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王都

長い長い説得という名の戦いを終え、春。私は師匠とともに、王都へと向かう馬車に揺られていた。


「王都についてもあんまりはしゃぐんじゃないよ、アーデル。その辺きょろきょろしてるのなんて、田舎者丸出しだから」


「何言ってるんですか、師匠。私だって昔はよく王都に行ってたんですよ。そんなお上りさんみたいな真似はしません」



なんて、言ってたのに。




「せ、師匠!て、鉄の馬車が、馬もいないのに動いてる! 」

「魔力で動く車なんて100年前にはなかったからねぇ」


「た、建物が全部高い! 空が狭い!! 」

「昔より王都に人が増えたからねぇ、土地が足りないのさ」


「あれ、なんですか!? 」

「なんだろねぇ」



100年経ったこの都は、随分と様変わりしていた。知らない道に、知らない店。かつての面影を見つけることの方がむしろ難しいと感じる。

……それもそうか。ただでさえこの100年で魔術という新技術が広がったのだ。街並みも変わるし、生活だって変わってる。今まで超田舎に住んでいたからその実感が薄かっただけなのだ。

ついつい物珍しくてあちらこちらを見て回り、師匠にいちいち聞いてみる。お上りさんになんてなりません!! なんて言っていた私はいったいどこへ行ったのか。最初は律儀に答えていた師匠も面倒臭くなったのだろう、だんだん返答がおざなりになってくる。


ちょろちょろする私が逸れるとでも思ったのか、最終的に師匠は私の手を引いて歩くことにしたようだ。もう12歳なのに。恥ずかしくて顔が赤くなる。

羞恥に耐える私を引っ張っていた師匠が漸く足を止めたのは、ある一軒の煤けた店の前だった。


「魔術具専門店……? 」

「そう。君には今まで私の杖を貸していたけれど、これからは自分の杖が必要になるだろう」


そう言って、さっさと店の中に入ってしまうので、私も慌てて後についていく。


中は、薄暗くて涼しい。壁や棚に所狭しと杖や棍が飾られている。その中でも一際目を引くのは、いくつかの硝子の箱に入れられた繊細な意匠の杖である。眺めていると、ほうっとため息が漏れた。


「名のある杖は君にはまだまだ早いよ。こっちにおいで」


いつの間にやら隣に来て一緒に箱を覗いていたらしい。促されるままにそちらに向かう。


師匠は店の人からいくつか杖を見繕ってもらったらしい。6本の杖が台の上に並べられている。

どれも実用一辺倒、というような飾り気のない杖だ。

そのまま杖を持たされたり、魔力を込めさせられたりしてしばらく、師匠が選んだのは焦げ茶色の木地に黒の木目の走った無骨な杖だった。

これと決めるや否やさっさと会計をし、私に杖をもたせて店を出る。


「今日からその杖は君の相棒、大切に扱いなさい」

「師匠、でも、私こんな高価なもの……」


会計の時に知ったが、この杖はかなり高い。それでも杖の中では最低価格帯の内に入るというのだから、仰天だ。流石にこんな高価なものをありがとうございます、なんて受け取れない。

恐縮する私に向けて、師匠はふふっと笑う。


「私がタダで買ってやるとでも?今は立て替えてやっただけさ。当分は何かと入り用なものが多いし、金もかかるからね、全部払ってあげる。ちゃんと覚えとくから君が魔術師として身を立てていけるようになったらきっちりと返すように」


利子もターップリとるからねぇ、たくさん稼ぎなよぉ、なんていいながら私の頭を撫でる。

私があまり気に病まないように気遣ってくれたのか、それともただがめついだけなのか。どちらにしろ多少気が楽になったので、ありがとうございます、と言って杖を胸に抱きしめる。

最初見たときは黒っぽくてごつごつしてて、あまり好きではなかったが、自分のものだと思うと割と艶があって、木目も綺麗に出ているのが素敵に思える。なかなか渋くていい感じだ。

うふふふ、とふわふわした気持ちで師匠の後をついて歩く。


「随分浮かれてるね、まあいいけど。

ほら、着いたよ」


はっとして前を見ると、そこには3階建ての集合住宅があった。師匠は迷いのない足取りで階段を上り、ある一室の前で懐から鍵を取り出す。


「ここが私の都での住まいで、君が暫く暮らす場所。……1年程帰ってなかったから、まずは掃除しないとね」


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