第七話 休息
「うまいあなぁ」
「食ったらとっとといくぞ。」
喧騒が耳に届く。席のどこでも絶え間なく声を張り上げ、または注文をさばいている。
隣の方ででは若い男らが笑い声を交わし、賑やかな会話が波のように押し寄せてくる。
盃がぶつかる音、皿に触れる軽い金属音、時折響く厨房からのジュッという油の弾ける響き。
それらが混じり合い、殺気漂う環境でも活気のある空気を感じ取れた。
まだ外の通りからはぞろぞろと足並み音がすれば、どれもこれも大会が参加者、覇大王を讃える声が遠く聞こえ、街のざわめきが窓越しに混ざってくる。
静けさとは無縁の、熱気あふれる場所、食事をするのには向かないと言うものもいるが。
「あいあいあ、食ったり行くんで。」
俺は肘を突き、ただ目の前に置かれた食事を見ては手に取り、熱々が運ばれてきたばかりで、表面から立ち上る湯気がゆらゆらと揺れている。
それを掴んでいく。
目に入って楽しいし、味もそうだ。
そうまず見た目だけのは、間に...パンの間、肉の、刻み肉を固めたそれの上にたっぷりと乗せられた玉ねぎだった。
厚めに切られたされたそれが、おそらくは網の上でしっかりと炙られた痕跡を残している。
ところどころに焦げ目がつき、茶色く縮れた部分が香ばしさを予感させる。
あの焦げの部分が、きっと甘みと苦みの絶妙な均衡感を生んでいるのだろう。なにしろ少しばかり紅糖とでも言ってたか?少しだけ見たそれによく似ている気がするはず。とにかく糖みたいに、蜜の味がする感じがした、肉汁の塩気がするせいで甘さが引き立てられたのか、とにかく甘く、舌を踊らせては胃袋が泣き出しそうだった。
「楽しむのはいいことだが、たるんでないか」
噛むために手で掴んで口に運ぶもの、やはり鼻を近づけると、その香りが何度でも飛び込んできた。
玉ねぎの甘い匂いが基調にありつつ、表面の焦げが加わることで、ほのかに燻製されたような味が混じる。口の中が自然と唾液で満たされていく。
何重の味が飽きさせない。
「ぐっ、味はいいが..やはりしつこいな」
「あむ、ほうか?濃い目がして、好きだわ」
バンズは玉ねぎみたく軽く炙りされ、外側がカリッと音を立てそうな質感だ。
歯で中が見えるように噛む、まるで割ってみるように噛む、すると溢れんばかりの具材が顔を覗かせる。
(ああ、多い、出てきた時にわかったが、十分に多い、上質な食材たち。)
見れば肉が二種類、層を成して詰め込まれている。
一つは骰子のように均等に切断された角切りの肉。赤身がしっかり残った牛肉で、表面に焼き目がつき、中はまだ柔らかく、肉、いや水々しさ?というべきか肉汁さでも言うべきか、それを保っている。
もう一つは、粗く砕かれた挽肉を固めたもの。こちらは平べったく押し潰されては、肉のゴロゴロした食感を味わえて、さらに香辛料...?何か黒いのが入っていて味を惹き立たせて、噛むとなんだか肉のかみごたえカニ、そうそんな感じなものまで上がった気がすると。(..違うけど、合うぞ!)
異なる、食感が異なりを見せている二つの肉だが口の中で喧嘩はしていない、むしろあっている。
(そうか、濃い味付けのもの、水が少し欲しいと思うパサつきをほぐしてくれる、これは)
タレ、タレがこれらを繋ぎ止め、全体をまとっている。
味付けを濃くさせるために多めのものか、と最初は誰も思うだろうが、それとも少し刺激的な香辛料な味わいか。でも違う、水気が多くて、肉汁が多い骰子の肉の油で少しくどく感じる口内を慰めて、しつこい感じを消してくれるから、飽きがこない。それに挽肉は形を感じるようなゴロゴロしたものではあるが、そうであればやはり、言い換えると固く、水分を奪われるものだ。しかしそこで水分の補給をこのタレがしてくれる。
さらに濃厚で粘度のあるものが口内の他の肉の味にもひきを取らずに、ただの補佐やタレでは終わらず、まるで第三の味でもかと言うように味の割合を多く奪ってくれる。
(実にいい!)
さらに野菜も新鮮で、シャキッとした緑、何か果実の赤が彩りを添えている。
新鮮を感じさせてくれる!
「おい、フォン、貴様」
少し飲み物を取り、次にまたバンズを両手で包み込み、ぐっと持ち上げる。二つ目だ。
重みがある。タレが少し零れそうになり、慌てて口元へ運ぶ。まず外側のバンズが歯に当たる。カリッとした軽い抵抗の後、柔らかい内側が広がる。そしてすぐに、炙られた玉ねぎが舌の上に広がった。あの焦げた部分が、最初に苦甘い風味を放つ。玉ねぎの水分がじわりと染み出し、甘みが口いっぱいに広がる。
でもただ甘いだけじゃない。焦げの苦味が効いていて、ほのかな炭の香りが後を追う。甘さを感情にして食後の甘味ではないようにしてくれる。
これが噛むほどにその味わいが深くなり、全て一体へと、これが肉汁やタレなどと味がうまく惹きつけ合うようだ。
一瞬、周りのざわめきが一瞬x遠のくほどに集中してしまう感覚がした。
「こちらの言うことが聞こえんと言うか、貴様」
次に肉が本体に到達する。最初に当たったのは角切りの方だった。歯で噛み切ると、表面の焼き目がパリッと破れることもなく肉は砕けて中からさらに肉汁が溢れ出す。柔らかく、噛むとすぐに崩れて舌の上に広がる。砕かれた肉の粒子がほぐれ、口の中で溶けていくような感覚。均一で滑らかな食感が心地よい。
続いて、挽肉の部分に歯が沈む。こちらは対照的だ。噛み応えがしっかりしていて、食感が楽しい。少しパサつきを感じる部分もある。でもそれがまたいい。噛むたびに牛肉本来の旨味がじっくりと抽出され、口の中に残る。潤ってしまった、満足げな喉を刺激するような、素朴な肉の味だ。
そうしてやはり二種類の肉が交互に口の中を占領し、噛むことに旋律を生む。
「もはや敬意に....何をしているッ」
一つはゴロッとした存在感、もう一つはふわりと広がる優しさ。交互に味わうことで、飽きが来ない。むしろ、次の一口が待ち遠しくなる。
でもやはり肉だ、いつまでも飽きないわけがない、しかしパサつきが気になり始めたところで、タレの酸味と甘みが介入する。
果実のような味わいの何かの爽やかさと、少しの香辛料的な味わいが効いた風味が、口の中をまた一でも戻すような刺激のある味で、口を圧倒して他の味を忘却するように、させるようにと広がる。
やがてそれも肉汁と化した噛み砕けた肉らに混じり合い、より濃厚な味わいを生む。もはや濃厚なスープではないかと言いたくなるほど。
「ふぅくった食った。」
周りのざわめきが再び耳に戻ってくる。誰かが大きな笑い声を上げている。俺もそうしたいものだが今はこの余韻に浸りたい。
皿が空に、満足感が体を満たす。
玉ねぎの焦げ香が鼻に残り、肉の二種の食感が記憶に刻まれる。
タレの潤いが、最後まで口を乾かさなかった。周りのざわめきが、心地よい余韻を包む。
「シャオ!」
レイの拳がぶつかるが顔を逸らして勢いを揉み消す。
「うめぇなおい。」
「兄貴...?これが好きなんすか?まずくねぇすか?」
「...?んん?...キレそう」
「い、いやぁ、申し訳、いや...その...あ、間違えたうまいんでぇ、いやぁうまいなぁ。おい!ねぇちゃんな、もう一個頼む!」
「はーいい」
「待て、目的を忘れていないか。」
「...うむ。装備調達で」
「なら行くぞ、たわけ」
「それにお前の目つき、レイよ。安心しろ、俺はたるんでいない。すでに武を、いや武がこの身において目覚めていると言うべきだ。」
「...なんだとぉ」
「おい、レイ、奇声やろうのくせにさっきから調子こきすぎだ!!兄貴が楽しんでるとこ」
「やめろ」
「へい...」
「キレているわけではない、だが、これから争いはやめよう、レイもそうだ。違うか。」
「...その通りだ、悪かった。」
レイは頭を下げる。
そして
「では、聞かせてもらうぞ、目覚めとやら。」
「ああ、記憶がないから自身のことがよくわからないが、戦いを経て、体が成長していることがわかった。」
「ほう、なら」
「そうだ!それと共に技が俺に顕現し始めてきた!正確に言えば技術か、そう、体をどう動かせばいいかがわかってきた。」
「...技、全ての調合におけるか?または大技とでも」
「待て、レイ、その目つき」
レイの体はまるで疼きでもあるように少し筋肉が強張っていた。
(俺以外、ここで見抜けるやつはおそらくはいないが、あまり良くないな。このすぐ武芸に惹かれるのは)
「あとでだ、戦いの中で見せるぞ、俺の、そう、我が新技...だから行こう」
「何をする。」
「支払いできるのないし」
「よく見ろ、覇大王の指示で参加者に食事の代償はいらんぞ。」
「え?」
「マジ?」
「貴様らがそうすると思ったからよく見ておいてやったぞ、参加者の名札を出せばいい。つまり、落ち着いていくぞ」
「おう、勝つぞ!まずはなんとかして悪徳科学者ぼこして装備集めてやるぞ!!」
「おう!兄貴!」




