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第6話

《sideブラフ》


 トオル・コガネイ。


 私は正直に言えば彼には期待していなかった。

 ただ、私と同じ境遇の、孤独な人間であると思ったからこそ手を差し伸べた。


 だが、鍛治ギルドで披露した彼の技術は素晴らしい物だった。

 私の目の前で彼が作り上げた椅子を見て、彼は私とは違う人種の人間だと感じてしまったのだ。


「やるじゃねぇか!」


 鍛治ギルドのアンガスギルドマスターは気難しい人で有名だ。

 王族が注文をしても、仕事を引き受けてくれるのかわからないと言われるほどに気難しく、仕事に厳しい方だと言われている。


 そんなアンガス殿が嬉しそうに笑って、トオルの作品を褒めた。


 それだけじゃない。


 異世界人は旅に慣れていない者が多く。

 旅が始まれば、トオルは足手纏いになることを考えていた。

 しかし、テントを張るのが早く、石で囲った窯を作って鍋を置いて料理を作り始めた。外で温かい料理を食べるなんて聞いたこともない。


 いくら魔避けの石を置いていると言っても、魔物が寄ってきてしまう恐れがあるからだ。だが、そんな常識のないトオルは温かくて美味しい料理をたくさん作ってくれた。


 その料理は王都で食べる豪華な料理よりも美味しく感じられるほどだ。

 そんな料理を食べられるなら苦労は厭いたくない。

 私は具現化魔法を発動して、野営地の周りに結界を作るようにした。


 ……五日間。


 私たちは運良く魔物にも、盗賊にも襲われることなく関所を抜けることができた。

 

 冒険者ギルドだけでなく、鍛治ギルドの身分証を持っているトオルのおかげで、我々は貴族としてではなく職人として関所を通ることができたので、私の身分で騒がれることもなかった。


 鍛治士としての腕、料理の味、そしてキャンプ慣れしたトオルは、私が考えていたよりも有能な人材だった。


 冒険者ギルドがある街にたどり着いた私は護衛を雇って、領地までの道のりを歩み始めた。そこでもトオルには驚かされる。


 地方の冒険者は、あまり態度が良くない。

 それに質も悪いので、盗賊紛いの者もいると言われている。


 ランクが高いということで雇いはしたが、私はミギとヒリを疑っていた。


 だが、そんな私の心配もトオルの料理とコミュニュケーション能力の高さで杞憂キユウに終わってしまう。


 トオルが明るく二人を食事に誘い。料理を食べた二人がトオルのことを気に入って冒険者としての仕事をまともに行ってくれたのだ。


 王都で聞いていた地方冒険者の質低下問題が心配されていたが、結局は人と人の付き合いをしっかりしていれば大丈夫なのだとトオルに教えてもらった。


 全てがトオルに世話になりっぱなしな状況だったので、領地では私がトオルに良いところを見せたいと思って、異世界人が慣れていない魔法を披露することにした。


 トオルの能力であるカタログ召喚で、出してもらったカタログは見たこともない精巧な絵が描かれていた。

 あの薄い冊子だけでもかなりの高値で売れるのではないか? 異世界の情報が詰まっているだけでも凄いことだ。


「見ていてくれ」


 私はトオルに良いところを見せようとして具現化魔法を発動した。


 ユリウス兄上からは役立たずと言われた、鑑定魔法でカタログの中に記された内容を鑑定して、トオルに詳しい使い方を教えてもらった上で具現化していく。


 かなり巨大な物だったので、発現するだけでもかなりの魔力を消費した。


 うっ、気持ち悪い。


 だけど、トオルには知られたくない。

 役立たずと思われたくない。


「おい! ブラフ!」


 ああ、ごめん。やっぱりダメだ。


「少しだけ少しだけ休めば大丈夫だから」


 情けない。


 どうして、私は普通のことができないんだろう。

 良い格好をしようとして、倒れるなんて本当にダメなんだ。


「帰るぞ」

「ぇ」


 声にならない声が私の喉から漏れる。


 大きなトオルの背中に抱き上げられて、オンブされていた。

 子供の頃から、乳母以外に抱き上げられたことなどない。


 セリフォス兄上にも優しくはされなかった。


 色々と教えてはもらったけど、直接触れて、誰かに心配されて優しくされることなんてなかった。


「軽いな」


 さっと、恥ずかしくなる。


 小柄で、ガリガリで男らしくない。

 情けない体をしている。


 いつの間にか、トオルの大きくて温かい背中に身を預けて眠りに落ちていた。


 気がつくと、自分のベッドの上にいて、トオルにオンブされた記憶が蘇ってくる。


「今のままじゃダメだ」


 このままトオルに頼りきりの領主じゃダメだ。


 そう思って起き上がってトオルの元へ向かえば、食事が用意されて掃除をしていた。洗濯も、掃除も、料理も、まともにしたことがなくて何もできない。


「領民を雇わないか?」


 発案まで、トオルの方が領主のようだ。


 だけど、トオルの言うことは正しい。だから考えよう。

 自分に出来ることは何か? 自分はどうすれば、領主として、トオルを雇う者として正しくいられるのか? 


 ユリウス兄上が言ったことも考えなくちゃならない。

 

 セリフォス兄上が本当に私を蹴落とすためにやっていたのか? 実際に私はセリフォス兄上からたくさんのことを教えてもらった。


 そして、セリフォス兄上が用意してくれた領地も手に入れた。


 だから、ここで頑張れることをやっていこう。


 今は、トオルの方が凄い。

 

 だけど、トオルは私の魔法を凄いと言ってくれたんだ。

 私にも出来ることはあるはずだ。



どうも作者のイコです。


序章を読んでいただきありがとうございます!


どうぞ応援よろしくお願いします(๑>◡<๑)

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