめたい
どうして涙が出ない
頬を伝っていたのはいったい何
わかんないよ
わかんないよ
嫌いだ