6話 英雄を目指す少年
「険悪そうだったね。昔何かあったの?」
「ん? ああそうだな。何かあったと言えばあった」
以前は俺が声をかければニコニコしながらこちらに来ていた気がする。
俺はどちらかといえばさっきとあんまり変わらない感じだったが。
つまりシオンの方に何か心情の変化が起こったという事だ。それが何かは恐らく事件の後に起こった事だろうし俺には分からない。
それにしても軍が“生存者1人”と断定したというのにまさか生き残りがいたとは。
そんなことがあり得るのだろうか? 魔力の残滓から個人が特定できるほどに情報収集に長けている軍が見逃すだろうか。
意図的にデータが隠されたかのような違和感を覚える。
「では第3種目を始める。とはいえ君達は第2種目を突破した時点で軍へ入隊する権利は得ている。気楽にしてくれたまえ」
第3種目は魔力の測定だったはず。そう言えばシオンは魔力がゼロだ。
魔力がゼロでも入隊できるのだろうか? もしも魔力ゼロで軍に入隊できる者が居ればかなり目立つことになる。
最初の一歩はアイツの方が上か。
「ではオロチ。まずはお前からだ」
早速名前で呼ばれるようになるとは。仲間として認めてもらったというところだろうか。
魔力測定なんていつ振りだろうか。我ながらあれからどれだけ高くなっているかを考えるとぞくぞくしてくる。
「ではこのプレートの上に手を載せろ」
そういって見ると目の前に書見台のようなものがあり、その上に手のひらサイズのプレートがある。
既に名前が記載されている。なるほどな。身分証に魔力量も記載されるのか。所属の欄は……まだ何も書かれていないか。
俺はゆっくりとその身分証らしきものの上に手を載せる。
その瞬間、何かが電流のように体の中を流れていく気がした。すべてが終わり、プレートの上に魔力量が記載される。
『S+』
……なんやコレ。数値が記録されるんじゃないのか?
「S……ぷらす? ぜ、全然驚いていないぞ。ちょっと高いなって思っただけだ」
ああん? ちょっとだ? 俺の数値がちょっと高い程度な訳がないだろう。見た感じお前よりは上だぞ。
「コホン。こ、このように魔力量はこうして数値ではなく記号で示される。何故ならば魔力量を正確に測ることなど不可能だからだ。日常で無意識に使用しているからな。ある一定の数値を超えていると予測し、こうして記号で示されることとなる」
それを俺が測る前も説明してくれよ。急に饒舌になりやがって。
それから順調に魔力測定が進んでいく。俺の魔力量以外は開示されていないため、他がどの記号なのかは知らないが、そもそも俺はこの眼で正確に他人の魔力量を視認できるため別に興味はない。
「えー僕が魔力量A+? 絶対Sはあると思うんだけどなー」
「Sがどのくらいか知らんだろ」
まあ確かにこいつより魔力量が上なのはこの場には数人程度しかいないし、それだけ自信があるのは分からんでもないが。
そして遂にシオンの番となる。相変わらず魔力はゼロのままだ。1位だからといって皆注目しているがもちろん魔力はゼロのままだ。
「……え? は? ぜっと?」
そして魔力測定が終わった後の試験官の驚いた声が聞こえてくる。
ゼット……まあZってことだよな。魔力量Zか。多分0ってことだろうな。
聞いた感じSとZは特別枠ってところだな。通常はA~Gの間だが、突出している値には特別な記号があてはめられているという事か。
良くも悪くも。
「本日はこれにて試験を終了する。記録した住所へ入隊に必要な書類を送るため、各自確認しておくように。それでは」
こうして無事試験は終了する。にしても魔力がゼロでも入隊できるんだな。
じゃなきゃ俺が困る。何せ俺の方がアイツよりも上だってことを確かめなきゃいけないからな。
「やっぱり僕が見込んだ通り君は合格すると思ったよ。これからもよろしくね、オロチ」
「ああ」
「何? あの子探してるの?」
そう言われて俺は無意識にシオンの姿を探していることに気が付く。
「オロチ」
声をかけられ振り返るとシオンがそこに居た。
その視線は以前の溌溂とした瞳は存在しない。
何の感情ものっかっていない、無機質な瞳だ。
「……生きてたんだな」
「生きてた。そう僕は生きてた。でも他の人は死んだよ」
そう言うとシオンは鋭い瞳になる。
「魔物は殺す。今生きてる奴も、僕達の村を襲った奴も全部」
復讐に囚われている。そんな感じがする。
同じ境遇だが俺とシオンとでは選んだ道が違うのだろう。
たとえ魔物を殺したとしてもそれ憂さ晴らしなだけであって何かが元通りになるわけではない。
だから俺は自分の人生を優先する。しかし、シオンは他人の人生を優先している。
ただそれだけの違い。だがそれは二人の人生を大きく左右する。
「英雄になる夢はどうした?」
「英雄か……僕は目的さえ果たせればそれでいい。だけどオロチは違うみたいだね」
そう言うとシオンはこれ以上話すことなどないと目を瞑り、俺の隣を通過する。
「僕がもしも君と同じ力を持っていたらそんな無駄な夢を追いかけない」
その言葉は既に俺の知るシオンではなかった。
無邪気に英雄を目指していたシオンはもうそこには居なかった。
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