6/29
彼女説明書 いち
彼女は自分と向き合ったことは、一度もない。
彼女には意志が欠落している、と思わせる何かがあるからだ。
彼女を形作った型は、片手に収めるには大きすぎていけないが、両手で抱えるには曖昧で物足りなくて駄目だ。
ふわふわして捉えどころのない彼女の心は、周囲の情報と波及した影響から成る偽物。
いつも美人で優等生だと囁かれる彼女は、自分すら解らないのに周りが既に埋め尽くされ固められて、逃げ場を見いだせないでいた。
そんな彼女は、とある感情を手に入れた。
彼女が初めて体験した高揚感、羞恥心、
そして、人に向かう好意。
それは恋と呼ぶには幼くて、小さいけれど、確かに彼女は少女になったのだ―――
彼は薄暗い部屋の中で、机に向かって一心不乱に作業をしている。
書き終えると、一拍おいてから深い溜め息が部屋を満たした。
彼の目の下には隈があり、寝不足と重なる疲労の色が明らかに滲み出ている。
これでは駄目だ。
彼はそう思っていた。
もう少し彼女の内面にまで触れて、彼女の全容が僕以外にも解るようにしなくてはいけない、とも考えていた。