彼女は、Ⅵ
放課後になって、乗り込んだ電車は、人が少なかった。
入り口近くに腰掛け、顔を逸らして窓越しに外を見る。
不安げな、情けなく眉の下がった顔が、明るい街並みに薄ぼんやりと浮かび上がっている。
これが私。
その顔は滲んでいた。
水に濡れたインクみたいに広がって、それがさらに哀愁を漂わしている。
雨はさらに降り注いでいた。
駅では小ぶりだった雨が、何か強大な力を得たかのように活気づいて、肥大化してしまったのだ。
闇に拮抗するようでいて、その実、溶け合い混じり合って濁った様は、わだかまりを全て抱えて中に蓄積する私への皮肉かと、もの悲しい気持ちになる。
ぐるぐると腹の中で渦巻く醜い私の本心は、いつかここから救済があらんことを、ただ俯いて願っている。
自分では何も出来ないのだ。
しようとも思わない、私ですら理解出来ないことだが、つまりは圧倒的な情報量を手探りでひたすら探すこと。
何も考えたくないのだ。
思考など放棄してしまいたいのだ。
、と私に住み着いた虫はそう囁き続けるのだ。
私に怠惰と強欲という罪深い所業をさせるために。
窓の外の世界は街と闇。
少しの風と大きな雨がこのキャンバスを自由に、そして適当に不自然ないよう彩り覆い尽くしたと見えて、
ようやく私は素直に、喜ばしく感ぜられたのだ。
息がつまって苦しくなる。
窓越しに俯いた私はやっぱり滲んでいて、いつ顔を上げるのだろうとぼんやりとした意識の中で、はっきりと思っていた。
彼女は、窓の外ばかり見ている。
きっと、彼女は僕に気づいていないのだろう。
それでも、僕は気づいている。