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魔法使いの弟子、のはず ~その依頼、魔法を使わず解決します~  作者:


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あやしがりて寄りてみるに

 ラファエロの隠居生活に必要不可欠なもの――すなわち相棒となるモフモフ。

 部下が飼っているベスのような小型犬も可愛いのですが、田舎の広い土地で暮らすなら夢は大きくいきたいものです。

 つまりでっかいモフモフです。


 魔物(モンスター)が好まない土地ですが例外もあります。

 なんと新天地付近の山は、ダイアウルフの生息地だったのです。

 縄張り意識が強いので、普通の土地だと他の生き物との争いが絶えない魔物(モンスター)なのですが、この山ならその心配はありません。

 少々感覚が狂いますが、人でいうところの軽い眩暈程度です。鈍った方向感覚は、優れた嗅覚で補えます。

 同じ土地に住む生き物が少ない分、心穏やかに生きることができるのです。まるで裏社会の闘争に疲れたマフィアです。

 引退したマフィア――もといダイアウルフですが、余所の土地ではその血気盛んな性質が災いして個体数が少ない魔物(モンスター)です。絶滅危惧種に指定されていますが、保護しようにもそれすらストレスとなるので非情に厄介な性質の持ち主です。


 付近の村の住民は、森に目印をつけてダイアウルフの縄張りに入らないよう気をつけていました。

 しかしどこの世界にも禁を犯す馬鹿者はいます。

 最初に異常事態に気付いたのは、茸狩りを日課にしている老夫婦でした。年々腰が曲がるも、その分視界が足下に固定されるので、これはこれで便利なのではと考えている善良で前向きな熟年カップルです。

 その日も仲良く朝から山に繰り出したところ、目印を超えて地面を踏み荒らしている複数の足跡を発見しました。


 愚か者がどうなろうと自業自得ですが、怒り狂ったダイアウルフによって近隣の住民がとばっちりを食らうなんて冗談ではありません。

 縄張り拡大のお知らせなんて親切なものはないのですから、サイレント更新に気付かず村が全滅する羽目になったら笑えません。


 どんな状況になっているのか確認しようにも、猟師程度の腕前では「村のために、死んでも情報は持ち帰れ」と命じるも同然です。

 もちろん「御意。故郷のためにこの命、喜んで捧げます」なんて村人もいやしません。


 冒険者ギルドに依頼を出しましたが、辺鄙な田舎なので移動に時間がかかるうえに、遭難しやすい土地です。細々と生活する住民が出し合った依頼料では、誰も手を上げませんでした。

 そんな時に、ラファエロが引っ越しの挨拶として村長の家を訪ねたのでした。



 田舎は都会とはまた違った人付き合いのルールがあると知っていたラファエロは、とりあえず一番偉いであろう人に話を通しておけば何とかなるだろうと考えました。

 いきなりやってきた二十歳前後の美麗な若者に、オズテリア最高峰の魔法使いを名乗られた村長は、驚き三割、困惑三割、疑い三割、期待一割といったところでした。

 駄目で元々。ラファエロに希望の光を見いだした村長は、ことの次第を話したのでした。


 ラファエロはお金に困っていないので、雀の涙程度の依頼料に興味はありません。

 彼は報酬として、村の外でありながら人里に気軽に買い物にいける立地、土砂崩れしそうにない地形、近くに水源がある等々――と思いつく限りの条件を出して、地元民オススメの土地を教えてもらい、そこに住む許可を得ました。


 田舎は都会と違って土地代なんて必要ありません。その土地を治める者の許可があれば、簡単に家を建てることができます。そして土地の面積に応じた税金を払えばオールオッケーなのです。



 村長の依頼を請けたラファエロは意気揚々と出発しました。

 理想の土地を手に入れることができたこともですが、それ以上にダイアウルフの存在に心躍らせました。

 所詮はイヌ科。最初に力の差を思い知らせてやれば、素晴らしいペットになりそうではありませんか。

 豊かな森の中で、でっかいモフモフと戯れるスローライフ――渡りに船とはまさにこのことです。


 しかし期待に胸を膨らませたラファエロを待ち受けていたのは、なんとも血なまぐさい事件現場でした。

 事件現場とは森には似つかわしくない表現ですが、この状況について分かりやすく説明するならそれ以上の言葉はありません。


 苦悶の表情で事切れている複数の人間。同じく絶命している一匹のダイアウルフはまだ幼体です。

えぐれた地面。武器か魔物(モンスター)の爪か、深く傷つけられた木の幹と折れた枝。いずれも盛大な血しぶきを浴びてまだらに変色しています。

 涼しい高原なので腐敗は進んでいませんが、蠅が数匹死体の周囲を飛び回っていました。遺体を検めれば蛆もわいていることでしょう。

 危険な場所だとわかっていて侵入するだけあり、倒れているのはどれも善良な人間とは言い難い外見の持ち主でした。刃物片手にヒャッハーして、善良な人間を襲っていそうな見た目です。


「スキンヘッドとバンダナばっかりじゃな」


 連中の腕には揃いの入れ墨があります。となると頭髪についても規定があるのでしょうか。

 いいえ、そんな規律正しい組織とは思えないので、仲間内で流行ってるとか、手入れが楽だとかそういった理由でしょう。


「ええと、スキンヘッド5、バンダナ4、……モフモフ1」


 貴重なモフモフが失われたことに、ラファエロは悲しみました。


「うぅむ、なにが起こったか確認しなければ報告しようがないのう」


 ラファエロは超がつくほど強い魔法使いです。彼なら無法者の十人や二十人、簡単に葬ることができます。

 移住先で幅をきかすため自作自演したのではないか、なんて疑われてはたまりません。

 後で潔白を証明しても、一度犯人だと思われたらいつまでも引きずるのが田舎というものです。

 都会と違って人の入れ替わりが少なく、娯楽や情報が限られているので噂話が七十五日どころか、七十五年続いてしまうのです。

 そんな居心地の悪い場所で、のんびりスローライフなんてできやしません。


「酔うからあまり使いたくないんじゃが、仕方ないのう」


 ブツブツと呟いたラファエロは、過去視を発動させました。

 悲しいかな。長年独り身だったので、独り言がすっかりくせになってしまっています。


 魔法を発動させると、ラファエロの視界は二重になりました。現実の光景と、過去の情景がぼんやりと重なります。

 ラファエロはそのまま少しずつ時間を巻き戻して、この場所でなにが起きたのか確認しました――

生き物の特性無視してる時点で、ペットを飼っちゃいけない人種である。

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