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2話 ポーラス村

「それでオロチ。結局、軍に入隊するのか?」


 腕試しがあったその日の晩、父がそんなことを聞いてくる。

 元々、『腕試し』というのは入隊志願者を募るために行っているイベントみたいなものだ。

 もちろん入隊する気満々だった俺は首を縦に振る。


「軍に入隊すれば様々な特権が得られる。それに栄誉も。俺は歴史に名を刻むような英雄になりたいんだ」

「英雄か。英雄になってどうする?」


 そう問われて俺は答えに詰まる。英雄になる、その先の事を何も考えていなかった。

 英雄になれば後世に名を残すことが出来る。俺という存在を世界に刻み付けることが出来る。

 だが父はそんなことを聞いているわけではないのだろうくらい俺にも分かる。

 

「ま、英雄になってもいないお前に聞いても仕方のない事だったな。だがもしお前が身に余るほどの強大な権力を手にした時、お前にはその力の責任が付きまとう事をよく理解しておけよ」

「はい」


 てっきり軍に入隊することを拒否するのかと思いきやそうでもなかった。

 結局それだけ言うと父は別の話をはじめそれきり軍への入隊の話をすることはなかった。

 だが、俺の中でずっと「力の責任」という言葉が反芻されていた。

 咀嚼して理解しようとしてはまた吐き出し、何度もそれを繰り返す。頭の中で続けた思考に決着がつくことはなかった。


「俺は英雄になって何をしたいんだろう」


 弱者を助けたい? 違う。金が欲しい? いやそうでもない。

 ただ俺という存在を歴史に刻みたいだけなのかも最早分からない。

 晩飯を食べ終わり、二階にある自分の部屋から窓を開け、外を眺める。

 いつも通りののどかな風景。俺はもうこの風景に飽き飽きしているのかもしれない。

 『腕試し』後、俺とシオンは軍へ勧誘された。ま、俺はすぐあの場から去ったからわざわざ探し出された後、勧誘されたわけだが。

 その場では決まらないだろうからといったん帰され、明日入隊の意思があるかどうかの確認が再度される予定だ。


「……あいつも入隊するんだろうな」


 当たり前のように下だと思っていた存在が気が付けば俺と同等、いやあの「腕試し」においては俺よりも上の存在となっていた。

 そのことを認めたくないような認めてしまいたいような。

 だが俺はそれを認めてしまったらこれ以上の存在になれなくなってしまう気がする。もちろん、英雄なんて遠く及ばないだろう。

 だから俺は認めない。あいつが俺よりも上だという事を。

 そんなことを考えながらぼんやりと外を眺めていた時であった。

 遠くの森の方から大量の水が蒸発したんじゃないかってくらいの煙が立ち上がっているのが見える。


「何だあれ?」


 視界の端っこにしかない程度のただの小さな違和感であった「それ」は徐々にその存在を大きく広げ始める。

 それを見て俺は心臓の鼓動が早くなっていくのが分かる。あり得ない。

 あんなに濃密な魔力、今まで見たことがない。それこそ今日会ったどの軍人よりも大きなその魔力はやがてとんでもなく大きな化け物へと姿を変える。


「魔物だ!」


 俺はすぐさま1階へと駆け下りていき、父と母に魔物が発生したことを伝える。


「魔物? んなのこんな何もない所に現れるか?」

「ホントなんだ! 村のすぐ近くに居たんだ!」

「あなた。この子がこう言うくらいだから本当じゃない?」

「そうか。じゃあ少し外を覗いてこよう」


 そうして家族全員で外に出ると、外では村で寝泊まりしていた軍人達が早速村人たちへと声掛けをしている最中であった。


「魔物が現れました! 皆さん! 速やかに避難の準備を!」

「魔物だーーーー!!!! みんな逃げろ!!!!」


 口々に村人たちが伝言していく様子はただ事ではないことが分かる。


「本当じゃないか。母さん、オロチ。すぐに逃げる準備を」

「「うん」」


 その時はまだ誰も知らなかった。“魔物”という存在がどれほどの脅威であるかを。そして目の前に見えている時点で既に手遅れであるという事を。

 数瞬後、凄まじい爆発音が聞こえた。

 俺は咄嗟に防御魔法を発動する。まだまだ子供であったというのと咄嗟の出来事であったというのとで自分だけしか守ることが出来なかった。

 体が吹き飛ばされる。何が起こっているのか理解が追い付かなかった。

 防御魔法を貫通して痛みが全身を迸っていく。

 

「……いってぇ」


 霞みかけた視界がかろうじて村の状況を映し出す。先程まで平和であったのどかな村はそこにはない。

 あるのは何かが落ちた後であろう痕跡と、瓦礫の山だけ。


「父さん、母さん?」


 全身が痛むのをこらえながらも俺は先程まで一緒にいた存在を探す。

 早く逃げなければならない。それは分かっていた。だが本能的にその行動をとってしまったのであった。


「危ない!」


 立ち上がったところで誰かに体を抱きかかえられる。そして次の瞬間、俺が元居た場所を抉り取るほどの凄まじい衝撃波が通り抜けていった。


「……ちっ、仲間も全滅。見たところ村人も生存者はこの子だけか。さっきの一撃で全部いかれちまった」


 抱きかかえられながら聞こえてくる呟きで状況を理解する。

 村人は全滅。その言葉が重くのしかかってくる。


「オロチ君だったよね? しっかり掴まってて」


 そう言うと俺を抱えていた人物は凄まじい速度で走っていく。俺はそれにただ無言で従うしかなかった。


 後に判明した村人の生存者数はたったの1人。第13の魔物である“白き悪魔”が世界に顕現したことによって引き起こされたこの事件は“ポーラス村の悲劇”と呼ばれるようになる。文字通り、俺の故郷はその日地図上から消えることとなった。

ご覧いただきありがとうございます!


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