立ちはだかる壁
師匠には自分の道を選べ、と言われたが私の腹は決まっている。当然魔術師になる道を行くだけだ。
王魔学は4年制かつ全ての生徒が寮生活を余儀なくされる男女共学の学園だ。成績優秀者は王宮付き魔術師になる道も開けるというこの国一の名門魔術学園。ただし家柄もそれなりでないと王宮付き魔術師にはなれないので、私のような家名も何もない庶民には無縁の話だが。でもそれでいい。なんせ私の夢はこの世界を旅することなのだ。師匠のように流れの魔術師となって、"前"に見知った場所、全く知らない場所を訪れる。"前"にできなかったことをするのだ。
しかし、問題は。
「なんて説明しようかなぁ……」
私の両親と祖母は私が魔術を学ぶことをただでさえよく思っていない。その上王都まで行って魔術を学ぶなんて言ったら大反対にあうのは目に見えている。女は家庭に入って家を守るのが仕事、という考えは100年経った今でも主流のようで、なかなか難儀だ。
マリ姉とクー兄に味方をしてもらうよう頼まないと。
この家には6人の子供がいる。上からマリアーヌ、クーネル、ジオン、メレリー、ラールス、私の順番だ。一番上のマリ姉はもう17歳で、来年お嫁に行く予定、我が家の第二のお母さんを今までしていた。クー兄は16歳だが落ち着いていて、次期家長という立場から家での発言力は大きい。この二人は我が家では年長者として一目置かれているので、援護してもらえればまともな話し合いに持ち込むことができるはずだ。
師匠はあと一月ほど過ごしたらこの村を立つと言っていたので、期限は約一ヶ月。この間になんとかして魔術学園に入学する許可を得なければ私の望む未来はない。
斯くして一ヶ月に渡る長い戦いの火蓋は切られたのだった。