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ひさしぶりに学園に行ったエイデンは、友人たちから歓迎され、ひっぱりだこだった。フィルミナのファンも多く、しかしフィルミナが王子から不当に扱われていることを、あれこれ噂話として聞き、エイデンはそれを友人たちに確認していた。
しばらくすると、王子たちが登校してきた。
「久しぶりだな、エイデン。復学か?」
そう言って爽やかな笑みを見せる王子の隣に、初めてみる少女がいた。王子に腕を絡ませて、「どなた?」と訊く。王子が「ああ、幼馴染で、ケラニー侯爵家の嫡男、エイデンだ。ゆくゆくは側近となる者だよ。」というと、エリンの目がきらりと光った。
「はじめまして、エリンと申します。」そう言ってにっこり笑う。「熱っ」その時、エイデンがつけていたブレスレットが熱を帯びた。エイデンは朝登校するとチャーリーと会い、出掛けにアランからもらったブレスレットだと渡された。
「兄からもらった。魅了の魔法や媚薬などを無効化するものだそうだ。攻撃にあうとこれが熱を帯びるんだそうだ。 俺はこれからマリー嬢と会ってくる。また、あとでな。」
エイデンは、なるほど、と納得した。
「エイデン・ケラニーと申します。お目にかかれて光栄です。」
エイデンは王子に対して、懐かしそうに口を開いた。
「やはり学園はいいなあ。領地は辺境にあるので刺激が少なくてつまらんよ。これからまたしばらくこちらに通うことになるので、よろしく頼む。・・・ところで、この美しい方は?」
エリンは王子を見上げた。王子は
「ああ、フィルミナからもう聞いていると思うが、フィルミナとの婚約は近く解消する。今はエリンと婚約をするべく父上に話をするところだ。」
「それは初耳です。フィルミナがなにか不都合なことでも?」
「いいや、特にどうということでもないのだが、まあ、女の嫉妬というのだろうか。エリン嬢は少々優しすぎるところがあるので、俺が守ってやらねばならない。」
「そうですか。」
エイデンはそれだけ言って、熱のこもった目でエリンを見、手の甲に口づけた。エリンは嬉しそうに微笑んだ。王子の取り巻きたちは、皆そんなエリンを微笑んで見ていた。
「エイデンとも久しぶりだからな。近く開かれるパーティーには出るのだろう?」
「そうさせてもらおうと思っている。きょうはこれから復学の手続きをする。」
そう言ってエイデンはもう一度エリンを見つめ、「じゃあ、また」と王子に言い、「エリン嬢」と言ってその場を辞去した。
「エイデン様とおっしゃるのですね。フィルミナ様のお兄様。そういえばフィルミナ様はどうしていらっしゃるのかしら?」
「さあな、このごろあまり見ないな。」王子は興味のなさそうな顔でそう言った。
チャーリーは学園につくと、早速マリー嬢に会った。マリー嬢は可愛らしくて、チャーリーは兄はまだ婚約者もいないのだが、マリー嬢に恋をしたチャーリーは父に頼み込んで婚約した。マリー嬢はフィルミナとはとても仲が良いのでいろいろと心配している。
「チャーリー様、きょうはフィルミナはおやすみかしら。」
「そのようだ。エイデンが来ていてそう言っていた。」
「まあ、エイデン様がお戻りに? 良かったわ。これで少しはエリン様の目に余る態度が改まるといいんだけど。」
「目に余る態度というのは?」
「もうすっかりパトリック様の恋人気取りでね、1日中べったりなんです。歩く時は必ず腕を組んでるし、パトリック様の取り巻きも、エリン様がパトリック様の婚約者でもあるかのように接してるわ。フィルミナはパトリック様に頬を叩かれたり、腕をひっぱって倒されたりしたのよ。でも、フィルミナは陰で泣いてるだけ。この間はフィルミナは食堂でエリン様に足を引っ掛けられて倒されたのよ。全く、目に余るわ。」
「なんと、そんなひどいことになっているのか。」
「なんでもね、今度のパーティーでパトリック様はフィルミナとの婚約を解消して、エリン様と婚約すると言っているそうなの。ひどくない?」
「フィルミナはそのことを知っているのか?」
「さあ、どうかしら。ついこの間フィルミナはパトリック様に婚約を解消したいならと訊いたんだけど、パトリック様はそれが難しいとわかっていってる嫌味な奴だって頬を叩いたし。」
「なんだそれは。兄上が聞いたらなんとするだろう。」
「ふふ、お兄様は前からフィルミナのことお好きですもんね。お似合いよね。フィルミナもお兄様と婚約すればいいのに。お兄様はまだ婚約とかなさってないんでしょう?ちょうどいいじゃない。そしたら私達、義姉妹になれるわ、素敵じゃないこと?」
「ははは、マリーは気が早いなあ。でも、そうなると良いな。」
「ほら、噂をすれば、パトリック様とエリン様よ。」
パトリックに腕を絡ませ、体をぴたりとつけたエリンを見ると、チャーリーは思わず身震いがした。
「行こう、今は会いたくない。」
チャーリーはそう言うとマリーを伴って逃げるようにその場を去った。
「マリー、その、話があるのだが。」
「はい、なんでしょう?」
「もし、もしもの話だ。もしも、というだけなので、心配することはない。」
「なんですか?そんなに心配になるようなことなの?」
「いや、その、なんだ、もし僕が平民になったら嫌か?」
「え?平民に?なるんですか?」
「いや、あくまでもし仮に、という話だ。」
「チャーリー様、私はチャーリー様が公爵のお家のご次男だから好きなんじゃありませんの。チャーリー様だから好きなんです。ですから、平民だろうが仮に王様だろうが、好きなことは変わりありませんわ。」
「ああ、マリー、ありがとう。これだから僕はマリーが好きなんだ。」
「ふふふ、ねえチャーリー様、それではもし私が平民になったら嫌いになります?」
「なるわけがない。僕は素顔のマリーが好きなのだから。」
「よかった。でも、正直言うと、平民のほうがいいな。」
「なぜ?」
「平民だったらめんどくさいパーティーとかないし、フィルミナみたいに婚約させられて縛られる、みたいなこともないですもの。気楽でいいわ。それに、平民になれたら私もなにか仕事したいな。」
「僕は、もうこれからはお貴族様って時代ではないと思っているんだ。もっと自由に実力で勝負をするような世の中に変わっていくと思う。そうなった時に、慌てないように、今から心構えを持っておきたいんだ。」
「チャーリー様って、素敵ね。私、チャーリー様にふさわしくなるように頑張りますわ。」
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