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なろうラジオ大賞6

カレンダー舞う空

作者: 壊れた靴

 小春日和の青空から、一片の紙がゆっくりと降ってきた。

 日めくりカレンダーの一枚らしい。ひらひらと揺れながら、次々に降ってくる。

 見上げると、屋上に見慣れた彼女の顔があった。からかうような笑顔を浮かべている。

 目的地でもあったその建物に入り、屋上に向かう。

 それなりに広い屋上には、見かけたことのある人の姿も幾つかあった。

 全ての日付を降らせたのか、彼女はベンチに座っていた。俺に気付くと笑って手を振る。

 苦笑しながら、彼女の前に歩く。

「なにやってんだ?」

「遅刻に慌てた落ち葉みたいで、趣深いでしょ?」

「全然」

「風情ってものが分かってないよね」

「はいはい。風情はいいけど、掃除する人の身にもなれよ」

「それは、まぁ、ごめんなさい」

 ばつが悪そうに笑う彼女に肩を竦め、彼女の手に残ったカレンダーの枠を見る。

「どうしたんだ? それ」

「貰ったの」

 誰からかは言わないらしい。貰ったというのは嘘かも知れない。

「貰いものを無駄にして良かったのか?」

「無駄じゃないでしょ? 私の気晴らしにはなったんだから」

 苦笑して、彼女の隣に座る。

「そっちこそ、こんな所に来るなんて、時間を無駄にしてるんじゃない?」

「お前の気晴らしになるなら、無駄じゃないんだろ?」

 彼女が声を上げて笑う。

 しばらくは、どちらも何も言わずに空を眺めていた。

「寒くないか?」

「今日はちょうどいいかな。いつもこうならいいのに」

 彼女が笑う。また、二人で空を眺める。

「もうすぐ、冬が来るね」

「ああ」

「やだな。ここ、お気に入りなのに。寒くなったら、来れなくなっちゃうよ」

「すぐに暖かくなるだろ。カレンダーでもめくりながら、楽しみに待てばよかったんだ」

「そうだね。やっぱり、破かなきゃよかったな」

 彼女は困ったように笑った。

「お前の誕生日も、その頃だろ。何か欲しいものはあるか?」

「考えておくね。どうせなら、高いものがいいよね」

 彼女の笑顔から目を逸らし、空を眺める。

「そっちも、もうすぐでしょ? 欲しいもの、あるの?」

「特には、ないな」

 空を眺めたまま答える。きっと、俺たちが欲しいものは同じだろう。

 風が吹き、日めくりが二枚、空に舞った。彼女が隠していたらしい。

 立ち上がって掴むと、俺と彼女、それぞれの誕生日だった。

「ホントはさ、沢山ある日めくり見てたら、悲しくなっちゃったんだ」

 背後から聞こえた彼女の呟きに、俺は何も答えることが出来ず、青空を見上げたまま、手の中の日めくりを握りつぶした。

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