片割れの憂鬱
久しぶりの投稿です。楽しんで頂けたら幸いです。
星の宮学園に相我透が入学して2年目の春。
1年生後期の室長を務めた彼は、新入生を迎える入学式を役員として参加していた。その日は幼馴染と再会した昨年を彷彿させるように、桜が咲き誇っている。
その中を制服に着られている新入生達が意気揚々と門をくぐって、透たち上級生が待つ受付へとやってくる。星の宮学園入学式の風物詩と言っていい上級生から新入生への花のコサージュのプレゼントを、前年度後期を担当した室長、副室長達が代表して受付で行っているのだ。
「入学おめでとう。ーーーーーあれ? 君には先ほど花を渡した気がするんだが……。」
「えっ……、それは双子の姉だと思います。こんなに沢山の先輩がいらっしゃるのに同じ方に当たるなんて不思議な縁ですね。」
栗毛色の髪をツインテールにした小動物を彷彿とさせる美少女が、無邪気な笑顔を透へと向けている。印象的なのは小柄の体と反対に胸元は女性らしさを強調するかのようなスタイルのよさだ、幼げな顔のギャプからか男達の目を一身に集めていた。
「宵遅いよ〜。」
「明ごめんなさい。」
透の前にいた宵に声をかけた少女は髪のくくり方まで一緒だが、受ける印象が宵の儚げな感じと違って元気一杯といった様子である。
「先輩、姉が待っているので失礼します。またお会いするかもしれませんね。」
そういって宵は姉とともに入学式の行われる講堂へと向かっていったのだった。
「明、わたしたち同じ先輩にコサージュ貰ったんだよ。格好いい先輩だったね〜。」
「そうだったんだ。私は先輩の顔覚えてないや、また会えるといいね。」
「うん。」
入学式は滞り無く進み、透の学園生活2年目が始まったのである。双子達とは美術部で宵の言葉通りすぐ再会することになった。
ーーーー某所
「遥委員長、どうして私なんですかね。」
そう言って話始めたのは、双子の姉である明である。
「同じ顔と同じスタイル。違うところなんて生まれた順番だけですよ。それだけで、私は裏方に宵は光の当たる場所にって不公平だと思いません? 普通、双子は2人とも攻略対象な気がするんだけどなぁ。」
モニターに映る、透と宵の姿を見つめて明は自嘲気味に話している。
「明は透君が好きなのかしら?」
「私はハーレム男には興味ない。」
「そう……、確かに複雑な気分よね。身内が、ましてや双子の妹が攻略対象だもの。ーーーでも、私は明がモブ部にいて助かるわ。宵ルートのすべてがうまく行っているのは貴方がいるからなのよ、自信を持ちなさい。」
真剣な顔で遥にそう言われた明は、体温の上昇した顔をそらす。同性すらもドキドキさせる遥は罪な女性である。
「ただ……宵に隠し事をしているのが辛いだけだから。それに、宵の気持ちを操作しているようで自分が気持ち悪くなってるんだよね。」
遥は困った様に笑い、明の頭をなでながら話す。
「大丈夫よ。さすがに気持ちまでは操作できないから。状況は整えるけど、選ぶのは本人達なのよ。宵ちゃんの助けになる様に貴方が動けばいいのよ。それに、少しは自分の学園生活も楽しみなさい。貴方だけのストーリーも存在するのよ。ただ表に出ないだけでね。」
遥はウィンクをして、ポケットからハンカチを取り出し明の涙を押さえた。
「へへ、遥委員長に話してスッキリしました。それにしても委員長、人たらしもほどほどにして下さいね。」
明は目元がやや赤いが、表情にいつもの明るさが戻っている。腰に手をあてて遥に忠告しているが、当の本人はわかっているのかニコニコと明を見て微笑んでいるのであった。
「さてと、恋にはスパイスも必要だよね。ちょっと邪魔してきま〜す。」
そう言って、明はその場を離れたのだった。