「学園怪談記録ノート」より『呪いの席』
この学園には「学園怪談」と呼ばれる「学校の七不思議」的な怪談がある。
七つと言われることもあればそれ以上と呼ばれることもある。
これは軽い気持ちで関わってはいけない怪談のオハナシ。
*
その話を聞いたのは偶然だった。
曰く『呪いの席』というものがあるらしい、「学園怪談」の一つだ。
呪いの席とは言わずもがな「座ると呪われる」というものだ。
その席は今では使われていない旧校舎の教室の一室にぽつんと置いてある。動かそうとしたらしいのだが動かした人間が不幸な目に遭ったり、動かした席が戻ってきたりしたためもうあきらめたらしい。
そう言えばぼくがこの学園に入った頃、旧校舎を取り壊そうとした新任の校長先生が交通事故に遭って死んだ挙句に校長先生に賛成した人が全員不幸な目に遭ったので、旧校舎の取り壊しは永遠凍結だそうだ。
そんな『呪いの席』の怪談とはこんな感じだ。
《昔、まだ旧校舎が使われていた頃。ある少年が手首を切って自殺したそうだ。少年の席は血にまみれ、その血は拭いたもののその席はしまわれた・・・・・・はずだった。次の日、クラスメイトたちが教室にやってくると、教室には血の臭いが充満しており、少年の席は元の場所にあったのだ。気味悪がった教師やクラスメイトたちは別の教室に移った。そんな話も忘れられた頃、一人の少年がその席にふざけて座った。そこからこの怪談は加速する。少年が家に帰ると少年の両親が息子から血の臭いがすることに気がついた。気味悪がって少年の服を洗うと服から血が流れてきた。両親が少年を問い詰めようと少年の部屋に入ると少年の背後の窓ガラスにもう一人誰か空虚な顔をした誰かがいたのだ。しばらくして、少年と両親はお払いに行ったそうだ。それからは怪奇現象はぴたりと止まったらしい》
*
「で、これがその席か」
ぼくはその席の目の前にいる。さてどうしたものか、ぽつんと置かれた机と椅子、教室内はちょっと鉄臭い。あれだよねあれ、鉄じゃなくって血の臭いってやつ?
《どうするんだ?》
ぼくの頭に乗っかっている機械仕掛けの鴉人形はぼくに問いかけた。そうなんだよね、ぼくは一人じゃなくこいつがいる。だからかあんまり危機感が無いことも事実。
こいつは友人が作ったものだ。彼としては自分でその成長を見届けたかったらしいのだがこいつを完成させた直後に彼は倒れた。別に死んでないよ? それまでの苦労が祟って入院する羽目になった。しばらく帰ってこれないらしい。
そんなわけで、今はぼくがこいつの後見人のようなものをやっている。
「座る、当然だよね」
《そうかい》
普通に腰掛けた。うーん、何にも無いなぁ
と思いながら窓ガラスを見ると・・・何かがいた。空虚な目に薄いようで濃いような良くわからない存在感の少年、あー自殺した彼ね。
とりあえず席を立ってみた。移動してみると少年もくっついてくる。あ、そっか 憑いたのか
「来てるね」
《ああ、どうするんだ?》
「どうってしばらく観察する。そんでもってその後考える」
《わかった》
ぼくは教室を出る。もちろん彼を連れてね。
*
家へと帰ってきた。ぼくには両親が居ないため一人暮らしである。まあ、鴉人形とかその辺が居るから気にしないけどね。
後ろをぺたぺたと何かがついてくる。足音が聞こえる。多分、連れてきた彼がやっているのだろう。
ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた
「しつこいなぁ」
《お前って神経図太いよな》
「図太くなきゃこんな趣味やら無いよ」
ぼくは家の中を徘徊する。彼はまだついてくる。
あ、徘徊している理由はどこまで着いてくるかの検証だよ。
ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぴた
止まった。幸い窓が側にあったので横を見れば彼がぜーぜーと息を吐いていた。幽霊でも疲れるんだ。始めて知ったよ。
息を吐いていた彼がぼくをきっと睨みつけた。あははははは、別にいいじゃん。幽霊をおちょくる人間がいたって。
「くっくっくっ」
《お前って意地が悪いよな》
どうとでも言うといいよ。ぼくはわりと普通じゃないからね。
含み笑いをするぼくを彼は恨めしそうに見ていた。
*
夜、ぼくは眠ろうと思ってベットに横になった。鴉人形は近くの止まり木に止まっている。
ぼーっと天井を見ていると空虚な目をした何者かがぼくに覆いかぶさった。言わずもがな、彼だ。
金縛りにあったようにぼくの体は動かず。口も開けない。
その時、笑った。そう、彼に今まで無かった口ができたのだ。
・・・・シネ
はっきりと彼がそういうのが聞こえた。彼がぼくの首を絞めにかかる。
首が絞まるのが肌でわかった。意識が遠のきかけたとき、彼は光線のようなもので吹っ飛ばされた。
《俺の相方に何やってんだよ》
半分消えかけた彼は呆然としていた。そりゃそうだよね、触れられないはずのものに触れられたんだし消えかけてるし。
この人形は本来幽霊退治に使われるはずの代物だ。今ではぼくの趣味に付き合わされるただの苦労性のしゃべる人形だが、そんじょそこらの幽霊じゃ太刀打ちできるはずが無い。
《もう、戻れ。別に俺はお前を退治したいわけじゃねーし》
すぅっと彼の姿が消えた。はー とりあえず。
「助かったよ」
《いいってことだ。お前に死なれたら俺が一苦労だし》
そうそう、ぼくとこいつは妙な繋がりがあるんだよね。まあどうでもいいけど。
その後、死に掛けたぼくの首には人間の手の痕のようなものがしばらく残った。そして、しばらくした後、旧校舎は燃えた。別に放火というわけじゃなく肝試しにろうそくを使っててうっかり落として燃え広がったらしい。ちなみに何で落としたかというとふと横の窓を見たら半分体が消えた人間が居たとのこと。ごめんなさい
*
「『………』」
これは一体…………?と首をかしげる黒猫少女と黒猫
つい最近発見したノートの中身を確認することにしたのだが中を読んで驚く、この彼か彼女かは定かではないがこのノートを書いた人物は鴉人形を相棒に様々な騒動を解決?しているのだが、その過程が可笑しい。騒動を起こしまくっている。被害者は全部怪奇現象だ、つくづく凄い。あとがきにはこう書かれていた。
*
さて、ぼくは名もない文芸部員だ。ぼくの趣味は学園にある噂話を検証すること、例えば告白すると確実に成功する木とか(失敗した)、人を呪うことのできる祠とか(まず呪う人が居なかった)。
まあ、間抜けな感じになってるけど本物もちょくちょくある。例えば座ると呪われる席とか(ひどい目に遭った。死に掛けた)、人数のふえる記念写真とか(一人増えてた、しかもどう考えても服装が昔の制服)そんなこんなで今回は「学園怪談」を探したいと思う。
「学園怪談」とはぼくの通う学園に伝わる学校の怪談で微妙にオーソドックスな物から外れているのが特徴だ。「大鏡の裏」「校庭の泉」「夕暮れ時の殺人鬼」「走る人」「呪いの席」「水没する教室」などなど数えるときりがない。
この学校の生徒って基本的に怪談好きなんだよね。怪談検証に出かけて何人も行方不明になるし、死体が出たこともある。それでも検証はやめないし。この前は惨殺死体でたなぁ、確か美術部の子。
ぼくとしては生きていたいし安全なのからスタートする予定、それ以前に「呪いの席」と「走る人」の検証は終了しているしね。さーて、いったいどれから始めようかな?
頑張ってホラーにした結果がこれです。
ほとんどギャグですね。すみません
彼(彼女?)は本編には出ませんよ?
……多分