私の将来は?
大学生になってから、急に時間の流れが速くなった気がする。3年生になると、周りの皆は就活だ、進学だと騒ぎだした。
母から電話がかかって来たのは、就職活動が本格的になってきた秋ごろだった。
『久美、あんた進路はどうすんの』
「そっち帰って、家を継ごうと思う」
部屋の隅で、自分の服を手洗いしていたおじさんがこちらを振り返る。
『農家の娘は嫌だって言ってたくせに』
「んー。だけどさ、野菜って思った以上に面白いなーって。ピーマンとか」
『ピーマン?』
それを聞いていたおじさんが、声を押し殺してくくくと笑った。
『まあ、帰ってきてくれるならそれはそれでいいけどね。美香がさあ、大阪の大学を受けるって言ってるの』
「美香が?」
美香は私の妹で、今年受験生だった。長野を出て一人暮らしがしたいと昔から言っていたけど、そうか、大阪に行くのか。
『美香まで出て行っちゃったらさあ。来年からお母さん、お父さんと二人暮らしになっちゃうのよ。もー、今から気が重いわよ!!』
「あははは」
私が笑うと、母はため息をついてから、ところでさあ、と続けた。
『あんた、彼氏さんとの関係はどうなのよ』
「え?順調だけど…」
登とはちょくちょく会っていて、会う機会こそ減ったものの仲が悪くなったわけではなかった。
『結婚とかは考えてないの?』
「結婚!?」
思ってもみなかった母の言葉に、私は思わず大きな声をだした。おじさんがまた、こちらを振り返る。
『もしかして、もう同棲してるとか』
「…ないない!」
まさか、登とじゃなくて、ちっさいおじさんと同棲してるとは言えなかった。
電話を切った私に、おじさんは楽しそうに話しかけてきた。
「久美ちゃん、ピーマンを作るのかい」
「そうだねー。それもちょっと考えてるんだけど」
私は結構本気だった。おじさんはにんやりしてから
「もしかしたら、久美ちゃんの育てたピーマンから、違うおじさんが出てくるかもしれないぞ!はっはっは」
と、豪快に笑った。
「そんなまさか。ピーマンから出てくる人間なんて、おじさん一人で十分だって」
私は小さな声で、はははと笑った。