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解放の異言者  作者: 綾高 礼
第一部

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第18話「星に還る日」


 外が騒がしい。

 ついにこの日がやってきた。

 こなければいいと思っていた太陽は、いつものようにやってきたみたいだ。

 一睡も眠ることなど、出来なかった。

 食事はもうずっと喉を通らない。少し食べるだけで、吐きそうになる。

 だがもう、覚悟は決まっていた。

 

 これですべてが終わる。生きるという苦しみから解放される。

 過去の神子たちも、同じような心境だったのかもしれない。ミュラはそう思った。

 それでも涙は、自然と溢れ出てくる。身体が小刻みに震えている。

 

 扉がノックされる。心臓が飛び跳ねる。

 世話女のハザヤが、部屋に入ってきた。


 「ミュラ様。お時間です」


 ハザヤはいつものように、感情一つ変えない声で告げる。

 それは、死の宣告であっても変わらない。


 「ハザヤ」

 「なんでございましょう」

 「今まで、ありがとう」


 一瞬、ハザヤの表情が固まったような気がした。

 ミュラの濡れた瞳を避けるように俯く。

 だがすぐに、普段通りの無表情を繕い、頭をさげた。


 「身に余るお言葉でございます」


 ーーー


 激しい怒号の応酬が、鼓膜を刺激する。

 半裸の白人の男たちが、槌を振り回している。その先端には、血塗られた石が付いていた。

 半裸の褐色の男たちも負けじと、棍棒を使い応じているが、防戦一方だ。

 数十人が、乱れ合うように周囲で戦っている。

 

 それを見つめる視点は、肩で大きく息をしている。

 どうしてこうなった。


 「話神!」


 褐色の男が、こっちに向かって叫んでいる。

 野太い叫びが近づいてくる。振り向きざまに、ごんっと頭に鈍い衝撃が走った。

 視界が揺れる。

 顔が髭で覆われた白人が、崩れゆく自分を見ていた。


 「起きてください」


 ノアが目を覚ますと、ハザヤの無表情な顔がそこにあった。


 「……ハザヤさん?」

 「起きてください。祭司様がお待ちです」

 「もう朝ですか」


 ハザヤはため息をつく。

 

 「もうお昼前になります」

 「そんな」

 「支度を整えてください」

 「すぐ行きますと伝えてください」

 「承知しました」


 ハザヤが部屋を去る。頭が重い。それにずきずきと痛む。

 長らく眠っていたみたいだが、嘘みたいだ。

 それに外がいつもより騒がしい。


 「そうか」


 今日が儀式当日だったことを思い出す。

 胸騒ぎがしてくる。

 気怠い身体を起こし、ノアは部屋を出た。


 ーーー


 ミュラを先導するハザヤが、扉の前で立ち止まる。

 四人の神子が、待っていた。

 一番年少のキエラは、今にも泣き出しそうな目でミュラを見ている。

 残りの神子たちも一抹の不安を、何とか隠そうと懸命に身体に力を入れていた。

 ミュラは、一人一人と抱擁を交わす。

 最後にキエラの頭を撫でる。


 「キエラ。貴方もいつか立派な神子になって」


 キエラは我慢出来ずに涙を流した。


 「ミュラ様」


 ハザヤが扉を開く。

 布マスクをしたテテロペ祭司が、待っていた。

 震える足を懸命に前へ進める。

 

 部屋に入ると、焚かれた香木や葉の強い香りが、ミュラの鼻をつく。

 用意された発酵されたお酒を飲む。喉が焼けるように熱い。何度も咳き込んだ。

 すぐに、立っていられないほどのふらつきを覚える。

 テテロペに誘導されるがままに、石台に寝転んだ。

 聞いていた通り、このまま意識がなくなるそうだ。

 確かに眠くなってきた。一睡も眠れなかったのが嘘のようだ。

 

 走馬灯のように、ツチャル村で過ごした日々が、脳内を駆け巡る。

 みんなで植物や果実を集め、男たちの狩りを見守った日々。

 火を囲み、踊り唄いあかした夜。

 父に肩車されながら森を探索した。眠る前に母が物語を語ってくれた。

 

 セルミネ村のカカと親密になった夜。

 ごめんね、カカ。無理な約束で貴方を苦しめた。

 もうこれ以上、苦しまないでね。

 

 意識が朦朧としてきた。

 あぁ。これで最後なのかな。

 目尻から涙が流れる。ミュラの意識はそこで途切れた。


 ーーー

 

 夕暮れと共に、人々が山頂の広場へ集まってきた。

 人々は、各村独自の衣装を身に纏っている。

 今日だけは休戦協定だと言わんばかりに、朗らかな様子だった。

 

 激しく燃える火床を囲うように、打楽器に合わせて人々は踊り、唄う。

 加工された大きな葉に、各村が得意とする料理がもてなされ、子どもたちが口を頬張らせている。

 

 気づけば二百人近くの人が集まってきた。

 この光景に、ノアは驚きを隠せない。


 「驚いたか」

 「えぇ。こんなに人がいたなんて」

 「今宵は一年に一度の大切な日だからな」

 「そう、なんですね」


 しばらく余興のような時間が続いた。

 途中、顔を赤らめたウルカに誘われ、ノアも踊りに加わった。

 村の者たちも、不慣れなノアの姿を見て、喜んでいた。

 この島の不気味な印象が、ノアのなかで少し緩和した。

 

 日はすっかりと落ちこんだ。

 満月が爛々と輝き、夜の山頂を照らしている。


 「皆の者! よく集まった」


 テテロペは声を張り、周囲に呼びかけた。

 ざわつきが徐々に静まり、みながテテロペとその隣にいるノアを見つめる。


 「無事にこの日を迎えられることを、嬉しく思う。同時に神も大変喜ばれることだろう」


 複数の掛け声が重なる。みんな笑顔だ。


 「そこで、先にこの者を紹介したい。前へ」


 テテロペに誘導され、ノアは一歩前に出た。

 

 「この者は、神の導きにより、ライリー島にやって来た」

 「ノアと言います」


 ちらほらと掛け声がかえってくる。特にお世話になったセルミネ村の方からは、熱心な声が聞こえてきた。

 

 「彼は外の世界からやって来た白人だ。受け入れたことを不審に思う者もいるだろう。だがここで宣言したい。ノアは神に導かれこのライリー島にやって来た――話神だ!」


 周囲がより一層ざわつきはじめた。

 先程まで笑顔だった島の者たちの顔が、曇りはじめる。


 「聞け!」テテロペは声を張り上げ、息を大きく吸った。


 「ノアは語り継がれてきた話神伝説の通り、聖鳥の羽筆を我々の為に、このライリー島に運んできたのだ! これを神の導きとせずなんとなする!」


 テテロペは、頭部に幾つもある羽の中から、聖鳥の羽筆を抜き、そのまま高らかに掲げた。

 その姿に、歓声が湧き上がる。

 口笛するものから、楽器を奏でる音。躍り出す者まで現れた。


 「戴冠の儀はいずれ行う。今宵はまず、神にとって最も大切な子であるミュラを、丁重に送り還そうではないか!」


 大歓声が夜の山頂を揺らす。

 呆気にとられるノア。

 その視界の端で、眠らされたミュラが運ばれてくるのを目にした。

 いつもの正装に加え、頭部には、テテロペ祭司と同じような羽の装飾を巻いている。

 ミュラが石台に寝かされる。

 その様を神聖なものを見るような、恍惚とした眼差しで、島民たちは見守っていた。

 

 さらにノアは、驚くべき者が運ばれてくるのを目にする。


 「アミアン!?」

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