おじさんの誕生日
月日は流れて、私は2年生になった。登は就職してから仕事が忙しいらしく、会える機会はめっきりと減った。
その日の晩御飯は、鯛の刺身と塩焼きと、それからハンバーグだった。たんぱく質だらけだなあ、と作りながら思った。
それらの料理を目の前にして、おじさんは眼を輝かせた。
「え、え、どうしたんだい?えらく豪勢じゃないか!」
「あー、おじさん覚えてないんだ」
私はカレンダーを見せた。
「今日は、おじさんの誕生日なんだよ。…誕生日って言えるのかどうか分かんないけど」
そう。おじさんがピーマンから出てきたあの日から、今日でちょうど1年だった。
おじさんはぽかんと口を開けて、それからはっはっはと笑った。
「よく覚えていたね、久美ちゃん」
「当たり前でしょ。あんな濃い一日、忘れたくても忘れられないって」
それに、おじさんの誕生日は私しか知らないから、せめて私だけでもちゃんと祝ってあげたかったんだ。
食後のデザートに、おじさんと二人でケーキを食べた。と言っても、スーパーで売ってた安物だけど。それでもおじさんは、おいしいおいしいと言ってくれた。
さすがに一年もたつと、おじさんの食べ物の趣味は大体把握していた。大好物は鯛と、ハンバーグ、それから甘いもの。嫌いな食べ物はピーマンとパプリカ。本当に、なんでおじさんはピーマンから出てきたんだろうか。
「久美ちゃんはきっと、いいお嫁さんになるよ」
ケーキを食べ終わると、おじさんはつまようじで歯をしーしーしながら言った。
「ごはんもおいしいし、優しいし」
「そう?えへへ」
「久美ちゃんがお嫁に行く時は、おじさん泣いちゃうかもしれないなあ」
おじさんが遠くの方を見ながら呟いた。少しだけ、悲しそうな顔をして。私はその顔を見て、何故か急に寂しくなった。
「結婚式にはさ、もちろんおじさんも呼ぶよ」
「ええ?本当かい」
「うん。きっと、おじさんの好きな鯛料理もあるよ」
「そうかあ。そうだよなあ。めでたい、だもんなあ」
おじさんは嬉しそうに、頷いた。
この時おじさんは、どんな気持ちでこの話をしたんだろうか。