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シノアとユーノ

「シノア、お前一体これからどうするんだ。結婚もしないで、こんな歳になって……。

ちゃんと、ユーノはお前と一緒になる気があるのか? 」


父の苦い声。最近は会う度に言われているので、いい加減耳にタコができそうだ。


「分かってるわ、お父様。もう少し待って欲しいの。ユーノも今は仕事が大変みたいで、なかなか結婚については話せていなくって」


「お前が彼を好きなのはよく分かっている。私も母さんも、お前の好きなようにさせたいと思って、今まで黙っていた。しかし、いい加減に心配にもなる。

私達はお前に幸せになって欲しいだけだというのに」


そう言って、溜息をつく。私の我儘で、父と母を心配させているのは心苦しい。でも……


「もう少し、もう少しだけ待って。ちゃんとユーノと話すから……」


そのまままだ話をしたそうな父に一言告げて部屋へと戻る。なんだかどっと疲れてしまった。


「……どうすればいいのかしら」




私が恋人のユーノと出会ったのは、10年程前に遡る。ユーノは村はずれの呪い師と呼ばれ、町のものからは遠巻きにされるお爺さんと一緒に暮らしていた。


その当時のユーノは陰気でこまっしゃくれていて、そのくせ変に弁がたつ、扱い辛い子どもだった。大人にも子どもにもそんな態度だったから、当然親しい人間なんていなかった。


一方の私も、町から少し外れたまぁまぁ立派な家で暮らしていたので、町の方に顔見知りなんていなかった。大きくなって町におりていくようになっても、既にできた子ども達の輪に入っていくことができなくて、入れてなんて言葉も恥ずかしくて言えなくて、いつも1人だった。


そんな私が、いつも1人という意味で仲間だったユーノをを見つけ、同族意識からかしつこく話しかけるようになるのは自然な流れではないだろうか。初めは鬱陶しがられていたが、何度も会ううちに頑なな態度もなくなり、一緒にいるようになった。周りの人間につれない態度ばかりとっていた彼も、もしかしたら1人が寂しかったのかもしれない。


この頃が私にとって一番幸せだったと思う。変な柵も、見栄を張る必要もなく、ただのシノアでいられた。ユーノとだっていつも一緒にいることができたのだから。


ユーノが12歳になった頃、彼は王都に行ってしまった。向こうで難しいことを勉強する、おまえには言ってもわからないから言わない、というなんとも腹の立つ一言を残し、ろくな挨拶もせずに旅立って行った。たった1人の友達を失って寂しかった私は、たくさん手紙を書いて送ったが、返事なんてきやしないので、だんだんとその頻度はおちていった。それでも、一月に一度は必ず送っていたけれど。



そんな風に過ごして2年程経ったある日、ユーノは唐突に帰ってきた。


年若い男が急に我が家の門扉を叩いたのだ。彼は自らをユーノと名乗り、私に会いたがっていると婆やから告げられ、慌てて玄関先へと向かう。


「久しぶり、シノア」


そう言って微笑む美しい男に呆然としてしまう。かつての陰気で無愛想なユーノはそこにいなかった。いつもぼさぼさだった鼠色の髪は、綺麗に整えられ、銀色の光沢を放っている。いつも周りを睥睨していた赤い目も、柔和に細められている。同じくらいだった身長も随分と高くなり、軽く見上げなければ目を見ることができなくなった。


「本当に、ユーノなの……? 」

あまりの別人具合に思わず聞いてしまう。その言葉にニヤリと皮肉っぽく笑った彼に、ようやくかつての面影を見た。


ユーノはそれから一月程こちらで過ごした。随分と大人らしく、そして男らしくなった彼に私はドキドキしてしまい、彼も久しぶりにあった私になにか感じいるところがあったのか、この間に私達は口付けを交わし、恋人となったのである。いろいろと恥ずかしいので、詳しいことは割愛。


それから数年は彼がたまにこちらに帰ってきたり、私が彼の住む王都まで会いに行ったりして付き合いを続けている。


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