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7話 入隊日

 目覚ましい戦果。軍に入ったからにはそれを挙げなければならない。

 俺は未だにアイツが馬鹿にした夢を追いかけているからだ。

 アイツは英雄を目指していない。ならばこの世界にはもう俺を脅かす存在は居ない。


「魔力量0の新人がいるって?」

「よっぽど筋骨隆々な奴なんだろうな」


 ちっ。魔力量S+の俺よりもアイツの方が噂になってやがるとは。

 まあそりゃあそうなるか。魔力に一切頼らず第2種目で1位を取ったんだ。

 そっちが話題にならない筈が無い。だが今は実力が互角でもやがて魔力0が響いてくるはず。

 いずれアイツが追い付けないほど俺が強くなる日が来る。その日まで我慢我慢。


「おっはろー、オロチ!」


 そう言って背中をドンと押される。

 この場にはそぐわない活発な声はやはりアンドレアであった。


「朝っぱらから元気な奴だな」

「そりゃそうだよ。時間帯で体調が左右される奴は戦場で足元を掬われるからね」


 何なのだろう、こいつがたまに放つ凄みのある言葉は。

 どこかで軍事経験でもあるかのような。


「おい。主席ってお前だよな」


 なんだなんだ? 今期はやたらと雑談を好む連中が多いな。


「ああそうだが」

「ほう? お前といいあそこの奴といい何かなよなよした体の奴が多いな。魔法ばかりで身体を鍛えるのを疎かにしてるんじゃないか?」


 そう言う男は確かにこの中でも特に背丈もが体も大きい。

 だが俺から言わせてみれば奴の身体は実戦に弱い。

 無駄に肥大させた筋肉は戦闘中、無駄に体力を消費させる原因にもなる。

 持久戦が強いられる場において体力を失いただの肉塊と化す。

 果たして目の前の男はそれを考慮した体づくりをしているのだろうか?

 まあいい。こういった手合いは目に物を見せてやるのが早い。


「魅せ筋如きが何を粋がっている?」

「ああ? もっかい言ってみろ」

「筋肉で耳が埋まったか? 魅せるだけの筋肉付けて何を威張ってやがる」


 その瞬間、目の前の大男の筋肉に力が入るのが見てわかる。

 これだけ筋肥大しているからこそ、俺の眼なら次の行動が手に取るようにわかる。

 大振りの拳が俺の顔の隣を掠める。恐らくわざと外したのだろう。

 確かに威力はあるようだ。だが当たらなければ意味はない。

 

「どうだ?」

「当てるつもりで打ってこい」

「はあ? お前今避けられてなかったじゃねえか!」


 これだから脳筋は困る。避けられなかったのではなく避ける必要がないと()()()()()()から避けなかっただけだというのに。


「当てられないのか?」

「はあ。たくっ、初日に医務室送りになっても知らねえぞ」


 そう言うと大男が再度大振りの拳を振るう。

 これほど目の前にいるというのに何故わざわざ大きく振る必要があるのだろう。

 そんなことを考えながら俺は最小限の動きだけでそれら一切を避けきっていく。

 やがてぜえぜえと息を切らしながらこちらを睨みつけている大男の完成という訳だ。

 やっぱり持久力がないじゃないか。無駄な動きも多いし無駄な筋肉も多い。


「ま、こんぐらいにしておいてやろう」

「お、おい! まだ……」


 大男がそう言って俺の肩を掴もうとしたその時であった。

 何者かが大男の腕をつかみ、そのまま背負い投げを披露する。


「静かにしろ。時間だ」


 現れたのはあの試験官であった。金色の短髪の間からサファイアの瞳が覗いている。

 あの時は思わなかったが、こう見るとかなり端正な見た目をしている男だ。

 

「今期の新人は元気だな! ガッハッッハッハッハ!」

「ウルフラムさん。あなたは甘やかしすぎです。軍人たるもの規律は守らなければ」


 あいつ、規律に厳しいタイプの軍人か。

 若い実力者の芽を摘んでおくような奴じゃないといいけど。


「ヴィンフリート。お前は少し気にしすぎだ」

「そりゃ気にしますよ。私にとって部隊を受け持つのは初めてなんですから」


 時間だという割には上官二人はゆったりと会話しているような気がするが。


「さてと、本題に入ろうか。というか何故お前らは敬礼をしない」


 おっと忘れていた。というか誰も教えてくれなかったじゃないか。

 俺達は列を作り、上官達に向かって敬礼をする。なぜ俺達だけが集められたのか。

 他の軍人達との顔合わせはないらしい。せっかくカトリンさんに仕事場で会えるかと思ったのに。


「なおれ! これより貴君らの所属を発表する」

「レオン。その前に俺達が自己紹介しねえとだ」


 なんだこいつら、グダグダだな。


「そうでした。私はヴィンフリート・アクスマン。階級は軍曹だ!」

「俺はウルフラム・バーシュ。階級は曹長だ」

「今回私が副部隊長、ウルフラム曹長が部隊長を務める」


 階級呼びは下の名か。ま、名字がない人も多く軍に所属しているからそっちの方がやりやすいんだろう。

 それにしても20人の部隊で今後行動するのか。それとも本隊に合流する前に慣らしておく目的で部隊に所属させるのか。

 様々な疑問はあるもののいったんは話を聞こう。

 それから軍での細かい規則や注意事項、更には主な任務について話されていく。


「質問はあるか?」


 一通りの説明が終わった後、ヴィンフリート軍曹がそう告げる。

 よし、この時を待っていた。俺が勢いよく手を挙げようとするも、俺よりも先に手を挙げた者が居た。


「はい」

「シオン二等兵、何かな?」

「魔物討伐にはいつ向かえるようになるのでしょうか?」

「ほう、魔物討伐か。当分は無理だろうな。本隊に所属しなければならないからな。そして更にその中でも上澄みである各『王』が指揮する特殊部隊へと上り詰めなければ魔物討伐には向かえん」


 『王』というのはこの国における称号の最高位みたいなものだ。かくいうカトリンさんもその内の一角。

 色々いるが、『魔導王』、『武王』、『剣王』などそれぞれの特色を捉えた様々な名が与えられている。

 中将にして既にその称号を得ているカトリンさんはその中でもさらに別格だ。


「はい」

「オロチ一等兵」

「手っ取り早く『王』になりたいんですが、どうすれば『王』になれるのでしょうか?」


 俺がそう質問をすると二人の上官から呆れたような笑みがこぼれる。

 いたって真剣な質問なんだけどな。


「今期の新人はどうやらかなり威勢が良いらしい」

「はてさてそれが戦場でも長続きするものなのでしょうか?」


 この質問が傍から見れば新人が高望みをしている馬鹿げた妄想だと思うのだろうことは分かる。

 だがそれは実力を持たない凡人が発するからこそそうなるのであって俺は違う。

 俺だけ一等兵であることからそれは軍側も認めていると思ったんだがな。


「『王』とはたった一人で右に並ぶ者が居ないほどの戦果を挙げた者に与えられる称号だ。剣王はたった一人で一万の魔物の眷属を屠った。武王は魔物に支配されていた重要拠点をたった一人で取り戻した。そして魔導王はたった一人で“10”の魔物を屠った。分かるか? それほどの戦果なんだ。そう軽々しくなりたいと言うものではない」


 魔物を屠る。それはこの世界ではまさに英雄的所業である。

 今までにこの世界に顕現した魔物の数は13体。そのうち、討伐に成功したのは4~7、そして10の5体だけ。

 "1"の魔物が現れてから百年以上経過してたったそれだけしか討伐できていないのだ。

 魔物達は顕現した場所からあまり動くことはなく、奴らが生み出す眷属達が代わりに人間の支配地域を脅かしてくる。

 眷属は魔物ほどの強さではないため、眷属を屠るのと魔物を屠るのとでは意味が全然違ってくる。

 だからこそ今代の魔導王は帝国最強と言われているのである。

 それを理解しての質問だというのに。


「理解しております。そのうえでの質問です。『王』になるにはどうすればよいでしょうか? いえもっと具体的に述べますと、どの魔物が今最も攻略できていますか?」


 その質問は明らかに魔物を討伐することを前提とした質問である。

 流石に上官二人も眉を顰め、こちらを睨みつけてくる。


「今期の新人はちと世界の広さを教えてやらねばならんな。でなければ外ですぐに死んじまう」


 そう言うとウルフラム曹長がニヤリと笑みを浮かべる。


「オロチといったな。お前、それだけ自信があんならちとおじさんが腕を見てやる。その粋がりが井の中の蛙ってことを教えてやろう」


 へえ、手っ取り早いじゃないか。


「私が勝てたら階級は上がりますかね?」

「そういうのは勝ってから言うんだな。ついてこい、訓練場に行くぞ」

「ちょ、ウルフラムさん。今日は軍施設の案内だけですよ」

「んなの後でもできる。ほれ、行くぞ」


 こうして予期せぬ好機に心を躍らせながら俺は曹長の後ろを追うのであった。

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