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1話 出来損ないと天才

 正直、俺は天才だ。何を求められてもそのすべてに答えることが出来た。

 そしてきっとそれは生涯にわたって続くことだろう。


「オロチ君凄い! もう魔法を習得できたの!?」

「ねえ見せて見せて!」

「はいはい、分かった分かった」


 村の友人達が俺の下に集まってきてそう懇願してくる。

 魔法、というのはこの世界に浸透している不思議な力だ。未だ全貌は解明されていないらしいが、炎を操ったり水を操ったりと様々なことが出来る力だ。

 どうやら体内の器官に魔力という魔法を使うために必要なエネルギーを生成する場所があって、その魔力が脳の信号によって炎や水などの現象へと姿を変え、魔法となるのだという。

 村で唯一魔導書を読むことが出来る俺は通常であれば5年はかかると言われている魔法の発現にたった半年で済ますことが出来ていた。

 いわゆる、天才という奴だ。


「うわ~すご~い」

「ねえねえ、もっと見せて!」


 俺が魔法を使えるようになったと知った友人達はそうやっていつも俺にせがんでくるようになった。

 魔法なんて大人でも使えない人がいるくらいだから村では特に珍しいのだろう。

 そんな中、ふと俺の視界の端っこの方に一人ただ黙々と剣を振るっている奴を見つける。

 そいつはいつも暇さえあれば一人で剣を振るっていた。そしてそいつの事を俺はよく知っている。

 俺の幼馴染のシオンだ。彼はこの世界では珍しい「魔力なし」だ。

 その名の通り、魔力が一切存在しない極めて珍しい存在。

 通常、魔法が発現しないでも日常生活において魔力というものはとても重要な役割を担っている。

 都会なんかだと入場に魔力検査が必要だったりするところもあるらしい。

 それに魔力はそのまま身体能力にも影響を与えると広く知られている。

 御伽噺でも魔法が使えない勇者が魔力で強化された身体一つで龍を屠ったというものがあるくらいには。


 一方でシオンはその身体能力を補助する役目を担う魔力すら存在しない、いわゆる「魔力なし」だ。

 どれだけ剣を振るおうとも、どれだけ筋トレをしようとも魔力を持つ人間には一生敵わない。

 十歳にして魔力量が成人を大きく上回っている俺とは反対の「凡人中の凡人」だ。

 

「シオン! お前もこっち来いよー!」


 俺達が居るところから少し遠くの彼の家でひたむきに剣を振るうシオンに対して俺は声をかける。

 俺は自分の方が優れているからって決して仲間外れにしたりはしない。アイツとは昔からの幼馴染だからな。


「ごめんオロチ! 今日のノルマ後1000回ぐらいだからそれまで待って!」


 そう言うとまたシオンは剣を振るい始める。

 どうせそんなに剣を振っても魔力がないお前じゃ意味ないのに。

 

「何だよアイツ。オロチ君がせっかく言ってくれてるのに」

「仕方ないさ。だってあいつ、前の測定の時に魔力0だっただろう? 村で農作業すら手伝えないんじゃ話にならないからああやってせめて筋力だけでもつけようと必死なのさ」

「オロチ君の言うとおりだね。魔力なしじゃ将来足引っ張られちゃうもんな~」


 魔力がない。それだけでかなりの重荷を背負っているんだ。

 それなのにアイツは今でも国に仕える軍人になろうと必死に努力している。

 それを俺は少し冷めた目で見ていた。

 軍で結果を残して、英雄になるのは俺みたいな天才にしか可能性がない。

 何故なら軍の内部でせめぎ合いをするのはいつも「天才」同士だけだからだ。

 そこに凡人が、ましてや魔力なしという凡人よりも下のシオンがそれを志して日々努力しているのが滑稽にしか思えなかった。

 魔力が無ければ戦果を挙げられないことは誰にでもわかりきった事。

 

「シオンも馬鹿だよな~。どうせ軍人になんてなれっこないのにさ」


 そうやって俺はまた村の友人たちの輪に戻るのであった。





 俺がちょうど十五になった頃、村で盛んに行われていることがあった。

 それは「腕試し」だ。

 つい最近、魔物が凄い勢いで発生した影響で入隊志願者を募るべく、俺が住んでいる村にすら軍人が来ているのである。

 魔物とは、この世界に時折現れる理外の生物の事を指す。通常の動物とは違い、災害のように突如出現し、周囲を破壊しつくす存在。

 神の使いとも言われるそれはたびたび人類滅亡の危機を引き起こすほどに強力なものも現れる。

 話を戻すがその軍人が直接視察している間、多くの活気ある村人たちがその軍人達と「腕試し」と呼ばれる戦いを挑んでいた。

 魔法でも何でもありの「腕試し」だ。剣はむろん木剣だが、致命傷を与えない程度の魔法が使用可能とのことで俺ももちろん挑むことにした。


「へえ、その歳でもう魔法が使えるのかい?」

「はい。大型魔法でも余裕で使えますよ?」


 大型魔法とは魔物に対して有効打を打てるほどの強力な魔法だ。

 通常魔法、大型魔法、超大型魔法、特大魔法と魔法の強力さには段階がある。

 普通の人であれば通常魔法までしか習得しようとしないが、周囲の環境的に必然と軍人を目指していた俺は当然のように大型魔法まで習得していた。

 そしてそれを知った女性の軍人はほほうといった目でこちらを見てくる。

 この感じ、いつもと一緒だ。

 特段俺の中では凄くない程度の事でも驚いてくれる。え、これくらいでいいんだって毎回思う。


「あ、あの! 僕もお願いしたいです!」


 そんな俺と軍人とのやり取りに割って入ってきたのがあの「魔力なし」のシオンであった。

 何だよこいつ。今は俺の番だろ。

 そう思っても俺は心にとどめておく。こいつは魔力がないから必死なんだ。才能がある俺とは違うんだから仕方がないじゃないか。

 そんな俺に対して軍人は思いがけない一言を放ってくる。


「いいね。じゃあ君たち二人で私にかかってきなさい」

「え、でも」


 咄嗟に声が出た。まさかそんな事になるとは思ってもいなかった。

 せっかく俺の力を軍人に示せる良いチャンスだったのに。

 不満げにシオンを見つめるが、当の本人は嬉しそうに「はい!」と頷いている。

 仕方ないな。


「オロチ、一緒に頑張ろうね!」

「ああ。足引っ張んなよ?」

「分かってるさ!」


 相変わらず健気な奴だ。これだから憎みたくても憎めないんだな。

 そんな事を思いながら俺は全身に魔力を張り巡らせていく。こうすることによって身体能力も防御力もけた違いに跳ね上がる。

 戦闘では普通の者ならばまず最初にそうする。

 しかし隣の男はそうじゃない。

 一向に魔力を全身に張り巡らせないシオンを見て軍人も首を傾げる。


「あれ? 君も戦うんじゃないのかい?」

「はい! 戦います!」

「じゃあどうして魔力を使わないの?」


 それを聞かれてもシオンは濁すことなくはっきりと伝える。


「僕は生まれつき魔力がありませんので、使わないんじゃなくて使えないんです」


 それを聞いた軍人からは明らかに落胆の雰囲気が伝わってきた。

 こいつのせいで俺まで株が下がったんじゃないだろうな? まあ、いいさ。

 絶対的な実力を見せつければ良いだけの事。


「それじゃあ始めさせてもらうよ!」


 先に向こうから動き始めた。

 たゆまぬ鍛錬によって培われた肉体が魔力によって更に増幅し、目にも止まらぬ速さでこちらへと迫ってくる。

 狙いはどうやら俺みたいだな。なるほど、厄介な方から倒そうってか?


「受けて立つ!」


 対する俺は地面を凍らせ、軍人の進行を阻害する。

 いくら魔力で強化していようと咄嗟に氷を踏んで滑らぬ者はいない。

 それを理解したのか軍人もすぐさま進行方向を変える。

 まあこれくらいじゃ止められないだろうな。だから……


「そっち危ないですよ?」


 俺が魔法を発動すると軍人が足を着いた地面が一気に隆起していき、そのまま体を上空へと吹き飛ばす。

 よし、うまくいった!


「すごいや、オロチ。僕も頑張らなくちゃ!」


 お前に何ができるんだよ。そう思った俺の目の前からシオンの姿が消える。

 一瞬、意味が分からなかった。

 気が付けば、地面から打ち上げられた軍人の下にシオンが迫っていたのだ。


「はあああああ!!!!」


 そしてそのまま剣を振りぬく。

 それだけであれば態勢を崩していると言えど腐っても軍人だ。

 それも未曽有の大災害である魔物と日々対峙しているような。

 しかし、その剣捌きはあまりにも早かったのだ。

 

 木剣がまさに軍人の体を横薙ぎにせんとしたところで、軍人の体から火の魔法が発せられ、シオンの持つ木剣が一瞬にして塵と化す。

 それを見て俺はほっとする。

 何だ結局魔法には敵わないんじゃないか。

 ちょっとだけ驚いたけど、まだまだだな。そう思って俺が魔法で追撃しようとしたところで軍人側から待ったがかかる。


「勝負ありだ。我ら軍人は「腕試し」で魔法を使えば反則だからな。君達の勝ちだ」


 それは唐突に告げられた自分たちへの賛美であった。

 未だに軍人に対して勝利を挙げた者は居なかったため、俺達が初の勝利者となった。

 シオンは隣で飛んで喜び、こちらへと顔を向けてくる。

 対する俺はどこか悔しい思いを胸に抱きながら何も言わずにその場を後にするのであった。

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