彼女は、Ⅰ
ぽつり、と雨が窓を濡らしていく。
黒い雲が不安な気持ちを駆り立てようとする。
台風がくるらしい。
朝の天気予報で、直撃は免れるものの、すっぽりと台風に覆われているのを見た時から、嫌悪感と言おうか、妙な不快感がこみ上げていた。
ただ窓ばかり見つめていると、
「おはよう。」
唐突に話し掛けられた。
隣を軽く見やると、微笑を顔に貼り付けた少年がこちらを見ていた。
私に話しかけたのか、と状況を確認する。
「おはようございます。今日は遅いですね。」
彼は少し笑って、そうだね、と言った。
いつもなら彼はあと10分は早く来ている。車で送迎してもらっているみたいだから、きっと学校周辺の渋滞か雨のせいで遅れてしまったのだろうか。
だとしたら、やっぱり、
「そういえば、台風が来るらしいね。この時期に雨が降ると冗談じゃないくらい寒いから、嫌だなあ。」
鞄を片づけ席についた彼は、憂いを帯び、嫌そうな表情をしている。
美少年だから、ぐっとくるものがない訳ではないけれど、遠目に女子数人が彼を見て騒いでいるのを見て、冷めてしまう。
「そうですね。」
微笑んで、曖昧に答えた。
先程よりも雨足が強くなってきている。
窓をうつ雨は途切れることなく、降り続ける。
朝なのに、雲が立ち込めていて、夜のような暗さだ。
その暗闇が恐ろしくて、泣きそうな心地がした。